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第1話 「到着」

 

 ────もうどれくらいの距離を歩いただろうか。そう思いながら、一人砂漠の道を進んでいく。


「はぁ……」


 体を焦がすように照り付ける太陽の下、大きくため息をついてわたしはその場に立ち尽くした。数日間砂漠を旅している間にすっかり汚れてしまった下衣を見ると、たびたび故郷のことを思い出す。絹で見繕ったそれは村を出るときにわたしの祖母が編んでくれたものだ。


「村のみんなは今頃なにしてるのかな」

 もうしばらくは故郷へ帰れないと思うと、途端に家族や友人のことが恋しくなってくる。

 それに砂漠の夜を孤独で過ごすなんていうのは年頃の少女の身には堪えるだろう。そんな愚痴を言いながら、わたしは寂しさを紛らわしていた。

 道中は景色に変化も無いので面白いものではなかったが、これから訪れるであろう新しい日常に思いをはせていたので苦にはならなかった。




 わたしの名はエレナ。齢は十六。王都から少し離れたところに住んでいた田舎の人間だ。

 赤みがかった明るい茶髪は、邪魔にならないように肩の高さまで切ってある。故郷の女性はわたしのことをべっぴんさんなどと言うが、男性からすれば「まだまだ子供」だそうだ。

 ちなみに男女交際などはしたことがない。




 王都の城門が見えてくると、わたしの足取りは軽くなる。目の前に見える四角形の石造りの建造物に、木の板が二枚、無理やり押し込まれたようなつくりになっている。建物は二階、いや三階建てといったところか。

 わたしは途端に気分が高揚して、回想をやめていた。

 城門はわたしの身長の倍はあるように見える。その巨大な二枚の板をひとおもいに叩いたが、見事にビクともしない。


「…………」


 城門を開けるためになにか作法でも存在するのか。なんてことを考えたがよく見ると門の横に鐘がとりつけてある。

 なるほど、これで外来者は王都への訪問を城門の中にいる兵士に伝えるのだな、とわかった。

 そもそもこの大きさの門を人の手で扱うことは困難だろう。

 内部に扉を開ける仕掛けがあって、この鐘を鳴らすと兵士が仕掛けを作動させるといったところか。疑問が解消した途端恥ずかしくなりわたしは顔が熱くなる。

 しばらくすると、頭上から中年男性の声が聞こえてきた。


「どうしたお嬢ちゃん。一人かい」


 見上げてみると城門にとりつけられたバルコニーから声の主が顔を覗かせている。その体型には少しばかり小さく見えるキルトの服を身につけた男であったが、決して太っているわけではなかった。涼しそうな頭をした────例えるならそう、草原のような頭をしたハンサムな男。ちなみに金髪である。


「はーい! 砂漠の向こうから一人で来ましたー!」


「一人で!? お強いお嬢ちゃんだ!」


 気の良さそうな人でよかった。王都の人間は気が難しいものだと勝手に思っていたがそれも違ったようだ。


「それでお嬢ちゃんよ、通行証は持ってきたか?」


「へ? 通行証?」


 王都に入るために通行証がいるとは誰からも聞いていなかった。当然そんなものは持ち合わせていない。


「すみません、持ってないです!」


「じゃあ通すことはできない」


 それまで気の良さそうだった男性の顔から笑顔が消え、バルコニーの戸が勢いよく閉まる。

 生暖かい乾いた風が、まるで同情するかのように肩を叩いた気がした。




「ええ!? 通れないんですかー!?」


 返事は返ってこない。非常に困った。まさか王都に入れずに旅を終えるなんて虚しすぎる。今から村に戻るのは気がひけるし、まず第一わたしの命が危ないのではないか。


「ここ砂漠ですよ!?わたし焼け死にますー!」


 なおも返事は返ってこなかった。暑さでムキになりそうだったが、ここは冷静に交渉しよう。




「……いいんですか!? 兵隊さんが幼気な少女の命を奪ったなんて街の人に知れたらクビになるかもしれませんよ! クビ!」


 冷静になんてなれるか。わたしはいま危機的状況に陥っている。なんとしてでもあの男を言いくるめてなんとしてでも王都へ足を踏み入れる。それが出来なければ先に待ち受けるのは────死。

 なんとしてでも阻止しなければならない。


「国王さんにバレたらこの国に住めなくなるかもですね!」


 いやそんなことはないだろうが。


「ほらおじさんも暑くないですか!? 外にいるわたしはもっと暑いんです! 可哀想とは思わないんですか!? あなたに慈悲の気持ちがあればそう思いますよねー!

 ゼェ……ゼェ……」


 この暑さで騒ぐのは体力を使う。これは万事休すというやつか。


「に……人間じゃない……」


「さっきから言いたい放題言ってくれるじゃないか」


「!」


 聞こえてきたのはさっきの中年男の声だ。


「やっと通す気になったんですね……やっぱりおじさんにも慈悲の心が」


「クビになるのが嫌なだけだが」


「わかりやすい嘘」


 わたしは思わず口を滑らせてしまい背中から汗が噴き出す。


「何か言ったか?」

初めて小説の執筆をしたので、投稿する際にとても緊張しました。

もしお時間が許すのならば、読んでいただけると幸いです。

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