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ぷにスラ  作者: 空魚企画部/文月ゆうり
学園都市編1
9/20

その9:にんげんの、あくい

暴力表現がありますので、ご注意下さい。


 ぽよんぽよんと跳ねる様に転がるわたし。


「やっぱ、弱えじゃん。何が使い魔だよ」

「馬鹿、扉閉めるまで喋んな」

「鍵は掛けたし、すぐにはどうこう出来ないよ」


 倉庫の埃にまみれたわたしを見下ろすのは六つの目。制服を身に付けた三人の人間の男だ。おにゃのこ不足ですな。

 制服の色から高等部の生徒だと分かる。嫌な目をした人間である。暗い、倉庫の薄暗さでも誤魔化せないくらいくらーい目をした人間だ。そもそも魔物は暗い方が物がよく見えるからね。わたしを誤魔化すことは無理だね。

 襟に付いている校章が二年生の色をしていた。セラくんのせんぱいかー。三年生のジョナサン先輩とは全然ちがーう。


「ーー防犯装置は?」

「作動してない。分かんだろ」

「魔力が感知出来ないのは、本当だったんだ」


 ひそひそ。外に聞こえないように。人間が喋る。

 わたしの視覚範囲は三人を捉えて、忙しなく働き続けている。

 タイプの違う三人。おともだちだろうか。タイプが違うからって、友達になれない訳じゃない。わたしと白スライムだってタイプが本当の意味で違うけど、仲良しだよー。友達じゃあ、ないけどね。魔物にそんな細かい分類は難しいお。友達って言う概念を持ってるスライムも、わたしくらいかなー。

 しっかし、この三人組。仲良しこよしなお友達には見えない。ーーあ! もしかして、るいはともをしょうかんタイプか! ん? あれ? ちょっと違う? まあ、良いかー? わたし、魔物だもんね。間違ってもいーのだよ。

 さてさて、目の前の人間もそろそろ焦点をあててあげよう。

 まず一人。乱暴な感じの人間。制服を着崩して、ところどころ改造もしてて、明らかにそこうのよろしくない、ふりょー。制服はセラくんみたいにキチッと着た方がかっこいいよー。だらしなーい。ジョイノくんみたいな見苦しくないくらいの崩し方は出来んかったのかね。

 続いてもう一人は、最初の人間程ではないけど、それでもきちんとした装いではなく、ネクタイを着けていない。あれだね。大胆に校則を破れないけどたしょーの抵抗はしたい、と。けっこーな、しょーしんものー。言いたいほうだーい!

 そして、ひとつ、嫌な事に気付いた。

 最後の一人。このひと、すごく、やだ。

 一見すれば、優等生。制服もきちっと着こなして、なかなか整った顔立ちに合わせて髪型もセットして、爪までしっかり整えている。暗い目がなければ、好青年かもしれない。

 でも、そんなのわたし達魔物には関係ない。どうでもいい。

 いやなのは、その魔力。わたしはこの魔力をよく知ってる。

 わたしの感情も、視線も、人間には感知出来ない。スライムは黒スライム以外なら、弱くて人間には簡単に倒せるけど、わたし達の気配は探りにくくてそれが厄介らしい。数が集まれば、脅威にもなるって教授達が言ってたー。

 でも、やっぱり悪意って言うのか、不快な感情はいわゆる第六感で感じ取ってしまうのか、いきなりエセゆーとーせいが足を振り上げて、わたしを踏み潰した。無表情に何度も何度も力いっぱい踏みつける。

 わたしは使い魔だから、契約を結んだセラくんに何かがない限り簡単には死なない。怪我はするけどね。そういうものらしいよ。使い魔の強みのひとつだねー。


「お、おい、レスト……」


 エセゆーとーせいを止めようとしたのが、ふりょーなのか、しょーしんものなのかは分かんないけど、エセゆーとーせいは止まらない。


「ーースライム如きが、あの愚図と同じのつもりか」


 激情はあるんだろうけれど、それを抑えてなお噴き出す冷たい感情がエセゆーとーせいの内側にあるんだろう。冷たい無表情で、感情の乗らない声が、多分わたしを通した誰かに向けられているに違いない。いや、誰かは分かってるけど、その人はわたしと同じ感情を君に向けてはいないと思うよ。もっと人間として純粋なひとなんだよ。エセゆーとーせいとは違って。

 わたしは魔物として純粋なんだけどね。あ、純粋さが意味合いが違ってても共通してるのか。じゃあ、しょうがない。純粋なわたし達の純粋さがエセゆーとーせいを惑わせたんだね。

 訳知り顔のわたしに、思いっきりエセゆーとーせいの靴の先が当たって、ぽーんと跳ねて倉庫の壁にぶつかった。さすがに痛い。


「ーーくだらない。どうせ使い魔は死なないんだ。痛め付けるくらいで怯えるな」

「ああ? 誰がビビってるだと?」

「やめろよ、もう少し声抑えろ」


 しょーしんものが、ふりょーに注意したけど逆効果だと思う。ふりょーは、はんこー期を拗らせてるんだよー。


「んだと!」


 ほら、注意されたから怒った。でもふりょーがしょーしんものに殴り掛かる前に、エセゆーとーせーが止める。


「おい、目的を忘れている。さっさと終わらせて、あいつの核を停止させるんだろ」


 エセゆーとーせーの台詞に、わたしの身体がぴたりと壁に張り付いたまま止まる。

 今、とんでも無い事を言った、気が、しなくもない。

 核を止めるって。わたし達スライムの核が止まると言う事はげんみつに言えば死ぬ事じゃない。それはなんとなく、本能で分かる。

 でも、その意味は。


「ーー喜べ。お前は、使い魔じゃなくなるんだ」


 エセゆーとーせーが冷たい声でそう言い放った。 


 ……とまあ、こんな恐ろしい事をエセゆーとーせーが言うてる訳ですが、核を止めるって何ー? どうやるのー? 知識とじっせんは違うんだよ。わたしに分かる訳がない。喜べとか、わたし、えむじゃないよー。

 ええと、核って言うのは、スライムにしか無い主体魔力を生成して溜めてる……石みたいなもの。これが無いとスライムはそもそも生まれない。核が先に出来るんだよ。

 使い魔と契約者の契約は、魔力によるものだから、あれ、止められると、どうなるの? 使い魔でなくなる? 魔力供給が途切れる? あ、ぴんち。ぴんちだ。本当だ。使い魔じゃなくなっちゃう。

 あわわわ、まずいまずいまずい。これは予想外でーす。

 白スライムをぽんぽんに収納事件の時から予想はしてたけど、これは想定のはんいがい。

 みんなはね! わたしが白スライムをぽんぽんにしまったことを怒ってましたけどもーーあ、セラくんとツィオーネ教授は違ったねーー、わたしはあの時、ふおんな気配を感じて白スライムをぽんぽんに隠したんですー。正当な人だす……白スライム助けでしたー。

 まあ、ぽんぽんに入れてたの忘れてて、ジョナサン先輩を泣かしちゃったんだけどね。白スライムもいえーいってやってたし、問題ないお。

 あの時狙われてたのは白スライムだった。

 今度はわたしである。

 あ、前にも、リュオくんと廊下で会った時も、いやーな視線を感じたお。あの時もわたしが狙われてたね。

 あの時も、あの時も、あの時も、わたし達を見ていたのは、このエセゆーとーせーだ。確信してる。このいやーな感じ、同じだもんよー。

 あれだね。空スライムだからって、簡単にぼっこぼこに出来ると思ってるんだろうね。出来るともー! 最弱スライムの呼び名は飾りではないのだよ。ふふん!

 前にツィオーネ教授が、空スライムが獲物を味見するって言ってたけど、あれには続きがあるのだよ。

 空スライムがほんとーに! 味見まで! こぎつけると! 思っているのかね! 無理だお!

 あれはあくまでも、そう言う事が出来る生態についてのツィオーネ教授のありがたーいご講義であって、現実は厳しいのである!

 空スライムは弱すぎるから! 味見する前に逃げ出すに決まってるでしょー! 人間を食べる? そんなの食べられるんなら魔抗石を食べるよー! そ、そしたら、おちゅうしゃだって、しなくて、済むのに……っ。

 ガチの集団戦法で、まあ、ひゃく……いや、にひゃく……ううん、千匹の空スライムが集まれば人間ひとりくらい相手に出来ると思うよ! たぶん! 戦う前に逃げ出すか、失神して死んじゃうと思うから、きぼー的カンソクだよー。

 だから、空スライムが最弱な事に変わりはないのだよ。

 だけど、わたしには使い魔と言う特別な肩書きがあるのですな。

 肩書きだけじゃなくて、能力的にも普通の空スライムとは一線を画してる訳だけど。それは契約者あってのお話。空スライムは戦闘には向いてないから、やられ放題だね。

 エセゆーとーせーがわたしの方に歩いて来て、またわたしを踏みつけた。


「……助けなんて、期待出来ないだろ?」


 冷たい、愉悦の笑み。見下せて嬉しいんだろうか。そうなんだろうか。エセゆーとーせーには、今のわたしはどんな風に見えてるんだろうか。

 ちょっとこの図、しゅーるすぎやしないかね。

 エセゆーとーせーは、わたしに何を期待してるんだろうね。スライムよ? 空スライムよ? 魔物よ? エセゆーとーせーの考え方も心理状態も分かる訳がないお。しこうかいろ、なにそれ、わからん。

 いくらセラくんに育てられたからって、分かんないものは分からんのだよ。

 使い魔と、契約者。珍しいのは知ってる。数が少ないのも知ってる。だけど、だからって、人間が何を考えるかなんて知らないんだよー。魔物だもん。


ーー面倒くさい。


 この一言につきる。魔物、考えない。

 視覚センサーを全力で働かせる。わたしの視界にエセゆーとーせー達三人が収まる。これで良い。あとは、もう、一気に片付けちゃえばおしまい。

 エセゆーとーせーの足が退けられて、変わりに手が伸びてくる。たぶん、わたしの核を止める為なんだと思う。

 でも、そんなのさせないよ。その前に、一気に、


 バンッ!


 終わらせようとしたら、大きな音がして、倉庫の扉が開かれた。あれれ、オアズケー? ふかんぜんねんしょー?


「な……っ」


 突然、薄暗い室内に光が射し込んで、エセゆーとーせー達が手で光を遮った。三人は誰が扉を開けたのかまだ分からないだろうね。わたしにははっきり見えてるお。

 その人の顔は、隠されて見えないけど、きっと悲しい顔をしてるんだろうなとは、魔物なのに分かっちゃった。だって、よく知ってる人だから。


「ーーもう、止めよう」


 その人は、普段より少しだけ力の篭った声でそう言った。


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