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ぷにスラ  作者: 空魚企画部/文月ゆうり
学園都市編1
3/20

その3:びーしょーくーかー!


 図書室の窓の外は青々いいお天気ー。だけど、今の図書室の空気はじめじめー。


「……納得いかねー」

「連帯責任。諦めて」

「なんで!? オレ関係ないよな!?」

「多分、君の成績の補習も、兼ねてる」

「ぐ……っ」


 あ! 知ってるよ! 今! ジョイノくんが「ぐうの音も出ない」状態になった! 人間って大変! あと、わたしはまたひとつかしこーくなった!

 ジョイノくんはうーうー唸ると、耐えきれなくなったのか、ばんっと机に突っ伏した。そして、わたしの方を恨めしげに見やる。


「……恨むぞソラコー」


 んま! とっても心外!


「この子に、君の成績は関係ない」


 もっと言ってやってセラくん!


「それに、子の不始末は親の責任」


 ごめんねセラくん! でも未だに不始末がわかんないおー。わたしのなにが不始末だったんだろ。わっかんなーい。


 セラくんとジョイノくんは、三日前の「ぽんぽんから白スライムぽとん」以来、なんでか放課後に図書室通いしてるんだよ。よくわかんないんだけど、わたしが白スライムを圧縮空間にいれてたのが、駄目なんだって。なんでー。

 契約者としての罰で、レポートの提出しなくちゃいけないんだよ。罰ってなにー? わたし、なんにも悪いことしてないお。弁明の機会をおくれよー。言葉通じないけど。


「――」


 ぴょんっとわたしは跳ね上がると、ぴょんぴょん跳び跳ねてセラくんの側に寄った。

 今! セラくん! ちいっちゃく、わたしの名前を呼んだんだよ! いつ聞いても、わたしの名前は綺麗でうっとり。

 使い魔は主に名前を呼ばれると、どーんと来るの。身体の真ん中にどーん! この間の白スライムもジョナサン先輩に呼ばれて、どーんときてたからセラくんがぶんぶんしなくても、ぽとんと出て来ちゃってたかもー。

 あの時は結局ぽとんしたけど、わたし達のみっしょんがこんぷりぃとしてたから、イエーイってなったんだお。……んむぅ、言いたい事が上手くまとまんなーい。

 セラくんがわたしを掌に乗せて、ゆっくりと撫でてくれる。スライムは感覚――特に痛覚が鈍い生き物だけど、この感触は不思議とよく分かる。赤ちゃんの頃からこうして貰ってたからかなあ。


 ――『おかあさん』にも、また撫でて貰いたいなあ。


「……君は、何も悪くないから、気にしないで」


 それは、何に対しての慰めなんだろう。レポート? きっと、聞いたら駄目なんだと思う。曖昧にしなくちゃいけないんだと思う。セラくんは、そういう風にしないと、生きていけないから。


「……ソラコは悪くないで良いから、どうかセラ様、レポートを手伝え下さい」

「文法おかしい」


 ジョイノくんの情けない声で、わたし的しりあすしゅーりょー。しりあす、難しいお。



 レポートが終わる気配はなく、わたしはセラくんによって図書室から放逐された。解せぬ。

 ただ、ちょーっとだけ、レポート用紙の上を自由気ままにぴょんこぴょんこしてただけなのにー。スライムらしく動き回っただけなのにー。わたしは悪くないお。

 分りやすく背中に哀愁を漂わせ……あれー、スライムには明確な部位の線引きがないとか、先生が言ってたー。じゃあ、暫定背中に哀愁を漂わせるよー。そんで、ちょぼちょぼ這いずるよー。空スライムが這い寄るよー。まあ、なんて平和なんでしょーう。……飽きた。

 誰かに可愛がられないと空スライムは寂しくて死んじゃうんだよー。わたしが今決めましたー。おにゃのこ! おにゃのこに可愛がられたいー。本当はセラくんが良いんだけどね!

 むきー! と学園の廊下をごろごろ転がるけど、誰もいっなーい。

 放課後の廊下は人気がない。みんな寮とか学園の外か、実戦室や自習室に行っちゃう。図書室はレポート組が多いよー。


 ううむ。広い広い廊下や、高い高い天井。あんまり好きじゃないー。

 セラくんがお喋りしなくなったこと思い出しちゃうんだもん。

 でも、この廊下に窓から入る風は好きー。草の匂いや土の匂いがする。

 セラくんも好きなんだよ。風が吹き込むと、セラくんは目を細めてしばらくの間、吹かれてるの。気持ち良さそうなんだよー。

 そう言えば、『わたし達のお家』の近くにはおっきな草原があって、よくセラくんとおかあさんが、わたしを連れてピクニックに行ったなあ。おかあさんが、にこにこしてて、わたしとセラくんはおかあさんのお膝を枕に……わたしはベッドにしてた! ちぃっちゃいからね! セラくんと二人でお昼寝してたんだよー。

 おかあさんのサンドイッチ美味しかったー。

 ぴゅっと、少しだけ強めの風が入り込んだ。ちょっとだけ身体を縮めて、わたしは動くのをやめる。

 どうしようかなとも思うし、めんどくさーいとも思う。


「あ」


 お。

 思わず出た感じの声がして視角範囲を暫定背後に動かせば、リュオくんがいたよー。教科書抱えてるから、自習帰りー? リュオくんえらーい。

 ぴょこぴょことリュオくんに近付くと、リュオくんが顔をしかめた。なにそれー傷つくおー。

 抗議をしようと跳ね上がる準備に入ったら、跳ね上がる前に教科書を片手に抱え直したリュオくんの手に持ち上げられたよ!


「だめ、だよ。こんな、誰もいない、場所で……」


 周りを窺う様にリュオくんはきょときょとと見回した。

 ごめんよリュオくん。せんりょなみんなのアイドルスライムを許しておくれおー。リュオくん、心配してくれてたんだねー。


「使い魔は、珍しいんだから、ね」


 リュオくんが、人差し指でわたしの身体を撫でる。恐る恐る。壊さないか、心配するみたいに。

 人間は面倒くさい。複雑怪奇。こういう時が一番不思議。


「わ、わあ、ちょっと……っ」


 わたしがみょーんと触手を数本伸ばして、リュオくんの指に巻き付くと、リュオくんが慌て出した。リュオくんがいけないんだよー。わたしの中がぽっかぽかしてきたのはリュオくんのせいなんだよー。


「え、えぇー、これ、攻撃? 甘えてるの?」


 リュオくんは戸惑いながら、わたしに指をもむもむされつつ図書室に向かってくれた。補習組は図書室がセオリーだもんね。



 スライムにも、色々あるんだお。とってもでりけーとな問題を抱えてるんだよ。

 常にぷるぷるぴょこぴょこ生きてるだけじゃないんだよ。そこんとこ分かってますかー。


「と言うことで、空スライムは主体魔力の特殊性に加え、とても警戒心が強い特長を持つのですね」


 放逐お散歩のちにリュオくんに回収から二日後。

 今日も黒スライム先輩にぴょんこしつつ、ツィオーネ教授の講義を受けてるよ。今日は空スライムが中心のお話。むふん、わたしオンステージ!


「空スライムの生態はまだまだ全容が解明されておりませんの。分かっている事は、使い魔契約を済ませば、主に対しては大変人懐こいと言う事ですね。ーー個人差は勿論ありますけれど」


 うっす、うっす! ツィオーネ教授うっす! にっこり笑顔でわたしを見たと言う事は、わたしがこじんさなんだね! 分かるよ! わたし、かしこーいよー! でもこじんさってなにー?


「……教授の、スライムを個体差とか言わないところ、ぶれないよな」


 なになにージョイノくんー。授業中は静かに受けるんだよー!

 斜め後ろの席のジョイノくんを、机の上をぴょんこぴょんこして注意したら、セラくんにぷにゃりと潰された。授業中静かに、了解した。ブーメラン恥ずかしー!

 ツィオーネ教授はにこやかにわたしを見てた。怒ってる? 怒ってるの? まだ大丈夫?

 私がぴしっと背筋を伸ばすつもりで身体全体を伸ばすと、ツィオーネ教授は教鞭をぽんと打った。


「それでは、続きですね。……空スライムの特性には、その強い警戒心が挙げられますが、同時に食いしん坊さんである事も挙げられますの」


 食いしん坊さんに、わたしはぴょこんと反応した。もしかして、ツィオーネ教授のロールケーキ様が食べられるのー。

 教授がわたしを見てくすくす笑った。とってもお上品!


「素直でとてもよろしいです。では、何故空スライムの警戒心と食欲が同列に扱われるかと言いますと、彼らは獲物の品定めも警戒して行うからなのです。とっても美食家なのです」


 ツィオーネ教授の説明に、わたしは激しく同意してぴょんこぴょんこした。そうなんだお! わたし達美食家なんだお! 美味しいものしか食べないんだよー!


「はい! 教授!」


 一人の男子生徒が挙手した。わたしも真似をして触手を伸ばして挙手した。セラくんに折られた。うみゅぅ。


「ヒュツェトくん、どうぞ」

「あの、空スライムの獲物への警戒ですが、その」


 チラッとわたしを見たひゅ、ぴゅ、ひゅちゅ……男子生徒くんは、言葉を濁した。なあにー。クッキーさんくれるのー?


「……警戒しているところを、見た事がなくて、貰った物は何でも食べてる気が……。これも、こたい……個人差でしょうか?」


 ええー! なにそれー! わたし、あくじきじゃないよー! すっごい美食家だよー! 失敬な!

 ひゅちぇ……男子生徒に抗議しに行こうとしたら、セラくんに掴まれた。うぬぬ、なんたる失態!


「そうですわね。少し説明が足りませんでした。空スライムの食事の際の警戒心は主に主体魔力を正常にする為にあるんですの。つまり、魔力を帯びた生き餌に発揮されます。この学園で提供されるおやつ類は魔力が無いので、スライムの主体魔力は変容しないのです。なので、人為的な類いを除けば、あまり警戒をする必要が無いの。現にあの子も親しい人間からしか貰っていないでしょう?」


 その通り! 今ツィオーネ教授が良い事言ったお! 悪意なき善意に飛び付くのがわたしでしょー! 美味しい善意はじゃすてぃす! ひゅちゅ……男子生徒くん、有罪!

 判決を言い渡して、指差し代わりに触手を男子生徒にびしぃっと向けたら、男子生徒がびくっとなった。溜飲を下げたのに、触手はセラくんに折られた。

 わたし、ご不満ですよー。そもそも言語が違いすぎて伝わらないことも問題だお。

 黒スライム先輩も、人間の言葉を話す時は人間の世界に無い言葉は話さないって言ってた。スライム界では、正義はじゃすてぃすとも言うんだお! じゃすてぃす言っても人間には通じないんだって!

 わたしはセラくんの影響で、人間の言語に一番近いスライムだけどね! スライムに影響与えるセラくん、すごーい。

 セラくんを褒め称える間も教授の講義は続く。


「空スライムは生き餌を補食する際、まずは味見をしますの」


 黒板に空スライムらしき絵が描かれて、生き餌らしき丸をツィオーネ教授が続けて描いていく。教授の絵、可愛いー。


「この様に、獲物に触手を巻き付かせて、獲物の主体魔力との相性を探るんです。魔物や野生動物が相手なら主体魔力は一つなので味見は短時間で問題無いのですが、主体魔力を持たず、複数の属性の魔力を持つ人間に行う際には、時間が掛かるのですね。時間稼ぎの方法は、そうですねぇ。例えばーー指などに触手をまとわりつかせて、甘える仕草に見せ掛けてみたりだとか」


 にこにこと笑ってツィオーネ教授が言った瞬間、生徒達が一斉にわたしを物凄い勢いで見た。


「あ、味見……?」


 おにゃのこが、口元をひくつかせて呟く。


「あ、あれ? 俺、昨日、指に……」

「この間のは、おやつ目当てじゃなくて、僕目当て……?」


 ぬ! 何だね君たち!

 後ろのリュオくんなんか、顔面真っ青で机ごとガッタガタ震えてる。


「……ソラコ、ねえわ、これはねえよ」


 ジョイノくんが不信感たっぷりでわたしを見た。

 むー! みんなひどいお!

 わたしはぴょんこぴょんこと、抗議した。


「大丈夫ですよ。彼女の場合は、甘えているだけですからね」


 教授のフォローに、みんなの空気が一瞬でホッと緩む。


「疑っちまって悪いな」


 ジョイノくんが申し訳なさそうに謝るから、許してあげるお。

 失礼だなみんな。味見なんて初回しかしてないのに。ねー! 失礼だよねー! セラくん!


「……皆の夢は壊さないで」


 なんで?


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