表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぷにスラ  作者: 空魚企画部/文月ゆうり
学園都市編1
14/20

その14:おくうのあい

 超スライム的~。

 これを広めようと思う。

 超スライム的~。

 うむ、言えば言う程、味が出てふかいあじわいー。

 だから、ほれ、やめたまえ。


「にゃ」


 そうか、分かってくれたか。わたし、嬉しいにょおぉぉぉう!?

 不意打ちで前肢ぱんちをお見舞いされて床の上をごろごろ転がって、わたしはそのまま壁とぽにゅっとぶつかった。痛くないけど痛いお。


「にゃにゃにゃ」


 何がそんなに面白いのか、憎きあんちくしょうが楽しげに鳴いているではないか。ぐぬぬ、ちくしょーだお。

 わたしがいかに哀れでいたいけなスライムであるか、周囲にうったえる為に、ドロドロになってみる。床に広がる空色スライム。目の毒であろうー。だから誰か助けてー。


「駄目だリー君」


 わたしが苛められていたことに気付いたおのこが、敵を抱き上げた。「にゃーん」とか不服そうに声あげてますけども、わたしの方が不服だお。

 超スライム的なわたしだから、この程度(無傷)で済んだのであって、これが白スライムだったら大変なことになってたよー。ジョナサン先輩が!

 ぷにぷに怒っているわたしを、近くにいたおにゃのこが掬い上げてくれたので、まんまるぼでぃに戻る。撫でられてごまんえつー。このおにゃのこは、セラくんの委員会の先輩だよー。


「大丈夫? もう少ししたらセラも戻るからね?」


 おにゃのこに言われて、わたしもやっと落ち着けた。

 そもそもいわれなき暴力に曝されたのも、委員会のお仕事からセラくんを迎えに来たのが運のつきだったんだよ。緑化委員会室に入ったら、まさか奴がいるとは思ってなかったんだもんよー。


「リー君、空スライム君に謝るんだ」

「にゃ?」


 奴はご主人さまであるおのこの腕の中で、きょとんとしている。なんで謝るのか分かってない。むきー! いやいやいや、超スライム的なわたしは心と収納空間の広さにはていひょーがあるからね。許してやるとも。……むきー!

 奴は、魔物であり使い魔であるケット・シー。先祖はふつーのにゃんこから派生してるっぽい。見た目白にゃんこだけど、一応はにゃんこの王さまらしいよ。

 ケット・シーは最初は一匹だったらしいんだけど、長生きしたにゃんこが魔素を吸収して魔物になって、ケット・シーと一緒にいるようになって、それで、えーと、いつの間にか大所帯になって、魔物のにゃんこを総称してケット・シーと呼ぶようになったんだって。学園に来るまで知らなかったお。魔物は、他の魔物の名前には興味ないからね。

 しかーし、あのケット・シーはおバカさんに違いないお。いっっつも、わたしを転がすんだもんよー。ケット・シーのご主人さまのミゴット先輩が言うには「リー君は、遊んで欲しいと思っている」そうなんだけど、無理だお。ケット・シー、ふつーのにゃんこよりも大きいんだよ。じゃれつきが攻撃にしか見えないお。それ以前に力加減ができない時点でみじゅく者だよ。

 寮のお隣のミケレ先輩のところのわんことは大違いだお。

 ミケレ先輩の使い魔のわんこは、クー・シーって言う魔物なんだけど、まだ子どもだから小さいとは言え、わたしに対する扱いは紳士的ー。見習いたまえ。

 ご主人さまのミゴット先輩もちょっと変わってるお。ケット・シーにちゃんと名前を付けたのに、長すぎたからって「リー君」と、あいしょーで呼んでるんだよ。意味ないお。

 まあ、わたしもセラくん以外に正しい名前で呼ばれたことないけど、わたしはいいのー。アイドルスライムはアイドルだけあって親しみのこもったあいしょーをいくつも持ってていーのー。今わたしが決めましたー。ぷふん。


「セラ、ちょっと遅いわね」


 おにゃのこが首を傾げて、委員会室の窓から外を見た。その先にはひろーいお庭があるんだよー。植えられた木や他の植物が壁になってて、中はよく見えない。あの中にセラくん達がいるんだよ。

 そう考えてからハッとした。

 そうだった! 今日のわたしは超スライム的なのだ。超スライム的にすごさなくちゃいけないのー。

 ちらっと視覚範囲を背後にずらせば、ケット・シーがじたばたとミゴット先輩の腕の中でもがいていた。ぬあー、わたしの方に来ようとしてるなコノヤロー……違う違う。違うの。今日のわたしは超スライム的なの。だから、ひろーい心で立ち向かわねばならないのだよ。

 おにゃのこの腕からぴょこんと飛び降りると、わたしはじりじりと、違う勇敢にガンガンとケット・シーの前に這い寄った。途端にケット・シーが飛び付いて来る。ぷふん。今日のわたしは超スライム的だからちょっとやそっとじゃ負けない……みぎゃああああああん!

 ケット・シーの容赦ないにゃんこぱんちに、わたしはにょろにょろ転がって、おにゃのこの足にぽにょりとぶつかった。おにゃのこが慌ててわたしを抱き上げた。やわらかーい。しあわせー。


「急にどうしたの、空ちゃん。リーちゃんにボールにされちゃうわよ」


 ボールにされた後ですお。わたしはめそめそとにゃんこぱんちが当たった場所を触手で示して、おにゃのこになでなでしてもらう事に成功した。痛くないけど痛いのー。もっとなでなでしてー。何か今日はこの繰り返しな気がする。気のせい? 気のせいだよね?

 わたしはぴっとりとおにゃのこに引っ付いてしょんぼりした。超スライム的に過ごしたかったのに、ぜんとたにゃ…………こほん。ぜんとたなん、だお。噛んでないよ? 噛んでないからね? スライムに味覚はあっても舌はないからね。だから噛んでないの。わたしがそう決めたのだよ。分かったかい!


「今日の空ちゃんは、ちょっと行動的と言うか、無謀さんね?」


 なんですとー。え、え、むぼーさんに見えてるの! 格好いい空スライムになってるつもりだったよ。そうなの? 人間にはそう見えてるの? ふっしぎー!

 まあとりあえずは、このまま撫でられておくよー。せんりゃくてきてったい、なのー。わたし頭良い! ひゅー!

 しかし、超スライム的に過ごすには、しょーがいが多いおー。無理無理ー。

 でも困難に立ち向かうわたし、かっこいい! むふーん。褒め称えよ皆の衆だお。可愛がっても良いんだよ? このぷにぷにぼでぃを撫でても良いのよ? わたしが幸せになるよ? 出来るなら空も飛ぶよ? 跳ぶ程度だけどー。羽生やせるからね。みょーんと触手を束にしたら羽になるからね。前にやってみたら、セラくんに潰されたけどね。ぐにゅりと。なんでだろうね。分かんないお。


「空ちゃん、ちょっと退屈してる?」


 いえいえ、超スライム的に頑張ってるだけですお。人間に伝わらないこのもだもだ感どうしたものだろうか。まあ良いか。わたし、スライムだから気にしないお。魔物は過去を振り返らないのだよ。あれ、何かかっこいい!

 おにゃのこに抱かれながら、わたしはケット・シーを見てぷいっとそっぽを向く。もう良いお。あいつは良いお。超スライム的活動から除外しておくよ。危ない橋は渡っちゃダメって誰かが言ってたからね。わたしは忠実に守るよ。わたし、えらい!

 人知れず悦に入っていると、中庭からの入り口が開いてセラくんが他の委員と一緒に入って来た。セラくーん!

 ぴょんとおにゃのこの手から降りて、おにゃのこに触手を振るとセラくんに向かって一直線に突撃ー。寂しかったのよセラくーん!


「……迎えに、来てくれたの?」


 その通りだよー! セラくんの胸にだーいぶ! セラくん、午後の授業振りー!


「セラ、お帰りなさい」

「セラ君、ご苦労様」

「いえ……」


 おにゃのこ達がセラくんを労った後に、他の委員も帰ってきた。ミゴット先輩達がまた労いを口にしようとしたところで、わたしはぴょこんとセラくんの胸から跳ねて、委員のおにゃのこおのこ達に次々に飛び付いた。


「きゃ」

「わっ、どうした!?」

「なになに!?」


 委員のおにゃのことおのこ達が驚きと戸惑いの声を上げてるけど、気にしなーいーのー。掌や頬や肩にすりすりと身体をすり寄せて甘えるお。

 一通り甘えるとぴょんとセラくんの肩に跳ぶ。華麗に着地。満足満足。


「空スライム君は、どうしたんだい?」


 ミゴット先輩はおめめをぱちくりさせて、セラくんに問いかけたけど、セラくんは首を傾げて答えない。セラくんにもわたしの行動は理解できなかったらしい。セラくんにも分からない事があるんだねー。新発見ー!

 まあ、分からないのも無理はないお。なんせ、わたしの冒険の果てに見つけた超スライム的行動だからね! セラくんが委員会でいない間に敢行したのだよー。学園内だけどね。無茶をしないのもスライムらしいお。


「……」


 セラくんに無言で見つめられたけど、伝える術がないのー。取りあえず、触手をぶんぶん振ってアピールしてみたら、ぽにゅりと折られたお。しょぼん。ごまかした訳じゃないのー。精一杯のアピールなんだよー。

 あのねー、冒険の果てにルミアス先生に会ったんだよー。ほら、あの三編み女子……じゃなくて、三編みおのこ! まだあの衝撃からは回復してないお。胸の……胸ないけど、胸のときめきの痛手は大きいのー。

 それでルミアス先生が色々お話してくれたんだよー。主に使い魔の能力について。半分いじょー分からんかったよ。魔物は自分の能力にも興味はないからね。

 だけど、興味を惹かれるお話もあったんだよ。それが超スライム的行動に繋がるんだけどね。ここ重要ですよー。

 優秀な使い魔は、ご主人に忠実で心を捧げて仕えるのだよ。

 何をもってして、優秀と言うのかは分かんないけど、心を捧げると言うのならわたしが正にそうなんだよー! 心を全開でセラくんに捧げてるよー!

 そしてルミアス先生は「おくうのあい」こそが大事な要素だと言っていたんだお。

 おくうのあい。すごい言葉だと言わざるを得ない。それを体現する事が優秀な使い魔であるわたしの役目なんだよー! 優秀すなわち超スライムなんだお!

 ここに来る前にもジョイノくん達や事務員のおねえさま達に存分に甘えて来たんだよ。

 ケット・シーには挫折したけどね!

 わたしの頑張りが分かるかね!

 超スライムになれた? 何か光るものがある?

 心持ちキリッとしてセラくんを見上げたら、セラくんは深々とため息を吐いた。なんでー。


「何となく、全力で何かをして来たのは分かった」


 分かってくれたの! さすがはセラくん!


「……それで、また教室を脱走した気もするんだけど、どうかな?」


 さすがはセラくん! お見通し! すごいね通じあってるねかっこいい! だからぐわしっするのやーめーてー。ぷりてぃぼでぃが、つーぶーれーちゃうー。


 おくうのあい。いばらの道だったかー。










※屋烏の愛…おくうのあい。好きなひとに関わるもの全てが超好きー! とか、そんな感じの意味。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ