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ぷにスラ  作者: 空魚企画部/文月ゆうり
学園都市編1
13/20

その13:ぼっちスライム


 ひとりぼっちはさみしーのー。

 ひとりぼっちはたのしくなーいー。

 ひとりぼっちはおいしくないのー。

 しょんぼりと項垂れつつ、心の中で歌ってみる。寂しすぎて溶けちゃいそう。ぼっちの歌の破壊力はすごーい。

 昨日はおにゃのこ会でお菓子様を堪能したわたしだけれども、今日は違うんだよ。

 セラくん達が実習に行っちゃったから、ひとりお留守番なんだよー。こーへー性って厳しいね。

 でもでも、こーへー性を理解してちゃんとお留守番するわたしは魔物なのに、えらいんだよー。今日はいいこにしてたら、セラくんからクッキーさんが貰えちゃうんだよー! クッキーさん。うっとり。

 しかししかし、寂しさはそれでは埋まらないのだお。今はこの孤独を埋める為にも人肌を求めるおー。きゃ、わたし、大胆! いけないスライムだね!


「あらー、こっちに来ちゃったの?」


 来ちゃったのー。ぴょこぴょこと向かうのは、特別医療棟の先生のところだよー。ここなら使い魔だったら入りたい放題いりびたり放だ……


「んー……ごめんねー、空スライムちゃん。先生、今から実習の方に行かなくちゃなのよ〜」


 い、じゃ、なかっただと!

 え、え、なんで、先生も行っちゃうの。なんでなんで。

 申し訳なさそうにしている先生の手には、しゅっちょー用の医療鞄があった! 本気だ! 本当に先生はセラくん達の実習にしゅっちょーするんだ!

 えー、やだやだやだと、先生の足に絡んでみたけど、先生は止まらない。


「んー、出口まで一緒に行く?」


 それじゃあ、ばいばいじゃないですかやだー。おおお、引き留められんとは本当に非力さんな空スライムなわたし! アイドルスライムの悲しい(さが)だね! とか言ってる場合じゃなかった。うわーん行かないでー。


「ごめんねー、空スライムちゃん」


 ずるずると引きずられて、とうとう特別医療棟の出入口に来てしまった。もうダメだお。ばたり。

 困り顔で手を振りながら先生は行っちゃった。わたしはドロドロしながら地面に這いずって、とぼとぼと帰路につくことになった。

 今は授業中だよ? 構ってくれる人は先生しかいないよ? 知り合いのおにゃのこ達は実習と授業だし、事務員のおねえさまは多分しょるいせいりだよ? 実習とかのしんせー書の片付けがどうのとかいつも言ってるもんよー。知り合いのおのこ? セラくんのクラスメートくらいしかいないよー。おのこの知り合い少ないのー。

 黒スライム先輩はツィオーネ教授と実習だし、白スライムもどうせ授業ちゅ…………白スライムだーーー!

 わたしは確かに前方に見える白スライムのまん丸ぼでぃに飛び込んだ。めり込んだ。良いの良いの。わたし達形無いから無害無害。痛くともなんともないんだお。

 白スライムはあら〜とわたしをぽむぽむと触手で撫でてくれた。わたしが孤独だと白スライムは瞬時に理解してくれたらしい。さすがは白スライム!

 白スライムとぴとぴとくっつきあいながら、なんでここにいるのか聞いた。だって、ここは寮への道だよ? 今はジョナサン先輩は授業ちゅーでしょー?


「あれ?」


 白スライムが答える前に、答えが目の前に現れた。ジョナサン先輩が向こう……あっちは裏門のある方だ。裏門の方からジョナサン先輩が姿を現した。裏門で何かあったのー?

 ちょこちょこと白スライムと二人で近付くとジョナサン先輩が、わたし達を掬い上げた。あれ、ジョナサン先輩、ちょっと髪艶が悪い? 顔色はさすがに分かんないけど、ちゃんとご飯食べてる? 寝てる? お菓子様食べてる? 心なしかうさぎ仮面もへちょってる気がする。


「……そうか。今日はセラくん達は実習だったね」


 そうそう。独り寂しく這いずってたんだお。ジョナサン先輩は何してたのー。言えないこと? おのこのひみつ?

 わたしがセラくん曰く失礼にあたるらしいことを言ってるとは気付かずに、ジョナサン先輩は優しく笑いかけてくれた。


「寮で大人しくしてないと、セラくんに怒られるよ?」


 やっぱりかー。でもバレなければ大丈夫だと思うお。わたし、悪いスライムー。だめ? 怒られる? やっぱり、あうと? ジョナサン先輩告げ口しちゃう? 前にジョイノくんに告げ口されたんだお。ひどいお。

 ぴょこんぴょこんと必死に説得しようとしたけど、当たり前のようにジョナサン先輩には通じ……


「うん、内緒だね」


 ちゃったお! びっくり! 本気でびっくり! もしかしてジョナサン先輩、魔物語が話せるとか!

 びょっこんびょっこんとジョナサン先輩の掌で跳ね回ったら、そんな訳ないですわーと白スライムにツッコミいれられて冷静になった。偶然かー。興奮しちゃって恥ずかしー! ジョナサン先輩びっくりしてる。すまんよー。


「今から僕達も寮へ戻るから、一緒に行こうか」


 あー……、やっぱりかー。連れ戻しけってーかー。駄々こねてもダメな感じですな。しょうがない。はらを……スライムにお腹はないけど、はらをくくるお。

 しょんぼりとジョナサン先輩の掌に収まると、白スライムがもう一回ぽむぽむと撫でてくれた。白スライムやさしー。


「……僕も今は気を紛らせたいし、ね」


 ぼそっと呟かれたジョナサン先輩の言葉に、ぴくっと反応しかけて堪えた。頑張ったわたし。えらいぞわたし。だれかほーめーてー。無理だけど。

 そう言えば、まだ授業中のお昼前だけど、なんでジョナサン先輩はここにいるの? 何か用事? 裏門に? 何の?

 裏門は街からやって来る業者さんとかが利用する。またはこっそりと出ていきたい人とかが……


『自主退学らしいよ』


 それを聞いたのは、昨日。エセゆーとーせー達が、そうなるって、おにゃのこ達は言ってた。

 そう言うこと? こっそり出ていきたい人って、エセゆーとーせーは当てはまる? もしかして、エセゆーとーせーは今日出て行ったの? 人間的にはこれで合ってる? わたし考え違いしてない?

 ジョナサン先輩は、見送りに行ってきたの?


「……」


 聞きたくても、ジョナサン先輩には伝わらない。でも聞いちゃいけない気もする。何となくだけど。聞きたければ白スライムに聞けば良いんだよ。でもそれはしちゃいけない気がするから。何となくだけど。ちょっとこーいう繊細な部分を説明するのは、スライムには難しすぎるお。

 とりあえず、ぴとぴとと白スライムとくっつきあって、ジョナサン先輩を様子見する。ジョナサン先輩はわたし達を見て、微かに息を漏らした。笑ったのかな? うさぎの向こうは見えないから、はっきりとは分かんない。


「……僕は、変われたのかな」


 何かあったのかもしれない。見送りなら、エセゆーとーせーを迎えに来た誰か

と会ったのかもしれない。それとも陰からこっそり見送ったの? そこはよく分かんないけど、何かあったのは確かじゃないかな。スライムの勘だお。

 ぷふんと気分的に胸っぽい前面を反らすわたしを、ジョナサン先輩が撫でてくれた。


「あんなにはっきりと、断れるとは、自分でも思わなかったよ……」


 白スライムを片手に乗せて、ジョナサン先輩は白スライムに頬を寄せた。うさぎ越しだけどね。微かに、ジョナサン先輩の手は震えていて、わたしの乗る掌にも小さな振動が伝わってくる。

 お迎えのひとに、何か言われたのかな? エセゆーとーせーは、多分あとつぎとか言うやつだったはずだから、もしかしたら、えーと、うーんと、もしかして、代わりにあとつぎになれって言われたのかな? 合ってる? こーけーしゃ問題は人間には大事なんだよね? きぞくには重要なんでしょ? ジョイノくんが言ってた気がする。きぞくはややこしくてたいへーんだって。ややこしいのは嫌だね。

 そのややこしさのせいで、ジョナサン先輩は傷付けられてきたんだと思う。うむ、きぞくめ。

 でも、今日のジョナサン先輩はいつもの傷付いた時とは違うように感じる。はっきり断ったって言ってたもんね。ガツンと言えたのかな? しょーすいしてる風に見えるのは、色々悩んでたのかも。人間はいーっぱい、考える生き物なんだもんね。魔物とは違うからね。大変なんだもんね。

 わたしはごそごそと動くと、ジョナサン先輩の掌の上に、ぽとんとクッキーさんを落とした。ひぞー品だよ? 特別だよ?


「これ……?」


 白スライムから顔を離して、ジョナサン先輩は不思議そうにわたしの圧縮空間から出したクッキーさんを見つめた。そして、ふと、空気の漏れる音がした。ジョナサン先輩の唇から聞こえた。空気が柔らかくなった気がする。ジョナサン先輩、うさぎの向こうで笑った? また笑ってくれた?


「僕にくれるんだね? ……ご褒美かな。嬉しいよ。ありがとう」


 ジョナサン先輩から優しい声がする。やっぱりジョナサン先輩は頑張ってきたんだと思う。えらいお。

 ジョナサン先輩がクッキーさんを受け取れるように、ジョナサン先輩の肩に移動する。わたしは気遣いのできるスライムだからね。

 白スライムはじーっと、クッキーさんに知覚範囲を固定しているけど、白スライムは甘いものはそんなに好きじゃないから、食べたい訳じゃないんだよ。と言うか、白スライムは人間の食べ物は基本的に食べないんだよ。食感が合わないんだってー。もったいなーい! でも嗜好は魔物それぞれだからね。合わない食べ物を無理に食べる必要はないね。

 白スライムはクッキーさんを見た後、よかったですね〜と触手を伸ばして、ジョナサン先輩の頭を撫でた。白スライムやさしー。ジョナサン先輩も嬉しそうにしていると思う。うさぎ仮面の向こうは分かりづらいお。


「……二人とも、ありがとう」


 ジョナサン先輩の優しい声を聞いて、もうジョナサン先輩は大丈夫なんだと思えた。ちょっとほっとした。ほっとしたらお腹空いてきた。仕方ない。寮の部屋に置いてあるご飯を食べに戻ろうかな。ちょうど連行され中だし。ごはんー。



 実習を終えて帰ってきたセラくんに熱烈おかえりアタックをかましたところ、セラくんは怒らなかった。変わりに、撫でてくれた。


「元気になって、良かったね」


 セラくんはそれだけ言って、ご褒美のクッキーさんをくれたけど、わたしはすぐには食べられなかった。

 心がぽっかぽかだお。

 自分でも自覚はなかったけれど、ジョナサン先輩のことでちょっとだけ落ち込んでたみたい。

 そんなわたしをセラくんはセラくんなりに気にかけてくれてたらしく、わたし、愛されてるね!

 わたし、ふっかーつだお。ぐいぐいどんどん全力で行くおーーーっ!

 と、調子に乗ってびゅんびょん暴れた結果、セラくんにクッキーさんを取り上げられかけたお。死守。

 うむ。わたし、完全ふっかつ。


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