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ぷにスラ  作者: 空魚企画部/文月ゆうり
学園都市編1
12/20

その12:おにゃのこ会


 放課後を迎えた教室は、現在凍り付いた空気を醸し出していた。剣呑とした雰囲気に恐れをなしたおのこ達は壁に張り付く勢いで退避してる。

 おうおう、おのこならこの空気に飛び込んでみんかーい! わたしが相手になってやるおー! しゅっと! しゃっと! やってやんよ!


「良いですか! 今日の私達は一歩も退きませんからね!」


 ゆるふわさんが教室の中央を陣取ってびしっと言い切った。ゆるふわさんの後ろに控えたクラスメートのおにゃのこ達も拳を握ってうんうん頷いている。

 いいぞいいぞー! もっと言ってやってー!

 わたしはゆるふわさんの宣言に大興奮でびょんこびょんこと机の上を跳ね回った。きゃ! はしたないわたしー! でも今は良いのー!


「…………」


 ゆるふわさんと対峙しているのは、セラくんである。セラくんなのである。セラくんは、無言で圧力のありそうな視線をわたしに向けていた。空くよ? わたしの身体に穴が空くよ? ちょっと試しにドーナツ型になってみたらセラくんの目に険が増した。冗談は通じないと。了解した。

 しゅっと、わたしが元のまるまるボディに戻る間にも、ゆるふわさんは止まらない。


「セラさんが空さんを大切にしているのは重々承知しています。ですが! 今日だけはその信念折らせて頂きます!」


 ポキッといっちゃってー! ひゅー! ゆるふわさんひゅー! かっこいー!

 再び大興奮のわたしを、セラくんの後ろにいるジョイノくんが呆れた顔で見てくる。むむ、その程度でわたしの心は折れないよー。

 ちなみに、リュオくんもセラくんの後ろにいるお。ハラハラしてる。苦労をかけてすまないねー。きっとあとちょっとで終わるよー。たぶん。

 セラくんはひたすら無表情ー。でもおにゃのこ達は負けてない。むんっと精一杯の怖い顔をしている。かーわーいーいー。

 セラくんははあとため息を吐くとわたしを見つめたまま、口を開いた。


「どういうつもり?」


 わたしはぴょんと、思わず跳んだ。普段と変わらない無表情だけど、セラくんから黒スライム先輩に負けない威圧感が放たれているのだ。わたしはジリジリと後退して、ぽろっと机から落ちたー。痛くないけどいたいー。ゆるふわさんにぶつけたところを触手で主張したら、掌に掬い上げられて撫でて貰えた。うむ、くるしゅうない。ご満悦ー。


「いや、わざとだろお前」


 ジョイノくんのツッコミなんてきーこーえーなーいー。わざとだなんて失礼な! わざとだけど。

 いや、そんな事よりもセラくんですよ。わたしから一切逸らされない視線ですよ。

 うむ、セラくんこわーい。怒らないでー。


「セラさん! どうか! どうか私達の事を認めて下さい!」

「それ、ちょっと、言い方、おかしいよね……?」


 おおっと! ゆるふわさんにリュオくんがツッコミをいれたお! 珍しいー。

 しかし、ゆるふわさんはめげない。不屈の闘魂である。


「どうか! 私達女子一同の『おめでとう! 空さん快気祝いでお菓子パーティー』を開かせて下さい!」

「…………」


 拳を握って力説するゆるふわさん。セラくんの氷の眼差しがわたしに突き刺さる。おうおう、そうですよー。お菓子様をリクエストしたのは何を隠そうこのアイドルスライムさまですよー。だってだってだって、お菓子様をおなかいっぱい食べたいんだお! せっかくあのぐでんぐでん状態から回復したんだから、お菓子様でお祝いしたいんだよー。おにゃのこ会に参加させておくれよーう。

 前回の特別医療棟入院事件から、セラくんのクラスメートのおにゃのこ達やおのこ達はせっせと、セラくんの為にノートをとってくれたり、お見舞いにお菓子様や果物さんを差し入れてくれたのに! セラくんはお菓子様だけ返しちゃったんだよー! ひどいー! あんまりだおー。何とかクッキーさんを隠し持っても、すぐに取り上げられちゃって入院してた三日間と自室療養の三日間、併せて六日もお菓子様を食べられなかったんだよ。もう飢えてるのー。わたしお菓子様に飢えてるんだよー。

 だから、クラスメートのおにゃのこ達が快気祝いに何が良い? って、色んな絵を見せて言うから勢いよくお菓子様の絵に飛び付いたんだお。選択の余地ないね。

 それでゆるふわさん達は、許しを得る為にセラくんに対峙してるんだよー。え? 許しを得るのに対峙はおかしい? んもー、そんな訳な……あれ? なんで敵対しちゃってる図式になってるんだろー。あれー?

 チラッとセラくんとゆるふわさんを見たら、どっちもギリギリしてる感じだ。

 もうダメな感じ? へいわ的解決無理な感じ? ダメダメ? アウト?

 今更おろおろしながらぴょんぴょん跳ねても、セラくんの様子は変わらない。ゆるふわさんの掌に収まるわたしにぶりざーどな眼差しをくださっているよ。


「ーーまあまあ! 落ち着けよお二人さん!」


 そんな膠着状態に陥った空間を破ったのは、ジョイノくんだった。わたし信じてた。ジョイノくんならやってくれるって信じてたよー。本当だよー。

 ジョイノくんはセラくんの肩に腕を回して、笑顔全開。


「二人とも、ソラコの為にこんな事になってるんだろ? だったらソラコ第一に考えてやろうぜ!」

「……」

「あ」


 ジョイノくんの台詞に、セラくんとゆるふわさんがハッとしてわたしを見た。セラくんはずっとわたしを見てたけど、その瞳にはもうぶりざーどはないお。しかし、ジョイノくんを肘鉄で遠ざけることは忘れてない。ひゅー! セラくんかっこいいー!

 わたわたしているわたしに、あれ、ややこしいなこの表現……何か、何かわたしらしい表現はないものか……ぴょたぴょた? ぴょたぴょたしているわたしに二人は思うところがあったらしく、気まずそうにジョイノくんを見た。え、なに、なにか進展したの? ぴょたぴょた? ぴょたぴょたが進展のきっかけ? わたしすごい? えらい?


「……そ、そうですよね。空さんは、私達が争うのを悲しんじゃいますよね」


 待って。待ってゆるふわさん。それじゃあわたし死んじゃったみたいだよ? 生きてるよ? ぷにぷにのぽにょぽにょの現役よ?


「……そうだね」


 沈痛な面持ちのセラくん。あ、これ、わざとだ。わざとゆるふわさんに乗っかってるよセラくん。まだ怒ってるね。分かるよ。わたしはセラくんの使い魔だからね! だから怒らないでー。


「ソラコの全快祝いなんだし、今日くらい大目に見てやろうぜ? それで俺達は俺達で、セラの全快祝いしてやりてーし」

「ジョイノ?」


 ジョイノくんの言った内容が予想外だったのか、セラくんは目を軽く見開いた。セラくんはこう言うのには慣れていないから、困惑した様に目を瞬く。めずらしー。そんなセラくんも好きー。かわいー。

 ジョイノくんはリュオくんや、他のクラスメートのおのこを手招く。


「ほら、ちょうど街の方で南方料理の店が出来たじゃん? あそこなら俺達向きのガッツリ系の料理もあるしさ。セラも筋肉つくかもよ?」

「筋肉……」


 あ、今セラくんの心が揺れた。セラくんは自分に筋肉がつきにくいの実は気にしてるのだ。あれ、セラくん、ジョイノくんに着いて行ったらムキムキになっちゃう? 筋肉もりもり? 待って。天使なセラくんがムキムキ天使になっちゃう?

 いやいやいや、どんなセラくんでも愛せる自信はあるけど、でもムキムキ……ムキムキ天使……。ごくり。

 ひとりズモモモと深淵の思考へと落ちていくわたしに気付かず、ジョイノくんはセラくんの腕を取って出ていこうとする。


「……食べ過ぎないなら、良いよ」


 どうやらセラくんの中で、筋肉がわたしの食育に勝ったらしい。ムキムキ。ムキムキになるの? 帰ったらムキムキ?


「空さんの事はお任せ下さい!」


 びしっと敬礼するゆるふわさん。しかしわたしの中ではムキムキが乱舞。

 去っていくセラくんの背中にムキムキの幻影を見た気がした。







 セラくんのムキムキも、ゆるふわさんの寮の部屋に着いたら吹っ飛んだ。


「さあ! 空さん! 食べ放題ですよ!」

「空ちゃん、こっちにはツィオーネ先生のロールケーキもあるからね?」

「シフォンケーキも焼いたし、どんどん行っちゃって!」


 ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!

 もうどうしたら良いのか分かんない! 目の前のテーブルにはところ狭しとお菓子様の王国が築かれていた!

 これでもかこれでもかと、お菓子様だらけ!

 事務員のおねえさまのババロア大王様までいる!

 わああああああああああ!

 わたしはびゅんびゅん跳び跳ね回った。部屋中を何周もぐるぐる回って喜びを表現する。ドキがムネムネーーーっ!

 おにゃのこ達は楽しそうに笑っている。だから、かわいー。本当におにゃのこかわいー。


「まあまあ落ち着いて下さい空さん。ほら、お菓子は逃げませんよ?」


 跳び跳ねていたら、ゆるふわさんに捕まった。途端にわたしは落ち着いてテーブルに置かれる。冷静になると恥ずかしー!


「空ちゃん、どれにする?」


 おにゃのこがケーキを切り分けながら、わたしに聞いてくれる。他のおにゃのこもわたし用の深皿に飲み物を淹れてくれた。えー、どれにしよー。分かんなーい。ああ、幸せな悩みー。うっとりとお菓子王国を眺めながらうろうろとお皿とお皿の間をさ迷う。このまま迷子になっても食いは……じゃない悔いはないお。まずはクッキーさんから? それともお祝い用らしいエン・シュガリアン? 選り取りみどりー。


「……使い魔、あたしも空スライムが良いな〜」

「分かります分かります! 幸せな気持ちになりますものねえ」

「私は先輩の所の小鳥ちゃんも良いと思うなあ」


 ほうっと、悩ましげなため息を吐くおにゃのこ達。わたしはむぐむぐとクッキーさんを頬張って……ほっぺないけど、頬張って眺める。おにゃのこ達には、セラくんへの嫉妬はない。おにゃのこ達の実力なら、使い魔がいてもいなくても自信があるんだと思う。特進クラス大変だもんねー。明日も実習でお外行くんでしょ? わたしはこーへー性のために、お留守番だけどねー。良いなー、お外ー。


「そう言えば、明日の実習ですけど、あの行方不明事件の影響で私達特進クラスだけらしいですね」

「ああ、一応は危険は無いって話だけど、やっぱり実力を考えるとね?」

「行方不明の人達、自主退学らしいよ」


 おっと。あの話が出ちゃった。明日の実習って、エセゆーとーせー達が見つかった森に近いんだって。使い魔契約も目的に入った実習だから、この話題に繋がったのかな。


「……何があったんでしょうね?」

「んー、分かんないなあ。ひとりだけでしょ? 意識戻ったの」


 意識が戻ったのは、ひとりだけ。エセゆーとーせーだけ。そのエセゆーとーせーも正気とは言い難いらしい。

 一緒に見つかったふりょー達の人望が人望なだけに、エセゆーとーせーは事件に巻き込まれたと見る向きが強い。被害者はわたしの方だけどね。なかったことになってるから、主張できないのがつらーい。

 うーん、でも、わたし、手加減しちゃってたのかなー。ジョナサン先輩だけに手加減したつもりだったのに、ひとり打ちもらした。何となく、エセゆーとーせーに思うところがあったのかも。よく分かんない。

 わたし魔物なのに、ちょっと甘かったかなー。使い魔だし、人間寄りでも良い気もするし、ううむ。やっぱり分かんなーい。

 あの三人はお家のひとが引き取って自宅療養になるらしいよ。

 ……ジョナサン先輩、泣いてないと良いなー。白スライムは何にも言ってなかったし、大丈夫かなー。

 しょぼくれたわたしに気付いたのか、おにゃのこ達は慌ててケーキを差し出してくれた。


「暗い話はやめよう!」

「そうですそうです」

「空ちゃん、全快おめでとー!」


 わたしの気分が再浮上した。

 そうだよね。今日はお祝いだもんね。どんどん食べるよー。

 わたしは心行くまでおにゃのこ達にちやほやされて、お菓子様を堪能するのだった。




 余談だけど、帰ってきたセラくんはムキムキにはなってなかったお。ちょっとほっとした。ちょっとだけだよ、ちょっとだけ。本当だよー。


スマホが壊れて、設定メモ消えましたが私は(右腕と心以外)元気です。

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