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ぷにスラ  作者: 空魚企画部/文月ゆうり
学園都市編1
11/20

その11:おやすみ


 うおおおおおおお!


「お、おい、セラ」

「……なに?」


 みぎゅあああああああ!


「そ、ソラコ、どうした? 朝からずっとびゅんびゅん跳び跳ねてんだけど」

「ああ……」


 にゅぎいぃぃぃぃぃっ! きゃいん!


 抑えられない衝動のままに、教室中を跳び跳ねたわたしは、壁に激突してセラくんの机に転がり落ちた。くてりと机に倒れ伏す。もう無理だお。

 教室内に何人かいたクラスメートは遠巻きに見てる。びっくりさせてごめんよー。


「ソラコ!?」

「大丈夫。疲れただけ」

「そう言う話なのかよ!」


 ジョイノくんは心配そうに、くったりするわたしを見つめている。今日はわたしのツヤツヤぼでぃも三割減にゃー。おおっと、思わず種族がぶれちゃったよ。わたしはスライムだよー。


「少し、消化不良を起こしてるだけ」

「はあ? ソラコがこんなになるなんて、どんなゲテモノ食ったんだよ……って、セラ?」


 んま! だから、わたしはあくじきではないってあれほど……ジョイノくんー? どうかしたー? なんか、身体の中がぐるぐるして、思考が動かないおー。びょんびょんびゅんびゅんし過ぎたかなー。ここ数日ずっと、イライラ? もやもや? そんな感じだったから、しょうどーが治まらない。とうとう力尽きたお。ぱたり。

 ジョイノくんがセラくんに詰め寄るのもぼんやり眺めてる。


「お前、いつもより顔色悪いじゃねえか!」

「……そう?」

「そう? じゃねえよ! この馬鹿!」


 ジョイノくんが怒ったー。セラくんに怒ったー。わたし、ぐるぐるー。何だか、よく分かんなーい。

 ジョイノくんはセラくんの額に手を当てて、難しい顔をする。真剣なお顔ですよ。

 セラくんは顔をしかめたけど、ジョイノくんの手を振り払ったりはしない。ジョイノくんが怒るのは心配してるからだもんね。ぐるぐるしてても分かるよー。

 セラくんが顔をしかめてるのは、不愉快だとか怒ってるからだとかじゃないよ。わたし、知ってる。

 あれは、戸惑ってるの。あんな風に心配されるのは、えーと、いつ振りかなあ。いつだったっけ。小さいころ? 違うー。

 ああ、そうだ。『あの日』の、ツィオーネ教授と黒スライム先輩以来だー。


「……ちょっと、熱いな」

「大丈夫」

「大丈夫じゃねえ!」


 ふいっと顔を逸らしたセラくんに、ジョイノくんがまた怒る。でも、ジョイノくんは声を抑えてる感じで、セラくんを気遣ってるのがよく分かった。なんだろ、なんか、わたし、おかしいな。むずっとする。さっきまでのイラもやとは全然違う感じ。

 むずむずしているわたしに、ジョイノくんの手が伸びてきた。ジョイノくんの手はごつごつー。


「ソラコ、大丈夫か。お前がそんなに元気ないとか、おかしいだろ」


 掌に包まれる。ジョイノくんの手はあったかい。おかあさんといっしょー。むずむずが大きくなるけど、嫌な感じじゃないお。


「ソラコの様子がおかしいのも、お前の体調不良も、何かが繋がってるんじゃないのか」

「……」


 ジョイノくんの問い掛けに、セラくんは押し黙ったまま。それが答えになっているとしても、セラくんは何も言わない。わたしとセラくんだけの秘密だから。

 ジョイノくんは深く息を吐くと、すぐに教室内の他の生徒に目を向けた。まだ朝の始業時間前だから、人影はまばらである。


「ジェーダ!」

「は、はい!」


 ジョイノくんの呼び掛けにおにゃのこが背筋をぴんとして答えた。おにゃのこは前にツィオーネ教授のロールケーキをくれたゆるふわ金髪のおにゃのこである。ゆるふわさんのお家のお名前がジェーダと言うんだお。


「お前、今医療委員だったよな! すぐに応急処置をしてやってくれ」

「はい! 承りました!」


 あー、そう言えば、学園内はむやみやたらと魔法が使えない様に、委員会活動に準じた魔法しか使っちゃいけないって、先生達が言ってたおー。

 ゆるふわさんがすぐに駆け寄って来て、わたしを心配そうに見てから最初にセラくんの治療をする。使い魔と契約者なら、契約者が優先だよー。契約者に何かあると、使い魔はいちれんたくしょーで、大変だからね。契約者さえ無事なら、わたし達もひとまず大丈夫なんだよー。


「もう! セラさんもご自分を労らなくちゃ駄目ですよ!」

「……」


 ゆるふわさんに手を取られながら、気まずそうに目を逸らすセラくん。これがジョイノくんだったら、思春期ひゅー! とか言えるのになー。セラくんには言えないお。


「じゃあ、俺は医務室に行って……」


 ジョイノくんの言葉が途切れる。ジョイノくんが言いながらわたしを机に下ろそうとした時、わたしがきゅっと触手を巻き付けたから。

 ジョイノくんの手はあったかい。ジョイノくんの気性はまっすぐ。ジョイノくんの感情は柔らかい。色々、あるけど、何だか離れるのが怖い。このあったかさから離れるのがいやだ。


「ソラコ……」


 ぎゅっと巻き付いて離れないわたしを、ジョイノくんの空いてる手が優しく撫でる。それをセラくんがじっと見ているのも、わたしの視覚センサーが捉えてる。

 ジョイノくんはわたしを撫でながら、教室内にいたリュオくんを見た。


「すまん、リュオ。今から医務室に……いや、特別医療棟に行って、セラとソラコを連れて行くって伝えてくれ」

「わ、分かった……っ。すぐ、行ってくるよ」


 リュオくんは、何が起こってるのか分からない不安そうな顔でわたしとセラくんを見て、ジョイノくんに頷くと真剣な顔に変わって教室を出ていった。リュオくん、ごめんねー。ありがとー。


「エルダさん、セラさんの方は終わりました。次は空さんです」

「じゃあ、ソラコは移動しながら頼む」

「はい」


 セラくんへの応急処置が終わったらしいゆるふわさんが、心配そうにわたしの身体に触れる。その手から白スライムみたいなキラキラの魔力が伝わってきた。

 あー、そう言えば、ジョイノくんのお家のお名前はエルダだった。


「ほら、行くぞセラ」

「……」


 セラくんはぼんやりとした表情で、ジョイノくんに腕を掴まれてもなされるがままだったけど。その目はわたしから逸らされることはなかった。


「ーーと、念の為、誰かジョナサン先輩のクラスに行って、アイリーンをソラコの所に連れて来て欲しいって頼んでおいてくれ」

「あ、じゃあ、おれが行くわ」


 ジョイノくんが教室から出る時にそう頼むと、クラスメートのおのこが請け負ってくれた。なにー。白スライムくるー? どーんするー?




 特別医療棟に着くと、医療用の治癒魔法をかけてくれたゆるふわさんは「後は任せましたよ」とジョイノくんに言って帰って行った。特別医療棟は特別だけあって、入れる人数にせいげんがあるんだって。ふくざつなじじょーがあるんだねー。

 入り口にはリュオくんがいて、「許可証もらったから」って、ジョイノくんに小さな紙を渡してた。つきそいにん許可証だって。ジョイノくんが入るには、これがないとダメらしいよ。患者の使い魔と契約者にはいらないんだよ。

 リュオくんは入らないらしくて、入り口たいきー。色々な子に迷惑かけてごめんよー。


「あらあらあら、セラちゃんに空スライムちゃん! 待ってたのよー。 セラちゃんはそっちのベッドで横になって、空スライムちゃんは診察台に上がってちょうだい」


 診察室にすぐに通されて、いつもの先生がテキパキと指示を出す。できるおにゃごー。


「先生、俺はどうしたら良い?」

「んー、エルダちゃんは、そうねえ。話は聞いてたけれど、空スライムちゃん離れそうにないし、空スライムちゃんが離れるまでついてあげてくれる? 離れたら申し訳ないんだけれど、待合室に出てもらう事になるわ」

「はい、大丈夫っす」

「ふふー、良い子」


 やっぱり先生色っぽいー。ドキがムネムネー。頭ぐるぐるー。いつもならジョイノくんもししゅんきらしい反応するはずなんだけど、今はわたしとセラくんを心配そうに見てるだけ。

 診察台に下ろされても、わたしはべったりとジョイノくんにくっついたままだった。やー、ジョイノくん、行っちゃやだー。

 ぐずるわたしは診察台にもちょっとしか下りない。ほんの少しだけ触手を着けて誤魔化す。


「ソラコ……、先生に診てもらえ」

「空スライムちゃん、ちょーっとだけ、触らせてねえ」


 先生が使い魔を診る時用の手袋を着けて、わたしの表面を撫でるように触る。その度に何かが身体の中を通り抜ける感覚がして、ぶるりと震えた。変な感じがするー。

 先生の眉間に皺が寄って、むずかしい顔になったー。わたし、悪い? ダメな感じ?


「んー……、これは、ちょっと、うーん」


 ペタペタわたしを触る先生に、ジョイノくんが不安そうな顔になる。セラくんはベッドに横になって、小さく呼吸を繰り返しているけど、わたしをじっと静かに見ていた。セラくん、大丈夫ー?


「先生?」

「んー、ごめんねえ、エルダちゃん。ちょっと、本格的に診なくちゃいけないから、空スライムちゃんを無理やり離しちゃうわねー」

「え、大丈夫なんすか?」

「大丈夫よー。空スライムちゃん、ちょっと、力抜いてねえ」


 言うが早いか、わたしの身体に温かい何かが通って、先生の手がわたしを包むと同時にわたしはジョイノくんから離れてしまう。何のていこーもできませんでしたー。スルッといったお。


「じゃあ、エルダちゃん」

「あ、はい。二人のこと、よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げて、ジョイノくんはわたしとセラくんを見た後出ていった。

 ジョイノくんー、色々、ありがとー。ごめんねー。今日は何回もお礼や謝ったりしてる。


「ーーさて、空スライムちゃん、あなた何やったのかしら?」


 にこやかにジョイノくんを見送った先生はにこやかなまま、声のトーンを下げた。わー、先生、こわーいー。


「主体魔力が乱れてるじゃないの! いったい、何したらここまで酷くなるのよ! セラちゃんにまで影響が出るなんて相当よ!」


 ぷりぷり怒りながらも、先生は薬棚に向かってカチャカチャと薬瓶をいくつか取り出してる。くる? 来ちゃう? おちゅうしゃ来る?

 先生は先にセラくんの方に行って、手袋を付け替えると横になるセラくんのお口を開いて舌を出させたり、目を診たり、熱を測ったりする。


「セラちゃん、いつからこんな風になったの?」


 聞かれて、セラくんは暫く黙ってから、「数日前です」と小さく答えた。


「んー、数日前と言うと……あら、魔妨接種の副作用が切れる頃よねえ? もしかして、空スライムちゃん、何か無理でもしたの? 安静にしてなくちゃ駄目じゃない」

「……」


 先生は何でもないことみたいに言うけれど、目が笑ってないってすぐに分かった。セラくんはもう何も言わないで、わたしだけを見ている。セラくんは声に出さないけど、呼ばれてるのはすぐに分かったよ。

 むずむず身動(みじろ)ぎするわたしに、先生は深々ため息をつく。わたしを診察台から掬い上げると、セラくんの隣に置いた。すぐに、セラくんの手がわたしに触れて、そっと引き寄せられる。触れあうセラくんのほっぺは冷たい。セラくんは静かに目を閉じた。セラくん、眠い? 大丈夫?


「……取りあえず、一眠りしなさい。起きたら、空スライムちゃんと一緒に処方薬出すわ」


 先生は、セラくんの枕元に何かの袋を置いた。良い匂いがする。お花の匂い。わたし達の住んでいたお家の近くの花畑と同じ匂い。おちつく匂い。鎮静効果のある袋なのかなー。


「……私達はね、守秘義務があるの。だから、誰にもこの事は言わない。深くも聞かないわ。だから、ここではゆっくりお眠りなさい」


 もう、先生のおめめはいつもの柔らかな光がもどってた。ごめんねー、先生。わたし達だけの秘密なんだよー。


「あら……?」

「メル先生!」


 不意に外が騒がしくなって、医療スタッフらしき人が先生を呼びに来た。メル先生は先生のお名前だね。先生はすぐにスタッフさんに駆け寄って、診察室の隣の部屋に移動する。扉を閉めて更に小声のやり取り。

 でも、わたしには聞こえる。魔物だからね。


「行方不明の生徒三人が、街外れの森で見つかりました。一人はグラジェン公爵家のレスト君で、公爵家に連絡を入れるそうです」

「それは……弱ったわねえ。あの人達、私苦手なのよ。んー、それで容態は? 私が行く事態な訳?」

「今は通常の治療を施してますが、すぐにこちらに運ばれると思いますよ」

「ーー酷いのね?」

「普通とは言い難いですね。ほとんど正気を失っています。レスト君はまだマシなんですが、怯え方が尋常ではなくて……。他の二人は意識が戻る様子は今のところありません」

「……魔力の推移は?」

「それが、乱れていて不明瞭だと。それと、気になる点が」

「なあに? もうこれ以上はお腹いっぱいよ?」

「その、魔抗石の欠片を所持していたそうなんですが……真っ白だったそうです」

「魔抗石が? そんなはずは…………分かったわ。すぐに準備に入るから、そうね、第五治療室を整えておいて」

「え、第五ですか? 一番奥じゃないですか」

「良いから、お願い」

「……分かりました。直ちに用意いたします。それでは」


 わたしは大人しくしながら、ずっと二人の会話を聞いてた。第五……ここから一番遠い部屋かも。先生のきづかい?

 そっか。見つかったのかー。予定通りかも? どうなんだろう。まだぐるぐるしてるからよく分かんないお。魔抗石、真っ白になってたのかー。じゃあ、もうただの石ころになったんだねー。力、借りちゃったもんね。

 きゅっと、セラくんの手に力が入った。それはわたしを締め付けるような力じゃないけれど、セラくんの心が伝わってくる気がした。


「……ごめん」


 小さな掠れたセラくんの声。


「ジョイノだったら、良かったのかな……」


 セラくんの辛そうな声。わたしはじっと聞き取る。そしてぺちりと触手で、セラくんの頬を打った。おバカちんセラくんにはこれが相応しいお。

 セラくんは眠たげに瞬きをしてから、くしゃりと顔を歪めた。


「そうだね、ごめん。僕達は、僕達だから、意味がある」


 そうだよー。わたしはセラくんじゃなくちゃ、いやだお。ずっと一緒がいい。ずっとセラくんと一緒がいい。


「……ありがとう」


 それだけ言って、セラくんは今度こそ目を閉じて、寝息をたて始める。今日はわたしもセラくんも、ちょっとじょうちょふあんてーだね。たまにはいいよね。大変だったもんね。三人……ジョナサン先輩を入れたら四人かー。ジョナサン先輩にはてかげんしなくちゃいけなかったから、すごーく大変だったもんね。ちょうせいなんて、細かいこと、スライムには難しいお。セラくんも、疲れちゃうよね。ごめんね、セラくん。


「あら、セラちゃん、眠ったのね」


 隣の部屋から先生が顔を覗かせた。お話しゅーりょーですかー。

 先生は診察室に入ると、薬をいくつかセラくんの眠るベッドのそばのチェストに置いた。


「先生用事が出来たから、セラちゃんが起きたら二人ともこのお薬を飲んでね。そうしたら、今日はそのままお泊まりよ。待合室のエルダちゃんには言っておくから」


 ういーす。了解した。任せたお。セラくんにぴったりくっついたまま、触手を伸ばして了承をあらわすと、先生は診察室を出ていこうとして、止まる。どうしたのー。


「あらら、白スライムちゃんも来たのねえ。空スライムちゃんに用事でしょう」


 先生の下に向いた視線を追うと、そこには白スライムがいた。そうですよーと、そう言いながらちょこちょことやって来る。


「じゃあ、私は行くわね」


 手をヒラヒラさせて、何でもない風だけど、本当は大急ぎで移動しないといけないんだよね。わたしはかしこーいから、見ない振りできるよー。

 白スライムはベッドまで来ると、みょーんと触手を伸ばしてベッドに飛び移った。触手をぴとぴとさせて挨拶だお。

 大丈夫ー? と身体を寄せて、キラキラした白スライムの魔力に包まれる。大丈夫じゃないおー、白スライムー。泣き言を言うわたしに白スライムはよしよしと、身体をすり寄せた。なんにも怖いことないですよーといってる。うん、もうないね。きっと大丈夫だよね。

 ジョナサン先輩がいないことを、白スライムは何にも説明しない。同じスライムだから、何があったかは白スライムにも何となく分かってるんだと思う。

 ジョナサン先輩は、きっとさっきの騒動を知ったんだと思う。また泣いてたら、やだな。

 大丈夫、大丈夫と、繰り返し白スライムは言う。そうしたら、何だか安心して眠くなってきた。

 大丈夫、大丈夫。セラくんも大丈夫だから、ちゃんと休んでね。

 起きたら、ご飯食べて、お薬のんで、また一緒に寝ようね。


ソラコは頭ぐるぐる。

私は右腕が包帯ぐるぐる。

と言う訳でまだ治療中です。更新遅れます。すみません。

次回は、またコメディ回に戻ります。

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