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ぷにスラ  作者: 空魚企画部/文月ゆうり
学園都市編1
10/20

その10:にんげんもいろいろ

前回からの続きですので、暴力表現注意。


 三人の中で誰よりも早く反応したのはエセゆーとーせーだった。


「貴様……っ」


 げっこう。激高って言うんだよね? エセゆーとーせーが激高して、入って来た人ーーうさぎ仮面のジョナサン先輩を睨み付けた。うわあ、憎しみこもってるね。ジョナサン先輩に失礼だよ。

 普段のジョナサン先輩なら、もしかしたら怯えていたかもしれない激情を向けられているのに、ジョナサン先輩は動じない。

 相対している様子からしても何となく分かるけど、相手が自分の関係者だからかもしれない。知らない相手に、あんな憎しみやら悲しそうにしたりだとか、しないよね? 魔物はしないよ。

 ジョナサン先輩は、自分でどうにかしようと覚悟を決めてるのかもしれない。


「どうして、ここに……」


 しょーしんものが、狼狽えた様子でエセゆーとーせーを見るけど、エセゆーとーせーは気にせずに、ジョナサン先輩を見ている。ちょっとは気にしてあげようよ。


「気付かなかったかな? その子には、危険察知魔法をかけてあったんだ。勿論、セラくんの許可は得ている。ーー君が、こうする事は分かっていたから」


 ジョナサン先輩はエセゆーとーせーを見るが、エセゆーとーせーは何も言わずにギリッと奥歯を噛み締める。これは何だろう。悔しい? そう言う感じ? もしかして、エセゆーとーせーはジョナサン先輩との実力差があるのかな。わかんない。

 と言うか、いつの間に! きけんさっちまほうってなにー! セラくんの許可! 聞いてないお!

 あれ、あれあれあれ。最後にジョナサン先輩に会ったのは、……廊下で落ち込んでた時? あ! あの時撫でられたから、その時か! そうなのか! 全然気付かなかったよー! すごいよジョナサン先輩!

 そういえば、あの時どうして落ち込んでたんだろう。こうなるって分かってたから? エセゆーとーせーのせいで落ち込んでたの? エセゆーとーせー、許すまじ。

 わたしが一応の答えを見つけた間も、話は進んでいく。


「使い魔用の防犯装置に、使い魔が察知されない魔妨接種の時期が、動くには好都合だ。ーー誰に聞いたのかは知らないけれどね」


 ジョナサン先輩の問いとも、ただの事実確認とも取れるそれに、エセゆーとーせー達は答えない。


「……その子を、使い魔から降ろしたって、君が契約者になれる訳では無いんだよ」


 冷静に、冷静に。諭す様に、ひとつひとつはっきりと。

 これを真摯と人間は呼ぶ。

 目に見えて、エセゆーとーせーの顔色が変わった。大忙しだね。


「……うるさいっ! 貴様に何が分かる! 僕だってスライムなんか御免だ! こんなのに今から契約したって意味なんか無い! 恥でしか無いだろっ! そんなものが欲しいんじゃない!」


 さっきとは違い、怒鳴る怒鳴る。何となくだけど、エセゆーとーせーはこんな程度で心の中のドロドロを吐き出した訳じゃないのは分かる。おめめがギラギラしてるもん。あのギラギラはいやだね。セラくんにひどいことをした大人達と同じ。

 昔はね、分かんなかった。ギラギラが怖いくらいしか、分かんなかった。

 今は分かるよ。

 あれは、


「ずっと馬鹿で、のろまで、身体も弱いし鍛練もろくに出来ない! 父上達の顔色ばっかり窺って、僕にすらビクビクして、屋敷の隅で怯えてばかりの、愚図のお前が!」


 妬みと、言うんだよ。


「何で今更! 父上の後継者に指名されるんだよ!」


 エセゆーとーせーが素早くわたしを拾い上げて握り締めた。ギリギリだお。中身ないけど、出るかもしれない。


「……それと、その子に対する行為と何の関係があるんだ」


 ジョナサン先輩の顔は見えないけど、お面の向こうではわたしを案じてくれてるのは分かった。優しい人間なんだ。

 言葉を選ぶ人だと、セラくんが言ってたことがある。

 ジョナサン先輩は、傷付くことを知っている人だから、言葉を選ぶ優しい人だと言っていた。

 今のジョナサン先輩は、言葉を選んでいるんだろうか。

 ジョナサン先輩は、きぞくだ。白スライムが言ってた。

 ジョナサン先輩は、きぞくだけど、家を継がないって。ジョナサン先輩は、本当はジョナサン先輩じゃないんだよ。本当のお名前があるんだって。でも、子どもの頃に高位魔法職の家系にふさわしい人間じゃないからって、嫡男を意味する本当のお名前とお家のお名前を取り上げられちゃったんだって。ジョナサンって名前は、ジョナサン先輩のうばさんが付けたんだって。うばって、何ー?

 ジョナサン先輩の弟がお家を継ぐから、帰るお家は無いって。うばさんのお家でお世話になってるって。白スライムと初めて会った時に話したらしいよ。今のしょーらいの夢はツィオーネ教授に師事して、けんきゅうしょくに就くこと。全部白スライムが言ってた。

 白スライムが大事だから、ちゃんと白スライムの事を知りたいんだって。ひゅーひゅー!

 たぶん、エセゆーとーせーがジョナサン先輩の弟だね。

 わたしからしたら、エセゆーとーせーに「家は継がない」と言っちゃえば良いと思う。

 だって、今までないがしろにしてきたジョナサン先輩を、たぶん今の評判とかでこうけいしゃに指名したんでしょー。そう言うのムシが良すぎると言うんだよ! 空スライムもおべんきょーするんだよ!

 ジョナサン先輩、さと帰りとか、お家とお手紙のやり取りとかしてないもん。放っておくだけ放っておいて、今は出来る男になったからって、これはないと思う。魔物でも分かる。

 ジョナサン先輩は、契約者としての能力も学園のせいせきもとても良いらしいよ。

 エセゆーとーせーは、ジョナサン先輩をぐずぐず言ってるけど、人間にも魔物にも向き不向きはあるんだよ。ツィオーネ教授が言ってた。

 ジョナサン先輩は、かぎょーが向いてなかったんだね。魔法には向いてても、お家のことには向いてなかったんだよ。ぐずぐず言うのしつれーだよ!

 それにそれに! 優しくないお家は誰だってごめんこうむるんだよー! 空スライムだってぺいっとするね。ぺいっと捨てちゃうね!

 ぷんすこ怒っているのが伝わったのか、更に握り締められた。大丈夫? これ、人間の視覚的に暴力ひょうげん、ひどくない? まだ見るに耐えられる? 空スライム的ぷりてぃーぼでぃ、保ててる? ぐにゅってしてるけど、まだ可愛い?


「こんなのが、たかが一匹いるかいないか位で、どうして僕がお前の下に見られなくちゃいけない!?」


 ひどいいいぐさー。

 ジョナサン先輩とエセゆーとーせーがあまりにも激しい言い争いをするから、他の二人が空気になってる。ここで口を挟めたら見直してやらんこともない。魔物でも分かるこの重い空気、ぶち壊してみんかーい。

 聞いてて分かってくるけど、エセゆーとーせーはお家に、こしつ? こしつしてるんだね。そんなにお家がいいのかな。優しくないお家だよー? エセゆーとーせーは大事にされたかもだけど、ジョナサン先輩ひとりに嫌な思いをさせてなりたつお家ってどうなの。きぞくの人間には、きぞくのお家はおいしいの? 捨てられないものなの? ーー逆? 捨てられたくない? そういうこと? きぞくの価値が全てなら、きぞくで無くなるのは怖いこと? そういうことで合ってる?

 もしかして、ジョナサン先輩が下手にお家のことを口に出したら、このエセゆーとーせーの心のきんせんとやらにふれちゃうのかな? 怒りのあまり手が付けられなくなるんだろうか? わたしならえんりょなくつっつくけど、ジョナサン先輩はつっつかない。…………わたしが、スライム(じち)になっているからか! ジョナサン先輩、さすがッス! 黒スライム先輩並に漢ー! でもわたし握りしめられすぎてそろそろあうとー!


「たかが、じゃないよ。かけがえのない、相棒なんだ。ーー本当は、わかっているんだろ?」

「……っ! うるさい! うるさいうるさいうるさい!」


 ジョナサン先輩が来てから、エセゆーとーせーの冷静さも、余裕も消えてる。ジョナサン先輩は、ある意味でこのエセゆーとーせーの特別なのかもしれない。それが悪い意味だとしても。

 魔物には、きょうだいとか、そう言う認識はない。かろうじて、親子なら分かるんだけど独り立ちしたら、関係なくなる。わたしはまだ独り立ちしてないけどね。そう言う状態じゃなかったお。今もセラくんにべったりよー。

 ううむ、しかし意外ー。エセゆーとーせーは、使い魔契約をちゃんと理解してるっぽい。他二人は分かってないみたいだけども。知識としては理解していても、意味を理解していないと、使い魔契約は出来ない。ツィオーネ教授の授業で習った。魔物は感覚で理解するから、知識はあってもしょうがないんだけどね。セラくんのおべんきょーを守る為にもわたしは、真面目に授業を受けているのだよ。遊んだりしてるのは、そう見えているだけだよ。遊んでないお。本当だお。


「お前も、あのセラとか言うすかした奴も、僕を見下して笑っているんだろ!」


 それは君じゃないのかね。セラくんは天使だから、そんなことしないよ。失礼な!

 妬み(そね)みが積もりに積もると、巨大おばけになるのかもしれない。おばけが大きすぎて、何にも見えなくなるのかもしれない。現実が見えてないんだよ。


「君は、どうして、そこまで……」


 ジョナサン先輩の悲しげな声は、エセゆーとーせーには受け入れられなかったらしい。更に、ぎゅうっとされた。だから、出ちゃうから。何かが出ちゃうからね。


「ーー黙れ。お前に哀れまれる事が、一番許せないんだよ」


 さっきまでの激高振りがうそのように、エセゆーとーせーは静かに言った。なのに、ずっと怒りが深く感じる。

 これは、魔物には馴染みのある感覚。

 殺気。

 ジョナサン先輩の言葉なんて、きっと、届くことはないんだ。

 エセゆーとーせーが制服のポケットから、何かを取り出す。それは、黒く光沢のある小さな石の欠片だった。指で摘まめてしまえるサイズのそれに、わたしの全身が震えた。

 それは、あれだ。あれの、元になっちゃう奴だ。

 ジョナサン先輩がハッとして、声を上げる。


「それは、魔抗石……っ!?」


ーーおちゅうしゃだーーーっ!


 おあああああ、やっぱりあれじゃないですか。魔妨接種薬の元じゃないですかやだー!

 ブルブル震えるわたしに、ジョナサン先輩は気遣わしげな感じで見てくるし、エセゆーとーせーは見下した顔で嘲笑している。違うの。魔抗石に怯えてるんじゃないの。おちゅうしゃなの。そこんとこ、重要なの。しょせん、わたしの気持ちをわかってなんてもらえないのだよ。こわいよー、おちゅうしゃいやだよー。


「僕は、契約者になれなかったからって、勉強を疎かにする馬鹿共とは違うんだよ」


 エセゆーとーせーの言葉に、ふりょーが怒りの表情を浮かべた。おうおう、君、この当てこすりに当てはまってんのかよー。ダメじゃんよー。自覚ないよりはマシとか思わんよ、この空スライム様はー。

 エセゆーとーせーも分かって言ってるのか、ちらりと仲間の二人を見た瞳は冷たかった。そっか、しょーしんものは無自覚か。

 何でそんな風に思ってる人間と仲間になったのー? んー、人間のややこしい考え方でとらえないとダメ? えー……、あ、もしかしたら、あれかな? 前に事務員のおねえさまから貰ったクッキーさんをこっそり食べようとした時にセラくんに見つかって、とっさに近くにいたジョイノくんに押し付けた時と一緒かな。結局、バレて怒られたけどね。心で泣いたお。

 それと同じで、エセゆーとーせーはふりょー達に罪をなすりつけるつもりとか? ま! なんて悪どいの! 悪役まっしぐらだね。

 わたしの名たんてー的推理にも気付かず、エセゆーとーせーはジョナサン先輩を睨み付けて、話を続けていく。


「こんな小さな欠片で、何が出来ると、そう思ってるんだろ」

『でも、あんな小さな物じゃあ、何かを、出来る訳でも、ないんだけど、ね』


 エセゆーとーせーの台詞と、リュオくんの声が重なって聞こえた。

 え、あ、まさか、コレ、総合棟から盗まれた魔抗石か! え、本当に? 世間はせまいね!

 いきなり繋がった事実にびっくりしていると、欠片がわたしの身体に押し当てられる。わっ! 意外に冷たいな!


「愚図のお前には、屋敷の地下書庫なんて知りようが無いよな。魔抗石は、使い方次第では欠片でも十分なんだよ。

ーーこうやって、核に直接触れさせれば、後はこのまま」

「やめろ!」


 ジョナサン先輩の怒鳴り声なんて初めて聞いたなーと、呑気に考えてしまったのは現実とうひだったのかもしれない。

 核が埋め込まれる瞬間、身体の奥が熱くなった気がして。そこから流れてくる力の奔流にぐらぐらした。


ーー面倒くさい。


 ぐらぐら揺れて、その思考に支配された。

 けれど、不安は、ないよ。






 バンッと、凄く大きな音がして、倉庫の扉が開いた。わたしはびくっと跳び跳ねる。うあー、ないはずの心臓がばっくんばっくんしそう!

 見ると、うさぎ仮面が肩で息をしていて、今にも倒れ込みそうになってた。

 うっす! ジョナサン先輩、うっす!


「……あ、あれ?」


 戸惑った様子で、ジョナサン先輩は倉庫の中を見渡した。わたし以外、誰もいないおー。

 ジョナサン先輩は「あれ? でも、確かに、察知魔法が反応したのに」としきりに首を傾げて、わたしを見下ろす。おおう、逆光になって見下ろしてくるうさぎ仮面、迫力あるー。

 すぐにしゃがみこんで、埃だらけのわたしを掬い上げた。


「……えっと、あれ? あの、大丈夫……かな?」


 ま! これが大丈夫に見えまして! 埃だらけだよ。セラくんに怒られるの確実だよ!

 びょんびょん跳び跳ねて抗議するわたしに、「わ、わっ」とジョナサン先輩が慌てる。


「す、すまない。そうだね、埃だらけだったね」


 うむ、分かれば良いのだよ。分かれば。

 ジョナサン先輩は、また倉庫内を見渡してから、どこか腑に落ちない顔でため息をつくと、立ち上がった。


「ーーこれはもう、必要ないかな」


 すっと身体をひと撫でして、多分、きけんさっちまほうを解除したのかな? お疲れさまです。魔妨接種の効果、そろそろ切れるらしいもんね。

 ジョナサン先輩は、「出よう」と倉庫の外に出て、最後に一度だけ振り返った。


「……何も、無かったんだよ、ね?」


 うん、なかったよ。なーんにも、なかった。

 だから、ジョナサン先輩はもう、悲しそうな顔をしないで。

 

 ジョナサン先輩に連れられて中庭に行くと、セラくんがいた。

 セラくんはわたしを連れて来たジョナサン先輩にお礼を言うと、わたしを掌に乗せて。

 こてんと、額をわたしの身体に当てた。


「ーー頑張ったね」


 セラくんの労るような小さな優しい声。きっと、他のひとには分からないわたし達だけの秘密。

 セラくん、わたし埃だらけだよー。汚れるよー。そう思ったけど、セラくんの好きにさせた。

 わたしも、ちょっとだけ、疲れたんだよ。



 まあ、後でごっしごし、洗われたけどね!


数日前に右腕を負傷しました。

スマホで小説を書いているのですが、しばらくは以前ほど書けなくなるため、ゆっくりペースになります。

ちょっと、治療が長引くかもしれないです。

申し訳ないです。

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