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俺とみんなの学園記録 -armoniosoー (仮)  作者: いっぴ
第零章ーエピローグー
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――タッ―タッ―タッ―タッ



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」



 息を切らしながら家の中の廊下を見るからに高そうでデザインの優れた洋服を身にまとった5歳ぐらいの少女が少し遠慮がちに走っている。


 

 洋服もそうだったが、それを着ている少女自身もこの歳ですでに整った顔立ちにクリッとした大きな緋色の瞳に、走っているせいか体温が上がっているのであろう頬を薄ピンクに染まっている、肌も雪の様に真っ白でそれに銀色の腰まで伸びた癖っ毛の一つもないストレートの髪型が絶妙なバランスを保っている。



 全体的に色が白すぎて体調を心配してしまいそうになるが、この様子を見るにその必要はないだろう。見た第一印象では清楚でおしとやかそうであるが、意外と活発なようだ。




 少しして、長い廊下の突き当たりの場所に一つの扉が見えてくる。


 周りには他の扉は見られない。まるでこの扉だけが周りより隔絶されているようだ。


 扉は閉まったままで、鍵穴は見られない。きっとそういうタイプなのだろう。



 そこに向かって少女は、わき目も振らずに一直線に向かっていく。その眼にはその一点だけが映っており、その表情は口角が少し上がって微笑んでいる。



 そしてその勢いのまま扉の前まで付くと肩で息をしているのを立ち止り胸に手を当てて呼吸を整えて、ここまでに来る際に乱れてしまった服を軽く手で叩いてしわをのばすと、最後に軽く深呼吸をしてからドアノブに手をかける。



 そのまま扉をゆっくりと押しながら開くと中の部屋には少女よりも一つか二つほど歳のいった漆黒の髪のストレートの短髪に天色の瞳の少年が椅子に深く腰掛け片足を組みながら何やら難しそうな本を読んでいる最中であった。そんな少年には年そおおうよりも大人びた雰囲気を漂わせている。窓は開いており心地よいくらいの風がカーテンを揺らしながら吹いていた。



 そんな少年の姿を見つけた少女はこれまた嬉しそうに顔をほころばせながら声をかける。



 「 兄様! 」



 どうやらこの少年はこの少女の兄であったようだ。声をかけるとそのまま兄に向って駆けよって、足を組んでいるところへ両手を乗せて前かがみになりながらもたれかかる。



 「私と遊びましょう」



 まるで懇願するかのように兄に自分が来た目的を告げる。



 そんな妹に対して少年は最初は急に入ってきたことに少し驚きながらも自分を慕ってくれる妹の姿にまんざらでもないのか微笑ながら返事をする。その様子は一見兄妹には見えない二人を兄妹なんだなぁ、と納得させてくれるほど似ている笑い方をしていた。



 「いいよ。なにして遊ぼうか?」


 「―――おままごと、おままごとがいいです」



 兄の問いかけに対する少女の答えは即答であった。


 

 「また、おままごとか・・・」



 少年がぽつりと本音を漏らす。それを聞いた少女は悲しそうな顔をして今にも泣き出しそうになる。



 「だめですか?」



 上目遣いをしながら兄の顔を覗き込む。


 一瞬しまった、というような顔をしてから少し慌てたようにしながら、ごまかすように妹の長くてサラサラな髪の手触りを楽しみながらなでてごまかす。



 「いや、だめなんかじゃないから。おままごとしようか。でも、見たところ手ぶらな様だけど…… 残念ながら僕の部屋には女の子向けの遊び道具は置いてないよ?」



 確かに少年の部屋にはそんな遊び道具は置いていなかった。それどころか男の子向けの遊び道具すら何も置いていない。部屋中を見渡しても目に入ってくるのは本ばかりだった。そしてそれ以外にはあまり家具や雑貨といった物すらない。部屋に物はあまり置かない主義な様だ。



 「あっ、忘れてました……」



 兄に髪をなでられて目を細めて幸せそうな表情をしていた少女が、それを聞くと同時にいっきに青ざめながら顔をあげてそう告げた。



 「一度自分の部屋に戻って取りに行っておいで。それから淑女のたしなみとして...... 一般常識として廊下は歩くこと、来るときに足音が響いていたよ」


 「すみません」



 兄に怒られテンションが下がりシュンとしてしまう。


 「次から気をつけること。 あまりはしたないと将来お嫁さんにもらえなくなるぞ」



 軽く冗談と脅しのつもりでシュンとなった妹を立ち直らせるために軽い口調で話しかける。もともとそこまで責める気持ちなどなかった。だが、帰ってきた返事は予想だにしないものであった。



 「それなら大丈夫です。 私、兄様と結婚しますから」



 先ほどまでの表情がまるで嘘のように消え逆に真顔でそう切り返された。どうやらこの妹はブラコンであったらしい……


 「そうかい…… もういっておいで」


 

 衝撃的な告白に対してそんな妹に苦笑いしながらこの話題から逃げるように話を終わらせる。



 「はーい。 では、なるべく早く戻りますから兄様は絶対にここで待っていてくださいね、絶対ですよ」



 そんな兄の様子には気にも留めずに妹はさっさと早歩きして出て行った。



 「…………」


 その妹の後ろ姿を兄は見えなくなるまで目で追い続けるのであった。その表情はとてもじゃないが喜としたものではなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 少女が部屋から出ていくと少年は開いている窓の方を見つめる。そこには先ほどまでは誰もいなかったであろう場所にカーテンに隠れて人影ができていた。


 「…………悪いな、待っててくれたんだろう」


 「 ―――――――――――――― 」


 「そうか、そう言うならそういうことでいい」


 「 ――――――――――――――――――――― 」


 「ああ、それで構わない」


 「 ―――――――――――― 」


 「わかった。――――行こうか」


 「 ―――――― 」


 (ごめん、約束は守れないや)


 少年はそう妹に対して心の中で謝罪した。

 



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 少女は一度部屋に戻りおままごとの準備をいっぱいに詰めたかばんを両手で持ちながら再び兄の部屋に戻ってきた。


 「兄様!準備してきました」


 そう言って部屋に入りあたりを見渡すも兄の姿は見られない。


 「兄様……? 兄様! 兄様! どこですか、兄様!―――――」


 いくら必死に呼びかけるも返事はない。しまいには瞳から涙が流れてきて、のどが張り裂けそうなくらいの大声で叫ぶ。



 それでも少女が聞きたい声は聞こえない。


 

 別に兄が部屋から出て行っただけかもしれないし、少ししたら戻ってくるかもしれない、夕飯になったら顔を合わせられるだろう、でも今、この時だけは絶対に見つけないといけないという衝動に駆られた。



 「兄様……………」



 それでも少女の悲痛な叫びは悲痛にも空を切るばかりだった......


 





 後には兄の部屋にポツンと棒立ちになる妹の姿だけが残されていた。


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