~純白、風になびく頃~ 3話
城の中では何やら慌ただしく動き回る人達。ルーミスにもその慌ただしさは感じ取れた。
「ねえ、セルロイ。何かあったの?」
病室を訪れたセルロイにルーミスはそう聞いてみた。
「うん? いや、別にたいした事じゃないさ。それより、身体はどうなんだ? もうかなり良くなったのか?」
セルロイは話をそらす。明らかに何かを隠している事は確かだ。しかし、それ以上ルーミスは話を聞けなかった。セルロイがそれを話そうとしない態度は明らかだ。そして、恐らくそれは、ルーミスに心配をかけさせない為、でもあるのだろう
「うん。もうすっかり良くなったよ。ちょっと運動でもしたいくらい」
その言葉を聞いたセルロイハは安心した様に微笑む。
「そうか、じゃあ、もうすぐにでも旅に出る事が出来そうだな」
「うん、そうだね……」
ルーミスは少し寂しそうに言葉を返す。
「どうかしたか?」
「ううん。でも……なんかちょっと寂しいなって……ラムジットさんにもそう言われたの……だから……」
ルーミスは表情を曇らせる。
「すまない、嫌な事を思い出させちまったか」
「いいよ、気にしないで。それにセルロイもいろいろ忙しいんだよね。私いつまでもここにいる訳にはいかないし、もうちょっと体力が戻ったらここから出て行くね」
セルロイは慌てた。しかし、それを顔には出さなかった。本当ならルーミスにここにずっといてほしい、それがセルロイの願いだった。でも、それは叶えられない願いだという事も解っていた。
「気にしなくてもいい、ゆっくり休んで春が来たら、また旅を続ければいいんだ。今は雪が積もっていて旅なんかできる状態じゃないぞ」
セルロイはそう言うが、窓の外の景色は雪など積もっていなかった。
「何処に雪が?」
「山を越えるには、かなり雪の積もった峠を、いくつか越えなくてはいけないからな。それに何日もかかる。その間まともな村なんか無いから、山を越える頃には凍死するぞ」
「でも、山を迂回していけばいいんでしょ? それなら凍死しないだろうし」
ルーミスの言葉に、セルロイは言葉を詰まらせる。確かに山を迂回して進めば雪の山道を超える事は無い。かなり遠回りになるが、時間をルーミスはそれほど気にしないだろう。だから、セルロイには、それ以上ルーミスに何も言う事は出来なかった。
「私、来週くらいにはもう旅に出ても大丈夫だろうって、お医者様にも言われたから、来週には旅に出る事にするね」
「……ああ、解った。じゃあ、砦に置いてきた自転車を運ぶように言っておくよ」
「ありがとう」
ルーミスはそう言ってセルロイにはにかむ。
「じゃあ、そろそろ戻る。とにかく、まだ無理はせずにゆっくりしてるんだぞ」
ルーミスを子ども扱いして部屋を出て行くセルロイ。
「全く! 私とそれ程年も変わらないくせに!」
少し怒って見せるが、それでもセルロイが、ルーミスの事を思っていてくれる事は解り、ルーミスはすぐに機嫌を直した。
一日一日、城の中の様子は慌しさを増していく。いくらルーミスでも何か起こっている、という事は十分に分かった。もちろんそれが何なのかはわからない。でもセルロイは会いには来てくれるが、どんどん時間が短くなっているのもそれが原因だろう。
「やっぱり、これ以上私がいると迷惑だよね……」
ルーミスはようやく、医者から旅を続ける事の許可をもらうと、すぐにセルロイの下を訪れる。セルロイの執務室にはザラームがきており、ルーミスが来た事に気が付くと席を外した。
「セルロイ、今までありがとう。ようやく旅を続けてもいいって、お医者様が言ってくれたから、私また旅に出る事にするね」
「もう少し、ゆっくりしてたらどうだルーミス? ちょっと慌しいが、気にする事なんてないんだから。な?」
セルロイはそう言ってルーミスを引き止めるが、それでもルーミスは首を横に振る。
「ううん、これ以上ここにいると、セルロイの邪魔になるかもしれないし。ありがとうね」
「そうか……わかった。気を付けてな……」
セルロイは椅子から立ち上がり、ルーミスの前に立つと、ルーミスの手を握る。
「本当に気を付けてな。またいつでも来いよ! 俺もいつかルーミスの村に行くよ……元気でな」
今にも泣きだしそうな眼で、ルーミスを見るセルロイ。
「な、何よ、そんな顔しないでよ! なんか、旅に出にくくなっちゃうじゃない!」
「ははは、そうだな!」
セルロイはそう言うと、今までの表情を満面の笑みに変え、ルーミスの手を強く握る。
「またいつかな」
「うん、ありがとう。またいつか」
きつく握った手をセルロイは放す。
「じゃあ」
そう言ってセルロイに背を向け、扉に手を掛けるルーミスに、セルロイはまた声を掛ける。
「ルーミス!」
「なに?」
振り返るルーミス。
「いや……えっと、その……」
「どうしたの、セルロイ?」
「いや、その……す……」
「す? 何?」
「いや、うん、なんでもない。気を付けてな! 道に迷うんじゃないぞ!」
「うん、ありがと。セルロイ。じゃあね」
「お、おう。じゃあな!」
そう言うと振り返り、扉を開け、部屋から出るルーミス。そして扉はバタンと閉じられる。ルーミスの出ていた扉を拳を握りながら見つめるセルロイ。そして、その扉からザラームが入れ替わりで入ってくる。
「よろしいのですか?」
黙ったままのセルロイ。
「何人か付けるように手配しています。国を出るまでは問題は無いでしょう」
「そうか……すまないな……」
力なく言葉を返すセルロイ。
「少し、外しましょうか?」
「いや、構わない。今は大事な時期だ、休んでいる暇は無い」
「わかりました」
セルロイは気持ちを切り替え、執務に戻る。




