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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

猫とご主人

作者: 英 澪

暴力・虐待表現があります。

苦手な方はお控え下さいますよう。

初投稿なので、拙すぎると思いますがご意見等いただけると幸いでございます。

 あたし、猫。

 ロシアンブルーって種類らしい。同じ日に生まれた姉弟は、上におねえちゃんが2匹。下に弟が1匹。

 みんな仲良くお母さんの側で寝てた筈なのに、いつの間にかペットショップの小さい部屋にいたの。

 はじめは、姉弟たちもお母さんもいなくて、寂しくて寂しくてずっと泣いてた。

 店員が持ってきたご飯にすぐ泣き止んだけど。 

 慣れてくると、他の小部屋にいる先輩の猫からここがペットショップだということを教えてくれた。

 そして、毎日違う顔の人間があたしや他の犬や猫を見に来る。

 見世物じゃないのに。

 突如ガラスをバンバン叩くうるさい子供や、指を左右に動かしてガラス越しに遊んでくれる男のひとや、

「可愛い~!!」

 って、目をきらきらさせてる女のひとがたくさんいたけれど。

 結局みんな、そのときだけ。誰もあたしを連れて行ってくれない。

 そんな退屈な日を過ごしていた中、一人の女のひとがじぃっとこっちを見つめていた。

 いつものことだから、あたしはそっぽを向いて部屋の隅で寝ようとしたんだけど。

 店員があたしを出して、女のひとはあたしをふんわり胸の中に抱いた。


 女のひとはあたしを抱っこしながら、

 「いつ、連れて帰れますか?」

 って、店員に聞いてくれた。

 

 気づいたら、あたしはガラスの向こうに戻されて、

 ・・・あぁ、このひともか。

 って、ご主人から視線を外して、お気に入りの犬のぬいぐるみの上で丸くなった。

 みんな、かわいいって言うのに。

 あたしをここから出してくれない。

 もっと、遊びたい。

 いっぱい走ったり、思い切り寝転がりたい。

 いつか、あたしを買ってくれるひとがいるかしら。

 それまでは、せめて夢の中は幸せに自由に走りまわろう。

 そうして、あたしは眠気に誘われた。


 あれ、と思ったときは知らない何かの中。なんだか狭くて窮屈だわ。

 隙間から外を見ると、見覚えのある顔が楽しそうに店員と話してた。

 「おうちに帰ろう」

 ご主人は、あたしに笑って言った。

 その日から、あの女のひとはあたしのご主人になった。


 「さ、出ておいで。今日から君のおうちだよ」

 狭いと思った部屋はあたしのキャリーをご主人が用意していて。

 プラスチックの扉を大きく開けた先には、見たことのない物ばかりで初めは足が進まなかった。

 2、3日も経つと、部屋の隅っこから、ご主人が座るソファの端へと居場所も変わった。

 1か月後にはご主人の膝の上。


 ご主人は、明るくなるとすまなそうにあたしの頭を撫でて、家を出て行く。

 仕事に行くんだって。

 「帰りに甘エビのお刺身買ってくるからね」

 って、あたしの好物をたまに買ってきてくれるの。

 明るいうちはあたししかいなくて寂しかったけど、暗くなるとご主人は急いで帰ってきてくれるんだ。

 息を切らせて、玄関から

 「ただいま!寂しかったよね、ごめんね」

 って、頭を撫でてくれる。

 部屋の中は思いきり走れないけれど、あたしは毎日幸せだった。


 あたしは、大人になった。といっても1歳を越えたばかりの若輩者だけど。

 ある日、家に知らない男のひとがやって来た。

 ご主人のカレシというのだそうだ。

 このカレシ、あたしは嫌い。あたしをしっしっ、て手をひらひらさせて近づかせない様にするし。

 なんだか、ご主人に命令するし。甘えていいのはあたしだけなのに。

 「おれ、猫アレルギーなんだよね」

 なら、家に来なきゃいいのに。

 しかも、カレシが来ると寝室を閉め出され、ご主人と一緒に眠れない。

 ご主人の変な声も聞こえるし、はじめは気が気じゃなかった。何度もそんなことがあると、あたしも慣れてキッチンのマットの上に居場所を作って眠るようになった。

 明るくなると、カレシは出て行く。ご主人はまだ寝てるみたい。

 寝室の引き戸が開いたままになっていたから、するりと音もたてずに中に入る。

 「にゃおぉう」

 朝だよ。お腹すいたよ。

 「・・・・・・ごめんね。・・・っ、今、起きる・・・ね」

 なんだか、ご主人が苦しい顔をしてる。

 起き上がったご主人の体を覆っていたタオルケットが重力に負けて落ちていく。

 その背中。

 なに、これ。

 ご主人の背中はあちこち、あのまずいナスの色になってた。ナスはまずいから嫌い。

 よく見ると、腕、足も。

 引っかき傷もある。もちろん、あたしじゃないわよ。

 カレシは、ご主人に痛いことをしてるんだってわかった。

 ご主人は痛そうに顔を歪めたけど、笑ってあたしの頭を撫でた。

 「お腹すいたね。ご飯あげるからね」

 ご飯、の言葉につい耳がぴくっと反応しちゃったけど、それよりもご主人が心配になった。

 カレシはどうして、ご主人にこんなことをするのかしら。

 とっても優しいご主人なのに。

 今度カレシが来たら、思いっきりひっかいてやろう。


 その後、カレシが来る度にご主人の傷は増えていった。

 あたしはカレシのかかとに研ぎ澄ました爪で深い3本線を作ってやった。

 「このクソ猫が!」

 逆上したカレシに蹴られそうになって、ご主人があたしをかばってわき腹にまたナス色が増えてしまった。

 ご主人の顔から笑顔がなくなっていった。

 そして、ご主人の携帯電話が鳴るとあたしはあのキャリーに押し込められる。

 「狭くてごめんね。でも、また蹴られたら痛いものね」

 ご主人はあたしの顎を撫でながら悲しそうに笑った。

 

 あたしが大きくなりすぎたのか、キャリーは足も伸ばせない程のスペースしかない。

 薄い茶色のプラスチックの扉ごしに、部屋の中を窺う。

 ソファで、カレシがなにやら騒いでいる。

 手にはビールの500ml缶。

 ご主人はカレシの声や態度にびくびくしているみたい。

 

 あ、ご主人が叩かれた。

 頬を平手で打たれ、唇を少し切ったようだ。

 唇の端に血が流れ出す。

 酷い。ご主人にそんな酷いことしないで。

 カリカリカリカリ。

 プラスチックの扉を開けようと、あたしは爪で扉の栓を引っかく。

 爪が折れてもいい。抜けてもいい。

 ご主人を守るんだ。

 

 「いい加減にして!!」

 ご主人は初めて声を荒げて、カレシに向かって怒鳴った。

 「もう付き合いきれない。出て行って!」

 「誰に向かってそんな口きいてんだ!殺すぞ!!」

 カレシがご主人の頭を殴り、倒れこんだ身体に蹴りを入れ始めた。

 どかっ。どかっ。

 もうやめて。ご主人が死んじゃう。

 がりがりがりがり。がりっ。

 扉の鍵が壊れた。少しだけ扉が開き、つんとした血の臭いが鼻を麻痺させる。

 ご主人は・・・。

 ご主人は口から大量に赤い血を吐き、馬乗りになったカレシに首を絞められていた。

 すでに力がなくだらりとした腕は、明確な殺意に抗おうともせずに床に着いたまま。

 あたしは、怒りに任せてカレシの手首に力いっぱい牙を埋め込む。

 絶対、離してやるものか。食いちぎってやるわ、こんな腕。

 ご主人に痛い事する手なんていらない。

 しがみついた手に爪を突き立てる。

 「痛っ・・・痛ぇっ。このっ・・・クソ猫がぁ!」

 

 あ、落ちる、と思った瞬間。

 カレシの腕にしがみついたままのあたしは、頭に言いようもない程の衝撃と痛みを感じた。

 ガツン、と床に叩きつけられて、あたしはぴくりとも動けなかった。

 しっぽもだらん、と落ちたままで、それでも目線はご主人に向けた。

 ご主人は、目を見開いてあたしを呆然と見つめていた。

 「あ・・・・あ、や、やめて・・・。その子は関係、ないじゃないの・・・・」

 「うるせぇよ!見ろよ、この腕!お前がそう躾けたんだろ!!」

 カレシは流血する腕で、またご主人の首を絞め始めた。

 悔しい。目の前で、ご主人が痛いことをされているのに。

 どれだけ力を入れようとしても、爪1本も動かない。

 おかしいな。身体はもう、痛くないのに。

 

 やがて、ご主人も動かなくなった。

 カレシはそこで、初めて震えだした。

 自分がやってしまったことに、ようやく気がついたらしい。

 「う・・・・うわぁぁあぁぁぁ!!!!」

 叫びだしたかと思うと、一目散に玄関から外へ飛び出していった。


 「・・・・み、みぃ・・・・・」

 振り絞った声は、小さく掠れ過ぎていた。

 ご主人はうつ伏せで、顔をこちらに向けて倒れている。

 ご主人の顔は血だらけ。あたしもきっとそうかな。

 いっぱい、いっぱい痛かったね。

 ご主人。カレシ、帰ったよ。

 また、一緒に寝ようよ。

 今日は疲れたよ。

 ねぇ、ご主人。

 また、頭撫でてよ。

 笑ってよ。

 あたし、その笑った顔、大好きなんだから。

 

 「ぅ・・・・う・・・・」

 ご主人が、閉じていた目をかすかに開けて右手をこちらに伸ばす。

 そして、あたしを引きずるように抱き寄せた。

 ご主人、温かいな。

 いつも抱っこされてると、ぬくぬくして眠くなるんだ。

 「う・・・ごめ、ごめ、ん、ね・・・」

 ご主人が泣いてる。

 ご主人が悲しいとあたしも悲しいよ。

 しょっぱいけど、涙をまた舐めてあげなくちゃ。

 あぁ、でも。

 もう、眠いや。

 ごめんね、ご主人。

 今日は、慰めてあげられないんだ。

 ご主人も眠いの?

 じゃぁ、もう寝ようよ。

 夢の中は、自由なんだよ。

 あたしは、外を走り回って。

 ご主人はあたしを困った顔して、でも笑いながら追いかけてくれるの。

 きっと、楽しいよ。

 あ、甘エビも食べよう・・・ね。

 


 がやがやと、狭い部屋の中で騒がしい。

 時折、パシャッと乾いたカメラの撮影音が響く。

 「惨いことするよなぁ・・・」

 4、50代らしき若干白髪の混じった男が合掌しながら、ぽつりと呟いた。

 「でも、なんだか笑ってるように見えますね」

 男の後ろから、若い男が声をかけた。

 若い女性とグレーの猫の死体。

 寄り添い、眠るように横たわっている。

 「よほど可愛がってたんでしょうね。犯人ホシの腕、見ました?もう少しで静脈ブチ切れるところでしたよ。このにゃんこがやったそうです」

 「主人思いのいい猫じゃねぇか・・・さて、こってり犯人ホシを絞ってこようかね。情状酌量狙いで自首してきやがって」

 「うわぁ・・・ヤる気満々ですね・・・こりゃぁ今日は帰れなさそうだな・・・(今日デートだったのに・・・)」

 「なんか言ったか?主に最後」

 「いいええ!何も!」

 




 とあるペットショップ。

 「みぃ」

 小さな部屋はガラスで仕切られ、様々な犬や猫が1匹ずつ入っていた。

 他の猫に比べ、さらに小さいグレーの猫が身体を震えさせて鳴いている。

 その前で小学生らしい女の子が、母親に駄々をこねていた。

 「お母さん、この子。この子ほしい!」

 「駄目よ。見るだけって言ったでしょう。ウチはマンションだから飼えないのよ」

 母親に手を引かれ、なかば半泣きでしぶしぶ去っていく女の子。

 

 だれか、あたしを連れて行って。


 「みぃ」

  

 

 また、ひとが目の前にきた。

 「この猫?」

 「うん、この子。絶対家に来るべき子よ。仮予約だけでもしていかなくちゃ」

 「この子ばかり構って、俺は蔑ろにしないでくれよ」

 「飼う前からやきもち妬かないでよ。2人で可愛がればいいじゃないの」

  

 あたしの前で、2人のにんげんが幸せそうに笑いながら話している。

 どこかで、見たことあるような。無いような。

 あぁ、このひと達が連れて行ってくれたらいいな。

 

 「あ、店員さんいた。

  あの、すいません、この子なんですけど。

  

  いつ、連れて帰れますか?」  

 

   

 

 

 終

 

 

 


 

 

 

お初におめもじつかまつります。

はなぶさ れいと申します。

普段は、読もうのほうで色々読ませていただいております。

昔は二次ばかりでしたが、ふと書いてみたくなって投稿しました。


あとがきなので、ここでひとつ。

私、痛いことは嫌いです。なすは好きです。

猫大好きです。モデルは実家と今飼っているにゃんこです。

にゃんこ、すまん。君にはモデル料でおやつあげるね(笑)

ほんとはほのぼのを目指したはずが・・・

おやぁ・・・おかしいな。

根暗感ひしひし出しちゃったよ・・・

最後までうっかり読んじゃった方、申し訳ありませぬ。

ちゃんと次は初志貫徹してほのぼの書こう!

いや、書く!・・・たぶん


ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

またどこかで。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。 拝読いたしました。終盤にさしかかった箇所で、涙ぐみました。 ※猫の独白や、「主人思いのいい猫じゃねぇか」の台詞のところです。 見知らぬ人からの暴力ではなく、既知の(もとも…
2013/09/13 23:32 退会済み
管理
[一言] 本当にいいお話で感動しました。 ご主人の女性が最後まで猫ちゃんを大切にしていて……綺麗に仕上がっていると思います。
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