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邂逅

姫騎士とオーク。どうしてこうなった。

「くっ、殺せ」

 主戦場に程近い森の中、ここは諸種族連邦陸軍(人間側にとっての『魔族軍』)の指揮所近傍。

 フルフェイスヘルムに胸当て、暗色の軍装に身を包んだ小柄な人間の兵士が膝を屈して苦々しげに吐き捨てる。周囲には手傷を負い、うめき声を上げるばかりの部下と思しき十名程度の同じ装備の兵。



「小さき勇士よ、我が軍の指揮所を少数の遊撃隊を率いて狙い、見事果たさんとしたその武威を讃えよう。貴公は士官と見受けるが、我がオーク族の習わしに従い、誇り高き貴公の魂が汚される前に我が刃で常世へと導いてくれよう。気高き魂に戦の神の慰撫が在らんことを」

 重圧が形を得たような巨大なオークが朗々と言い放つ。巨体に見合った深くて豊かな声音だ。奇襲は、このたった一人のオークに阻まれた。

「そうしてくれ・・・私は、貴様と戦えてよかった」


 沈黙。森に溶ける奇怪で重厚な装束と面頬の奥で、何やら思案する気配。

「・・・。ふむん、貴公はずいぶん若いようだが、生きたくはないのか?」

「何を言い出す、さっさとしてくれ、オークの戦士」

「少し興味が湧いたまでのことだ。それに、貴公らの軍・・・軍と呼んでいいものかな?どうにも、お粗末な烏合の衆と呼ぶべきあれらはもう敗走している。時間はあるのだ」

 奇妙なからくりの付いたハルバートを地面に突き立て、異様な面頬を兜ごと外すオーク。

 炭酸水の瓶を開けたような音が響く。


「なっ?!」

 オークとは豚のような面をした醜いバケモノと聞かされていたが、その下から現れたのは、厳しくも凛々しい壮年の偉丈夫であった。豊かなもみあげがあるが、髭をあて、短く刈り揃えた灰褐色の髪、青白い肌、巨躯。ヒトとの違いはそれだけに見える。

「年寄りの戯言だよ、400年余りも生きると、何かと退屈なのだ」

 にやりと渋い笑みを浮かべる口許からぞろりと生え揃う牙が見え、彼がヒトならざるバケモノだと思い出す。

「やっやめ!」

 驚いていた隙に、するりと丁寧に兜が外される。巨躯に似合わぬ素早い身のこなし、器用で繊細な手先だった。

「ほう?!貴公、いや、君は、女性にょしょうであったか」

「く・・・だったらなんだ、化け物め。私を辱めるか?!卑しい魔性の者どもが!」

「ふぅむ、・・・どうも、君たちは我々を勘違いしているものよのう。そのような下らんことを、我らがすると思うのか?下劣なゴブリンの匹夫共でもあるまいに」

「いっしょだろう!ゴブリンも!オークも!!さっさと殺せ!私を殺せ!」

「いいや、ちがう。よいかね、お嬢さん・・・いや、どこぞの姫君かな。高貴な生まれと見受けるがこんなところで暗部のまね事とは、よほど事情があるのだろうな。ますます、興味が湧いてきた」

 そこでふと、彼は声の調子を変える。

「・・・死ぬのは、怖かろう」

 ぎくりとする。

「泣き腫らした瞳で殺せとうら若い乙女に懇願されて、嬉々として斬る畜生になるつもりはないよ、儂は」

「うるさい!きさまに何がわかるのだ!」

 甲高く乾いた連続音が響き渡る。

 びくりとして音の方を見る。

「・・・・・・捕虜の処刑か」

 忌々しげに言い放つオークの戦士。

 その視線の先を見詰めると、森の途切れた丘で捕まった友軍の槍兵が膝をついて並ばされ、次々に魔族の火魔法で薙ぎ倒されていた。

「・・・ほらみろ、魔族なんて野蛮で卑劣な汚らわしいものどもだ。せめて私は、貴様と戦って討ち果たされたい、頼む、オークの戦士、私を、殺し、て・・・」

 声にならない。死への絶望と恐怖、しかしそれでも虜囚になった女が受ける過酷な責め苦よりは、この高潔な武人に敗れて死ぬほうが、よほどいいという諦観にも似た自嘲と欺瞞。

 涙が溢れる。羞恥が溢れる。


 面白くなさそうに、オークの巨漢は私を見つめる

「・・・やはり興が乗らんな」

 オークの戦士は背を向けて歩き出す。

「どこへ行く?!私を放り出して何処へ!」

「ゆけ、ヒトの姫君よ。よくよく考えれば、ここの現地中隊指揮官の隊に捕まれば、情報を得るために尋問されるか人質交換の材料にされるのがオチだ。つまらん、実につまらんよ」

「そんな・・・わたしは、どうなる?おめおめと逃げ帰った私は」

「切り拓いてみよ、姫君。君を縛るそれらを断ち切ることが叶えば、君はより強くなって再び儂とまみえるだろう。それまでは、姫君、貴女の首は預けておこう」

 後ろ姿が森に溶け込む。

「足掻くことだな。さらばだ、ヒトの姫よ」



 2



 不機嫌であった。

 剣と槍、弩と弓矢で武装した人類をDF-3MG24(第三ドワーフ工廠製24式機関銃)を始めとした火器で薙ぎ払うという嫌気が差す仕事に、彼の主たる諸種族連邦大統領は直々に参加を命じてきた。

 特務大佐たる彼がこんな辺境に出張る必要など本来は毛程もないというのに、一体若き主は何を目論んでいるのか。

「大佐殿、ご無事でしたか」

 彼と同じ装具を身に纏うオークの若き巨漢が光学迷彩をオフにし、声をかける。

「少しは骨のある奴らがいたと思って出てみただけだ。ヒトの剣では儂の装具に傷もつかんよ」

 身に纏う装具はノーム族の露天掘りで産出したレアメタルとレアアースを用いたセラミックと合金、スペクトラ繊維をふんだんに用いたEODタスクの防護服を特務作戦用に改造した特注品で、本来はオークの巨躯で大口径重機関銃を運用し、敵火をものともせずに蹂躙するためのものだ。今はその重厚長大で肉厚な4メートルの銃身に着剣したアックスが血に濡れるばかりで、一発も撃ってはいない。撃つ必要すらなかった。

「ネックガードに破損がありますが」

「ほう?」

 指摘されて初めて、己の装具の襟元の装甲にごく浅い亀裂と破孔があることに気付く。

 あの姫君の刺突だ。ただの削り出しの粗末な鉄剣で儂に一撃浴びせるとは!

「何故嬉しそうなのです、隊長。たかがヒトの娘子に白兵で我が一族の長が斃されては、大事ですよ」

 咎めるような声音。

 これでもこの甥でもある独立特務部隊の副官は、儂を心配しているのだ。かわいいやつだのう。

 それに、儂が死んだらおまえが族長になるだけだしのう。

「いやなに、つまらん戦場にも、面白いことはあるなと思ってな」

「面白くありません、伯父様」

「ふむ、そうか?」




「・・・足掻けよ、小さな姫君」

 面白くもない戦争に、長過ぎる生に飽いていた儂を、少しでも儂を楽しくさせてくれ。

 世界に、執着させてくれ。

こんな感じで続きます。ありじゃん、と思いましたら読んでやってください。

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