第8話 零夜のため
完全にKANAさんにばれてしまったわたしは、乗りに乗っかったKANAの
言うことをうん、うんと頷くことしか出来なかった。
せっかくのソロデビューはわたしにとって、Sweet★Kiss桐生零夜として
引退の日になってしまうかもしれない。
そして、どうやって女物の衣装を借りることが出来るか。
ソロデビューサイン会のある5月28日はREINAさんも海外に行ってるため
わたしのことを知ってる人は皆敵だらけになってしまった。
笹船さんも別のイベントでいないし。
「どうした?零夜。」
「聖さん・・。ちょっと悩んじゃってて。」
「俺でよかったら相談に乗るけど。」
「じ、実はKANAさんに女だってバレちゃって・・。」
「そっか・・。大丈夫、大丈夫。(頭をなでる)俺が何とかする。」
「話せる人がいてよかったです。ありがとうございます。」
と、そのとき聖さんにわたしはギュッと抱きしめられた。
これはきっと安心しろって意味なんだと思った。
聖さんはわたしが桐生零夜としてデビューしたときからずっと
優しくしてくれて、いつも心配してくれる人だった。
抱きしめてくれたのは、安心しろって意味とは程遠いかった。
「俺さ、初めて会ったときから、お前のことずっと好きだった。」
「え・・・・・・・・・・・・?」
「知ってるよ?涼介が好きなんでしょ?」
「え、あ、その。」
「俺は今想い伝えただけ。俺も涼介のこと応援する。」
「聖さん・・。」
「俺のこと気にしないで。じゃ。」
この広いわたしたちの家。
通称「S★Kホーム」は現在涼介さんは仕事でいないけど
それ以外は全員いるみたい。
聖さんと言葉を交わす前はこの家が楽しくて、過ごしやすい場だと
思ってたけど、聖さんとしゃべった後
この家の時計の音、外から聞こえる鳥の声・・
すべて遠く聞こえる気がする。
涼介さんを想う気持ちは好きってことなのかな。
でも好きになったら、KANAさんの言うとおり、引退しないといけない。
(スタジオの1階でばったりKANAと会った涼介。)
「もう一度言うけど、わたしと付き合ってよ。」
「またその話か、ふん。」
「零夜のことばらすから、女だってこと。」
「何でお前それ・・。」
「桜木癒亜とマスコミの前でキスして。」
「何でだよ。」
「じゃなきゃ、バラす。」
(そのとき、「しつこい!」で有名なマスコミ軍団が追いかけてきたのを見て、手をつかんで走る2人。)
(KANAが階段前で転び、マスコミとの距離が近くなってくる)
「おぃ!転ぶなよ!」
「先行って!涼介の方が聞かれたらまずいことあるでしょ!!」
「・・・・・・・。」
(マスコミに捉まり、涼介と知らないマスコミはあの男は誰だと質問攻めする。)
「あ、あれは・・・わたしの彼氏です。結婚前提にお付き合いしてます。」
「芸能人ですかっ?スタッフの方ですかっ?」
「Sweet★Kissの涼介さんです。お仕事で知り合いました。」
「だ、大ニュースだっあ~!!!!!」
涼介さん、まだ帰ってこない。
午後の1時を過ぎた。
12時までには帰ると言っていたのに
約束を守る涼介さんが
なんで、約束を破ることを・・。
2時半には全員で仕事があるのに。
(涼介は一人屋上で)
「遅れたのは零夜のためだ・・。」