〓2.泣かないで
「ていうか付き合う気すらないし。有紀奈は俺のことなんとも思ってねぇだろ」
思ってるくせに何言ってんだよ俺。そこに有紀奈が来た。
「なんの話してんのー?」
「邪魔者は消えますよ」
俺は自分の席へ戻った。
「ちぇっ。直哉も一緒の方が盛り上がるのに〜」
「松原もしかして直哉のこと好きなの?」
「え!違うよ。あたしが好きなのは――」
ガラッ
先生が来た。先生がドアを開けた音で小さな有紀奈の声は消された。
「あータイミング悪かったな」
「またチャンスはあるさ」
「応援してね。次告るつもりだから」
俺はお前が好きなんだ。
「うん」
なんて言えるかバカ。
「や、やだ」
「なんでよ。応援してよ〜」
有紀奈は急に泣き始めた。
「ゴメン」
「将也…結構もてるから…話してると友達に嫌われて…今友達は…あんたしか…」
有紀奈の言いたいことはだいたい分かった。有紀奈が泣いていることに先生が気づいた。
「どうした?松原」
しーん
誰も
「どうした?」
「大丈夫?」
と有紀奈に声をかけようとしない。
本当に有紀奈に女友達はいないんだ。
このクラスで有紀奈が信用できるのは俺しかいないんだ。
強い風がふいた。有紀奈の手首らへんにアザみたいなものがチラッと見えた。
“もしかしていじめられてる?”
俺はそう思った。でもここで話すのは有紀奈がかわいそうだからとりあえず、
「松原さん、具合が悪いそうなので、保健室まで連れていきます」
と嘘をついておく。
「あぁ。よろしく」
先生は俺の嘘に騙された。先生に嘘をつくのは初めてだ。