ある少女
掲載日:2026/10/09
列車の窓からは梅雨らしい雲が垂れ込めているのが見えた。車内は座席が埋まり、ちらほらと立ち客がいる。私は友人の周忌に合わせて帰郷し、今その列車に揺られている。久しい里帰りも日頃の疲れからうとうとと微睡んでいると、ふと前の座席に少女が座っているのに気が付いた。見ると供花を携えている。
身体に比して大きなその花は隣の壮年の男の胸元らに触り、男は困惑の表情を浮かべていた。けれども少女は気にせずに列車に揺られている。
私はその時、何故か友人の幼い頃を思い出していた。あいつも周りの大人が困り顔していても気ままだったような気がする。そうして私を見つけて満面の笑みで呼ぶのだ。あれはいつの頃だったろう。そしてどこで何をしていた時だったろうか。あいつの顔は、声は……。
誰かに。誰かに呼ばれたような気がしてふと顔を上げた。すると目の前の少女はいつの間にか買い物袋を提げた老女に変わり、窓からは雲間の日差しが射し込んでいた。どうやらうたた寝をしていたようだ。
老婦人は目を閉じて、眠っているのか買い物袋の擦れる音が聞こえる。隣に座っていた男もいつの間にやら女子高生に交代し、車内は相変わらず座席が埋まっていた。ふと、私は少女の顔を思い出そうとした。しかし、なかなか上手くはいかなかった。




