第05話 初恋のトキメキを思い出してしまいます
「ヴォワさまヴォワさま、どちらに向かわれるのですか?」
夏の日差しが照りつける中、ヴォワとエアラリスは歩道をゆく。
茶色いブロックが綺麗に敷きつめられた歩道には残念な話だがガムが無数についていて少々がっかりさせられる。
しかし歩道と車道の境目には小さなひまわりが一列に並べられていて、それはとても可愛らしい。
街中に存在する美術館を後にした二人は今現在郊外に向かって歩いている。ヴォワが脚を地面につけるたびにキン、キンと高く弱い音が響いて涼し気な感覚をエアラリスに与えた。エアラリスの故郷・日本では風鈴と呼ぶ鈴があるけれどそれに似ているからか彼女の気持ちが自然とほぐれたのだ。
とは言えまだ仕事中。のんびりとひたっているわけにはいかない。
「黄金時計の作者の家だよ」
「あれ? 秒針を盗んだ犯人を見つけられるのでは?」
「勿論、そうだ」
「? となると――そうなのですか?」
ピンと来たのか、答え合わせをお願いする。
「ほう、キミも中々わかる子になって来たじゃないか。私のところに初めて来た時は非常にオドオドしていたのに」
「む、昔の話はやめてください初恋のトキメキを思い出してしまいます」
「……そうか、やめておこう」
いやよいやよと首を振るエアラリスに、ヴォワは少しばかりひいてしまった。
ただ、同性とは言え好意を向けられるのは喜ばしく、ありがたい話だ。それは有名人であるヴォワにとって珍しいものではなかったけれど、こうしてパートナーとなったのはエアラリスが初めてである。レアケース。それゆえに大切な間柄で今後もほどよくともにいたいものだ。
「ん?」
「え? どうかなさいましたか?」
歩道をゆくヴォワの歩調が少しゆるくなった。止まりはしなかったけれど眼は細くなっている。
「美術館から色をたどって来たが……途切れたね」
ヴォワの小さな白い手が宙に伸ばされる。まるでなにかを支えるように。そこには残り香のように色が漂っていたのだけれどエアラリスには見えない。それが淋しいとは思わない。人間は同一の存在などありえない。だからこそ出逢いには意味があるのだ。
「途切れた……人の色って途切れちゃうものなんですか?」
「いいや。生きていようが死んでいようが漂わせ続け、生前は影のように、死んだなら土にうまり、あるいは空へと向かっていく。土葬や火葬によって変わって来るがいずれにしても消えたりはしない」
「地球より外にあふれちゃうんでしょうか?」
「さぁ? 行った経験がないからわからない。天上に興味はあるがそれよりも地上に残している謎の方が多いからね、私がいくのは晩年になるだろう」
「その時はぜひ! お供にこのエアラリスを!」
「費用は自分で持ってくれ」
「う……う、宇宙航空会社さんに安くしてくれるようメールを大量に送っておきます」
「逮捕されないようにね」
「はーい」
さて、とヴォワはエアラリスに向けていた視線を前に戻す。あらためて色を視ると別の色が突如として現れていた。
「これは……一つが姿を消して別のが出て来たな」
「つまり……人格に異常が?」
「そうなるだろうね。ではエアラリス、左目の用意をしておいておくれ」
「え? 危険な色が視えるのですか?」
「ううん。ただ多重人格というものは主人格を護るために産まれるものだ。そのために少々手荒な手段をとる輩が多い。今は落ちついているようだけれど突然豹変される可能性がある」
「わっかりました! 充分見て素敵な『銃弾』をご用意します!」
「うん。
では、進もう」




