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花嫁は王冠を抱いて ~ヴォワ=デートによるカラフルデイズ~  作者: 紙木 一覇


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第04話 ……え⁉ ヴォワちゃんに男⁉

「確かに、秒針だけが消えているね」


 美術館の中央、大ホールに堂々と佇む黄金の巨大時計、それこそが件の時の秒針があったはずの時計である。

 巨大な文字盤を護るように配置された黄金の装飾は陽光を受けて輝きまさに荘厳。文字盤には数字の代わりに十二星座の紋章が彫られていてこれの作者が星占いにも秀でていたことをうかがわせる。


「作者は占星術師でもあったね、トーハ?」

「そうよ。

 えっと――ハイ=ルミナっていう性別不詳・年齢不詳のアーティストの作。所在も不明。イギリスってことと占いの腕がちょっとあるってことまではわかっているけれど。

 資料見る?」

「結構。不詳山盛りのアーティストだ。紙に載っているのは仮面をかぶった本物かどうかもわからない人物の首から上の写真だけだろう」


 事実、資料にクリップで止められている写真は仮面の麗人だ。


「当たり」

「ふ、警察の情報網などその程度よ」

「なぜキミが胸をはるのだエアラリス」


 まあいいか、呆れながらヴォワはKEEP OUTと書かれた黄色いバリケートテープをこえた。トーハ以外の下位警官・捜査官がこちらにちらりと視線を向けるものの止めるものはいない。ヴォワが関わってくるとは聞いていたから今更驚きはしない。


「しかし、よく秒針だけ盗めたね」

「そうなのよね、これ文字盤に触れるには周りの装飾を決められた順番で外していかないと必ずどっかで邪魔が入るのに」

「順番か」


 ソッと黄金装飾に触れるヴォワ。ヴォワの眼には黄金装飾――黄金時計の発する色が()える。彼女にとっては黄金時計と会話しているも同然だ。ソッと手を添えれば簡単に開いてゆく。


「流石」

「えっへん」

「なんであんたが威張るのよエアラリス……」


 二人がそうして張り合っている内にもヴォワは手を進め、あっさりと文字盤に辿り着いた。


「秒針を失い他の針も止まったのか」

「困るわよねぇ」

「困りますねぇ」

「困りはしないだろう。これを芸術品ではなく時計として見ていた人間はそう多くあるまい」


 例えばデザインに優れた懐中時計が時計ではなく見て楽しむものになったり。


「そうなんだけどね。でもそれって時計としてどうなの?」

「この黄金時計から感じる色にそれを表す悲しみはないよ」

「あら、ものに心があるみたいに」


 その考えは今一つトーハにはわからない。


「ないと思うかね?

 エアラリス、聞かせておあげ」

「はいはぁい。

 トーハさん、わたしの故郷である日本ではものに愛情を注ぎ続けると魂が宿るって話があります。

 これは日本のものに限ったお話ではありません」

「えっと、だから日本の神さまは多いんだっけ?」


 顎に手をあてて脳内の知識を探るトーハ。


「ですです。八百万」

「一神教のあたしにはわからない感覚だわぁ」

「ふ、了見が狭いですな」

「あ! 笑ったわね今!」

「ええ心から」

「ええいケンカは止めたまえ。雑な色が混じってしまうだろう」

「「ご、ごめんなさい」」


 叱られ、しゅんと落ち込むさまはある意味息がぴったりにも見えた。

 ヴォワはそんな二人からやれやれと眼を離して再び黄金時計に触れる。


「ん?」


 視える色に変化があった。


(これは――喜んでいる?)


 そんな風にヴォワには思えた。

 けれどその一方で、


(哀しみもある)


そんな風にも感じる。


「……しまった」

「え? どうなさいましたヴォワさま?」

「つまらん聖人を思い出してしまった」


 エアラリスが固まった。ヴォワが口にした聖人、ヴォワが唯一聖人と認める某人物を思い出してゆっくりと苦虫を噛み潰したような表情へと変わる。


「え? なになに? お姉さんにも教えて」

「口に出すのもイヤです」

「あんたが嫌うってことはヴォワちゃんに近寄る男なのね。

 ……え⁉ ヴォワちゃんに男⁉」


ざわ!


 美術館に集っていた人物の間にどよめきが波打った。


「だ・れ・が・わ・た・し・の・お・と・こ・だ・っ・て?」

「ちょっ、その小さな刀しまって、首に当てないで」

「まだ抜刀していないだろう」

「脅しには充分だって」


 ふぅ、呆れ交じりのため息を零してヴォワは刀を首から外す。


「ふっ、その懐刀はわたしが鍛えたのですよ」

「なんだなまくらか」

「なまくら! なまくらとおっしゃいましたか⁉ ちょー心外! ねえヴォワさま⁉」

「キミのケンカに巻き込まないでおくれ。

 だがまあ、一言だけいっておこう。

 これは相当出来のよい逸品だよ」

「あ、あたしがあげた銃は⁉」

「これか」


 ぽんぽんと左脚を叩く。ヴォワの太ももには小さな銃がしまわれている。因みに右脚の太ももに懐刀だ。


「これ別にキミが造ったものではないだろう」

「うぐぅ!」


 一発もらったわけでもないのに胸を抑えるトーハ。


「うふふふふふふ、どうやらわたしの方が一歩二歩先にいるようですね」

「……っち」

「舌打った! 不良警官!」

「で、ヴォワちゃん、どうしてその男の子を思い出しちゃったの?」

「話変えた!」


 笑顔でだ。


「うん……なんでもないよ。

 それより秒針を盗んだものだが」

「ん?」

「犯罪者ではないよ」

「え?」


 盗んだのに、である。


「追う必要はない。私がケリをつけよう」


 エアラリス、帰るよ。

 そう言ってヴォワはこの場を後にした。

 黄金時計の針が二十三時五十九分で止まっている事実に気づいているものは少なくはなく、しかしそれには意味があると気づいているのはヴォワを含め数人だけだった。

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