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花嫁は王冠を抱いて ~ヴォワ=デートによるカラフルデイズ~  作者: 紙木 一覇


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第01話 いいだろう、引き受けた

よろしくお願いいたします!

 時の秒針が盗まれた――


 チ、チ、チ

 と小さな音を響かせながら動くはずのそれが展示品から消えたのに監視員が気づいたのは今からちょうど半日前。

 この部屋に飾られている壁時計を見ると針は午後0時を示していて、


 ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ


部屋の主である白く小さな花嫁、ヴォワのお腹は可愛らしい――とは言えない抗議の音をたてていた。


「キミ」


 場所はイギリス、その一つの街の郊外に建てられている小さなマンションの一角。小さいながらも外観デザインのこった造りになっているこのマンションのひと部屋に女の子の声が響いた。ハスキーだがよく通る落ちついた声で部屋から――防音がしっかりしているはずだけれど――もれても男は思わず聞きいる声音だろう。


「はい?」


 キミ、と呼ばれて返事をするのは膝より少し下にあるガラステーブルを挟んでヴォワの前方にあるソファに腰を下ろした男。黄土色のスーツをきちっと着ていてネクタイは黒。茶系・カフェオレ色の髪は短く刈られている。印象を語るならば堅物・マジメ。よいことだ。たずさわる仕事に向いている。歳のころは二十前半と言ったところか。確か前に聞いたな、そうヴォワは思うがどうしても思い出せない。きっとその時どうでもいいと思って聞き流したのだろう。そして今日この時もどうでもいいかと思っている。


(多分一生この男の歳を覚えることはないだろうな)


 しかし歳はさておき、ヴォワは今、一つの好奇心を男に向けていた。ただその好奇心は怒気なのだが。


「時の秒針の消失に気づいたのが午前0時。

 で、私の元にやって来たのが今。この半日警察機関はそれはもう手を尽くしまくって探したのだろう」

「ええそうです」


 かく言う男の方も苛立ちから怒気をはらんだ言葉をつづる。

 ただヴォワとは違う。ヴォワは男に対して怒っていたが男はヴォワに対して怒っているのではない。彼の怒りの矛先は自分が所属する警察機関に対してだ。


「ですがたった半日です」


 男は重く息を吐き、ヴォワを睨む。いや、睨んでいるのは警察機関――自分を含む役に立たなかった警察機関か。


「うん」

「半日でネを上げたんですよ、プロが」


 悔しそうに。


「そうだね、判断が遅い」

「早すぎますよ。地も空も海も封じこんでさあこれから街中を探すかってところです。人海戦術を使えば恐らく見つけられます」


 見つける自信があると、そう言っている。それは間違っていない。この国の警察機関は非常に優れている。大きすぎる事件ならばたまに迷宮入りさせてしまうがドロボウ一人くらいなら見つけられるだろう。ヴォワとてきちんと認めている。

 しかし。


「そこだね」

「は?」

「それだけやって見つかりませんでした、ではメンツに関わるから私に話が来たんだろう」

「……メンツと言うなら民間人である貴女を頼っている時点でメンツ丸つぶれですよ」


 はぁ、大きくため息を一つつきながら男はソファに背を預ける。柔らかなソファだ。体が沈むほどのそれは人を夢に誘う装置とも言えた。


「それはないよ。だって私には能力がある。それを国民は認めている。国家もね」

「能力、ですか」


 どこかあざけるような意味を込めて笑う。


(能力と来た)


 先に語った通り男の印象は堅物・マジメ。あっている。男の性格はまさにそれだ。科学的に証明されていない超能力の類は信じていない。だから自らの異常を能力と語るこの少女ヴォワによい印象は持ち合わせない。


「おや、この『色』は見下しているね」

「……()ないでくださいよ」


 そう言われても視えてしまうのだから仕方がない。

 ヴォワは男の抗議を流し、視線を男の胸に移す。


「正式な依頼書を内ポケットに持っていながら見せないのはどうかと思うが?」


 男は表情を歪ませた。フユカイ、それを隠そうともしない。しぶしぶスーツの内ポケットに手を入れて一枚の紙切れをテーブルに置いた。

 上司からあずかったものでヴォワへの協力の依頼書だ。


「フム」


 もう何度目になるかわからない依頼書。内容はほぼ同じ。それでもヴォワはきちんと上から下へと眼を通してからサインをいれた。


「いいだろう、引き受けた」

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