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ホットケーキはサスペンス

掲載日:2025/12/27

美月は、夫の弘人と結婚して三年になる。

付き合いは十年。今でも大好きで、倦怠期なんて言葉は、自分たちには縁がないと思っていた。


けれど最近、弘人の様子がほんの少し変わった。

帰りが少し遅くなった。髪型をやけに気にするようになった。つけたことのない香水を、ほんの少しだけ。

理由を聞けば、立場的に、年齢的に、と歯切れの悪い答えが返ってくる。

大したことではない。そう思おうとするほど、胸の奥がざわついた。

 

休日の朝、珍しく弘人がホットケーキを焼いてくれた。

甘い匂いが部屋に広がり、美月は少し安心した。

 

食べてしばらくして、息ができなくなった。

視界が白くなり、全てが遠ざかる。

 

救急車で運ばれた。

美月にはそばアレルギーがある。それは弘人も知っている。

けれどホットケーキに、そば粉は入らない。検査をしても原因は分からなかった。


家に戻り、箱を確かめる。ただのホットケーキミックス。

それでも怖くて捨てた。


弘人は驚くほど過保護になった。

水は飲んだか、寒くないか、無理はするな。

一瞬、疑った自分を、美月は反省した。


しばらくして、美月は自分で材料を買い、ホットケーキを作った。

弘人を疑ったわけではない。確認のためだ。


何も、起きなかった。


数日後、残りの材料でまた焼いた。

今度は、倒れた。


真相は、意外なところにあった。


弘人は浮気していなかった。会社の後輩女性に、ただ相談されていただけだった。

腹は立ったが、好意がないのはすぐ分かった。


その女性が、相談のお礼にホットケーキミックスを渡していた。

「ぜひ奥様へ」と言って。

そこに、そば粉が混ぜられていた。

飲み会で、弘人が「妻はそばアレルギーだ」と話していたのを、覚えていたらしい。


棚の下に滑り落ちていた、捨てたはずのその粉を、弘人は美月が買ったものだと勘違いして箱に戻していた。

 

背筋がぞわりとした。


甘くて、やさしい響きのホットケーキは、あやうく命取りになるところだった。


――いや。

これはもう、十分すぎるほどサスペンスだ。


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― 新着の感想 ―
ものすごく鮮やかな短編ですね! 秘められた悪意が怖いです…
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