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一話 死に近い少女

 ――ふと、ひんやりとした気配が辺りに満ちた。

 寝袋の中に潜り込んでいた少女、モルネラはそれに気付いて目を覚ました。夜風の冷たさではなく、死んでも死にきれない者たちの嘆きがそうさせたのだ。

 焚き火はほとんど燃え尽き、赤い残り火だけが灰の中でくすぶっている。

 場所は街道から離れた森の中、このウェルデン周辺で探し人の足取りを追って彷徨い始めて数日目。

 眠りを破ったのは、薄闇の向こうから一直線に迫ってきた淡い光だった。

 それは人の形を保ったまま、モルネラのすぐ手前でピタリと立ち止まった。


 『…ネクロマンサーのモルネラ、か?』


 耳ではなく、胸の奥に響く声。切迫した響きの男の声だ。

 何もしていないのにずいぶん有名になったものだ、と心の中で皮肉を零すと、寝床から身を起こしては声の主に視線を向ける。


 「そう。わたしはモルネラ。あなたはだれ?」

 『――私は城塞王都ヴェルデンの第二王子、リオネル・ヴェルデンと申す』

 「へえ、王族の霊なんて初めて見た」


 モルネラは呆れ半分、興味半分の顔をした。王族の霊が強い未練でこの世に留まり、まさに危険と言うべきネクロマンサーの元へやって来たというのだから。

 一体どんな素っ頓狂な話が飛び出てくるか、とモルネラは構えていた。


 『私の声が聞こえる君に依頼をしたい。墓を荒らし、死者を弄ぶ最悪なネクロマンサー、奴を捜し出して殺して欲しい』

 「…最悪なネクロマンサー」


 少し静止した様子を見せたモルネラは、枕元辺りに置いていた杖を握って、楽な体勢に組み直した。

 これはどうやら、聞き逃せない話のようだ。

 

 「それは、そいつにやられたの?」


 魂だけになっている現状を指摘すると、リオネルは軽い様子で『死体もまとめてな』と語った。

 

 「ふぅん…」


 モルネラは顎に手をやり、何もないところをじっと見つめてみた。


 「いいよ。その依頼受ける」

 『本当か、恩に着る。しかし…依頼しておいてだが、手掛かりがない』

 「なければ集めるだけだから」


 間髪入れず、モルネラが答えてから少しして、静寂が訪れた。こうも快諾がもらえると思っていなかったリオネル、ただただ耐え難い眠気を催してきたモルネラの間には話題もなかった。


 「ひとまずわたしは眠いから、明朝に発つ」

 『あ、あぁ。分かった』


 モルネラのマイペースに若干呑まれながらも、冷静になったリオネルは、お守りでもするかのように彼女の近くに身を置いて、もう眠気のない身体を木肌に寄せては思考を繰り返した。


 ――ネクロマンサーは本来死者の声など聞こえないはず。驚きを隠せないが、それ以上に幸運だった。

 出来る限り、それか限界を超えてでも彼女は守らなければ。


 顔を上げて視界に入った満天の星空の夜は、不意にも新しい旅立ちを告げているようだった。リオネル自身の救国の旅、そして、今は誰も知らないモルネラ自身の復讐の旅を。


 陽がまだ登りきっていない明けの空。微量な光を感じてモルネラの目が覚める。

 いつもなら一人の目覚めに、今日は違って『おはよう』という挨拶付きだ。


 『起きるのはかなり早いんだな』

 「まあね。日陰者だから朝と昼はあんまり。…じゃ、行こっか」


 寝起き早々アクセルを踏む様子に、リオネルは思わず重要なことを聞いた。


 『ま、待て。朝飯は食べないのか?』

 「…気分次第。今日は要らない」

 『そういうものなのか』


 支度を終えたモルネラが立ち上がると、鹿の頭蓋のようなものを着け、周辺を一瞥しては杖を高く掲げる。杖の先には珍妙な鈴を付けており、リオネルは不思議とそれに引き寄せられそうな感覚を覚えた。


 『モルネラ、その鹿の頭と鈴のようなものは…』


 どこか反応の鈍いモルネラの肩に触れると、身体がピクッとはねて、リオネルの言葉を反芻してから答える。

 

 「鹿眼(かがん)。目が悪いから。こっちは魂鈴(たまのすず)。掲げれば近くの死者の場所が分かる」

 『どちらもかなりの代物だな』

 「わたしが作った」


 その一言に驚いたリオネルが、どうやってと問う前にモルネラは目的地へと歩き出した。


 ――王国ウェルデンは数多の広大な領地を持っており、その規模は随一と言っていい。モルネラとリオネルが邂逅した森はウェルデン領の東に位置し、二人はレンバート公爵が治めるレンバート領へと足を踏み入れていた。


 「第二王子さまのナビは心強いね」

 『しかし、かなり歩いているな。大丈夫なのか?』

 「このくらいなら。普段はもっと歩いてる」


 子供離れした体力に感心するリオネルを尻目に、やっとのことで目的地に辿り着く。そこには死者の魂が一つ佇んでいた。

 生前はもちろん死者など見えていなかったリオネルにも、今ははっきりと死者の姿を捉えることができた。


 『本当にいるのだな…』

 「でも向こうからリオネルは見えないから」

 『それはどうしてだ?』

 「昨夜、認識阻害の魔法をかけた。もし他のネクロマンサーの使役する死者や死体に見つかったら、情報集めどころじゃなくなる」


 なるほど、と顎に手を置きまた感心する。頭の回転の速さと魔法の発動を常に怠っていない彼女の底知れなさが垣間見えた一瞬だった。

 モルネラは死者に近付き、軽く挨拶をしては尋ねる。ネクロマンサーのこと、墓荒らしのことなどを知らないかと。


 『ネクロマンサー、墓荒らし、か…すまねぇが俺には分からんな』

 「些細なことでもなにか知ってない?」

 『…そういや俺が死ぬ前、隣の村の墓地から死体が消えただかの騒ぎがあったような』


 モルネラとリオネルは顔を見合わせ、足跡の可能性を感じ取った。


 「分かった。その場所、教えて」

 『ああ、少し分かりづらい場所だが…』


 モルネラがおもむろに取り出した地図に指を置き、場所と特徴を事細かに死者は語った。


 『そうだ、ついでと言ってはなんだが…俺が残して逝った妻と娘に、言伝を頼みたい』


 モルネラは真剣な表情で、彼の家族に伝える言葉を一語一句、胸の奥に刻んだ。


 村への道中、リオネルがふとつぶやく。

 『死者の言葉が聞こえるネクロマンサーか』

 「なに?」

 『いや、なんでもない。ただ…君のような子にその力があってくれて良かったと思っただけだ』


 褒められ慣れていないモルネラは、照れ隠しにリオネルを小突いた。

 二人は地を踏みしめて歩く。その先の村で何が起こるのかを、まだ知らぬままに。

読んで頂きありがとうございます。今のところここまでしか執筆しておらず…、二話が公開されるのはいつになるやらという感じですが、まあ出来るだけ文体や作風を維持しつつチマチマと書いていきます。

ちなみにもし「死者からのおつかい」の評価がよろしかったらカクヨムの方でも載せようかというのを検討しています。気が早いかもしれませんが笑。

出来るだけ継続なり改善なりをしていきますので、温かい目で見守ってくださると幸いです。


ところで前書きって何を書いたらいいんでしょうかね?やっぱり街の背景だったり、少々難解な単語の解説だったりとかをそこに書いたり深掘りしたりとか?

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