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第二章 ep.2



ルサリエル公爵邸は、第一印象は厳かな雰囲気だったが、お茶会会場の庭園はとても美しかった。

 

夫人の趣味だろうか、上品な家具が並び華やかな印象だった。

 

「ブレネ夫人。今日は来て頂いて、ありがとう。」

 

庭園の中心で、会場を仕切っていたルサリエル侯爵夫人がミレイユ達を出迎えてくれた。

 

「ルサリエル公爵夫人、本日はお招き頂き、ありがとうございます。今日は娘共々、よろしくお願い致します。」

母が挨拶を行うとルサリエル公爵夫人はミレイユを見て微笑んだ。

 

(あ、笑ったお顔がプリメリア様そっくり……。)

 

と、ミレイユは思った。

 

「うちの子と同じ歳なんですってね?是非仲良くして頂戴。」

「は、はい!本日はお招き頂きありがとうございます!」

噛みそうだったが、何とか言い切る事が出来た。

プリメリアに会える高揚からか、心臓が早鐘を打っていた。

 

お茶会、と言っても今日の場はとてもラフなものだった。

夫人達は、世間話に花を咲かせ、偶に席を変えながらお互いの近況を報告し合った。

 

ミレイユ含め子供達は母親の隣に座りお茶とお菓子を堪能していた。

男の子達は、動きたい盛りなのかかけっこをしている。

 

ミレイユのお目当てであるヴェルセーヌ公爵夫人とは、やはり階級の違いからか中々席が一緒になる事は無かった。

仕方がないので、ミレイユは席を離れることにした。

 

「ねえ、お母様。庭園のお花を見に行っても良いですか?」

 

「え?そうねぇ。遠くまで行かないなら良いわよ。」

私か、この家の使用人達の目が届くところにいるのよ。と念押しされ、ミレイユはヴェルセーヌ公爵夫人の席の近くにある花垣へ身を隠した。

 

何とか会話は聞こえる。

「そういえば、噂で聞いたのですが、ヴェルセーヌ家は養子を取られたとか。今日はいらしてないんですか?」

 

「ええ、主人が突然連れてきたので私も驚きましたが……。孤児院から連れてきたので、まだマナーやお作法がからきしで…。今日は連れてきませんでしたの。」

 

あらまあ、と婦人方がそれぞれ相槌を打っていた。

「この国の頭脳とも呼ばれる公爵様が、奥様に相談もせずなんて、珍しいですわね。」

 

「こんな事は初めてで、私も戸惑っているのですが…。でもとても良い子なんですよ。」

 

そうなんですのね〜うちの子なんて悪戯が多くてーーー。

と、クラリスに関しては少ないが情報を手に入れる事が出来た。

どうやらあちらも、準備期間、と言ったところだろうか。

これ以上は、情報は貰えないかなーーとミレイユが思った時だった。

 

「そこの貴女、さっきからそこにいますがどうなさったの?」

 

誰かに声をかけられ、びくっと肩をすくませた。

 

振り返ると、そこには鮮やかな黄色い髪とルサリエル公爵夫人とよく似た顔立ちの少女が立っていた。

 

「……プリメリア様……。」

 

ミレイユは思わず、かつての憧れの人の名前を口にした。


 

「……?私、あなたにお会いした事あったかしら?」

プリメリアの怪訝な顔に、ミレイユは前世の癖で名を呼んでしまった事に気づいた。

 

「あっ……、えっと、公爵夫人と、お顔立ちが似ていたので、もしかしたらと思って……。」

そう言うと、プリメリアは少し照れくさそうに「そう。」と呟いた。

 

「先程からそこでしゃがんでいるので、体調が悪いのかと思いまして。その様子だと、大丈夫そうですわね。」

プリメリアはにこっと笑って手を差し出した。

 

「今日はお母様が主催のお茶会へきてくれてありがとう。プリメリア・ルサリエルよ。」

幼いながらも、主賓達をもてなそうとする心がプリメリアから感じ取れた。

 

本来ならこちらから挨拶に行かねばならないところなのに…、とミレイユは恥ずかしさで顔が熱くなってしまった。

 

「こちらから名乗らずに申し訳ありません……。ミレイユ・ブレネと申します。お会いできて嬉しいです。プリメリア様……。」

そうして、2人は握手を交わした。


お茶会は順調に進み、お開きとなった。

ルサリエル侯爵夫人とプリメリアに挨拶をし、ミレイユ達は馬車に乗って帰路についていた。

 

あれからミレイユはプリメリアとは言葉を交わす事は無かったが、顔見知りになれた事は収穫と言っても良いのではないだろうか。

クラリスについても少し情報を掴む事が出来た為、帰ったらみんなに報告をしよう。

 

(今日は疲れたなぁ……。)

 

日が落ちそうになり、空がオレンジと青のグラデーションが出来ている。

 

ミレイユの母が、ふと愛娘の方を見ると船を漕いでいるのが見えた。

「ミレイユ……?あら、疲れちゃったのね。」

今日は、7歳の身体には酷だったのかもしれない。うつらうつらと、睡魔に襲われた。

 

ミレイユは母の膝の上で夢の中へと入っていったのだった。


 

翌日、ミレイユはソフィアとニコラ、それから執事のレオールを呼び出した。

今この部屋には、聖女、王国秘書官、そして商人が揃っていることになる。

 

(改めて考えると……仰々しいわ)

と、内心で苦笑しながら、ミレイユは昨日のお茶会で得た情報を伝えた。


「なるほど。クラリス様は、まだ表立って動いているわけではないのですね。」


ソフィアが静かに言う。思案するようなその表情は、落ち着きと確信を帯びていた。


「身分の高い方が、昔の寵愛相手の子ども以外を養子にするなんて、珍しいですよね。」


と、ニコラが興味津々といった様子で身を乗り出す。


「確かに。自分の血が流れていない赤の他人を引き取るなんて、よほどの能力か美貌がない限り、普通は考えませんね。ニコラの時代にも、そんな例はありましたか?」


レオールが淡々と問いかけると、ニコラは肩をすくめて答えた。


「まあ、自分の立場を使って侍女や娼婦を囲う貴族は結構いましたよ。中には男児だったり、一族の特徴が濃い子を“実子だ”と認めて養子にしたこともありました。」


「なるほど……。」


レオールがうなずく。


「もし本当に血のつながりが一切ない孤児を迎え入れたのだとしたら、その子がよほどの逸材か……あるいは、別の“計画の一部”と見るべきでしょうね。」


ミレイユはその言葉に、小さく息を呑んだ。


(もし、クラリス様がそんな風に――幼い頃からヴェルセーヌ家の手で育てられていたのだとしたら……)


陰謀のために育てられた存在。そう思うと、クラリスもまた一種の被害者なのかもしれない――ミレイユの胸に、複雑な感情が芽生えた。


そのとき、レオールが問いかける。


「ところで、お嬢様。クラリス様がかつて、特に熱心に取り組んでいたことは思い出せますか?」


「え……そうね。たしか、学園に入ってからは孤児院への支援をよくやってた。領民にもけっこう慕われてたと思う。」


ミレイユが答えると、レオールはにっこりと頷いた。


「それですよ。――お嬢様も、領地の貧困対策を始めてみてはいかがでしょう?」




「ええ?それはまたどうして?」


ミレイユは戸惑いながらも、レオールを見つめた。


「お嬢様の“立場”を考えて、です。今のままでは、はっきり言って――地味で目立ちません。」


ばっさりと言われ、ミレイユは「う……」と小さな声を漏らす。


「王族やルサリエル侯爵家との繋がりを深めるにしても、領民の支持を得るにしても、早く動き出すに越したことはありません。」


「なるほど。支持を集めるなら、“領民のために動く”のが一番ですからね。」


と、ニコラも頷く。


レオールは、ちらりとソフィアに目を向けつつ続けた。


「クラリス様は、孤児の出であったがゆえに、まず領民に信頼されることを優先したのでしょう。教会に所属し、“施し”を通じて存在を広めたのもその一環かと。」


「ザリア様を信仰する教会には、“力なき者に救いを”という教えがあります。孤児院も、教会の施しの一つ……」


ソフィアが静かに言葉をつなぐ。


「つまり、前の時代における貧困支援は――クラリス様と教会の“独壇場”だったわけです」


「じゃあ、私も教会に入ればいいの?」


そう尋ねたミレイユに、ソフィアが首を横に振る。


「お嬢様には聖力がありません。教会に入っても、“聖女クラリス”と比べられて終わってしまうでしょう。」


「むしろ、教会は“利用する”くらいの感覚でいいのです。――これから十年、お嬢様には“新しい支援制度”を作り、民の中に根付かせていただきたい。」


その提案に、ミレイユは驚きのあまりレオールを見つめた。


「そんなこと……私に、できるかな?」


「そのための十年です。我々が全力でサポートしますので、まずは“お嬢様が本当にやりたい支援”を考えてみましょう。」


湧き上がる不安と期待。

ミレイユの胸に、これまで感じたことのない高揚感が広がっていた。

読んでいただき、ありがとうございます!


プリメリアが登場し、ミレイユも行動を開始しはじめました!

貧困支援は作者がこれしか思いつかなかったので…。

次回は、ミレイユ、初めての支援開始です!

よろしければ見て下さい(^人^)



次回更新予定:2025/07/01/18:00〜

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