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第一章 ep.2


過去に戻ってから、数日が経ったある夜。

ミレイユは大変頭を悩ませていた。

それはもう、頭痛がする程に。

 

使用人たちの様子がおかしいのだ。


ブレネ家は、しがない男爵家。

爵位の中でも最も低く、使用人の数も限られていたし、その質についても、

正直、貴族らしい「一流」とは言いがたかった。


皆、どこか不器用だった。

言葉遣いも、丁寧とは言いづらい。

ソフィアは、私をまるで妹のように扱い、敬語も砕けていたし――

料理人のハンスのオムレツは、形が崩れていたことの方が多い。

庭師は敬語すら満足に使えず、執事も仕事こそ丁寧だったが、どこかのんびりしていたものだった。


貴族の使用人として見れば「未熟」と言われても仕方のない面々だった。

――けれど、ミレイユは皆が大好きだった。

彼らを、家族のように思っていた。


だが、今世ではどうだろう。


ソフィアも、ハンスも、ほかの使用人たちでさえも、

完璧なまでに主従の線引きを守っている。

仕事ぶりも、どこか機械的で

――プロフェッショナルすぎるほど整っていた。


それが、ミレイユには寂しく思えた。


「……みんな、どうしちゃったんだろう。」


ぽつりと呟いたその時、コンコン、と部屋の扉がノックされた。


「お嬢様。ソフィアです。入ってもよろしいですか?」


「……?どうぞ。」


ミレイユが答えると、扉が開き、ソフィアが姿を現した。


こんな時間に、呼び出してもいないのに部屋へ来るなんて、珍しいことだった。

彼女の顔を見た瞬間、ミレイユは思わず眉をひそめた。

ソフィアは、眉間にしわを寄せ、どこか深刻な表情をしている。


「……ソフィア? どうかしたの?」


「…………。」


ミレイユが問いかけても、ソフィアはしばらく口を開かなかった。

何かを言うべきか、言わざるべきか、思い詰めている様な雰囲気だった。


「ソフィア……?」


もう一度名を呼ぶと、ソフィアは小さく息を吸い、一呼吸おいて口を開いた。


「ミレイユお嬢様……。もしご存じないのであれば、それでも構いません。ですが……一つだけ、お尋ねしてもよろしいでしょうか。」


何のことか分からず、ミレイユは無意識にごくりと唾を飲んだ。


「……お嬢様は……処刑された日を、覚えていらっしゃるのですか……?」


――瞬間、時が止まった。


「……ソフィア、何を言って……もしかして……」


言いかけたところで、ミレイユははっとした。


まさか――ソフィアも、過去に戻ってきたひとりなのでは?


「……お、覚えてる…全部、覚えてるよ……。」


口の中が乾き、声が震える。


「ソフィアも…覚えているの……?」


沈黙ののち、ソフィアがゆっくりと答える。

その口から語られたのは、ミレイユの想像を超える言葉だった。


「……正確には、ソフィアという人物は転生しておりません。」


「――私は、ソフィアの記憶を持った“別人”でございます。」


ミレイユは、とんでもないことを言った侍女を前に、どんな言葉をかければいいのかわからず、ただその場に立ち尽くしていた。

正確には、今の言葉がどう言う意味なのか、

すぐには理解できなかったのだ。


ソフィア――

いや、ソフィアの姿をした誰かは、ミレイユが冷静さを取り戻すまで沈黙を保っていた。


(どういうこと……? ここにいるソフィアは、ソフィアじゃないって……?

でも、ソフィアの記憶はある……それでいて別人……?)


考えれば考えるほど、ミレイユの頭は混乱していった。

「ソフィアは……ソフィアじゃないんだね……?」

気づけば、そんな言葉を口にしていた。自分でも訳が分からない。


ソフィアの姿をした人物は、ゆっくりとミレイユの正面に歩み寄り、目線を合わせた。

「……ソフィアの身体に入る前、私は“マリアヴェール”という名の聖職者でした。」


そう言ってから少し沈黙を置き、彼女は静かに語り始めた。


「私は、ソフィアの身体に宿る前、三つ足の黒い鳥の姿をした“神の使い”に出会いました。

その使いはこう言ったのです――。

『我が友と興した国が、悪意によって滅ぼされた。

どうか力を貸してほしい』と。」


「三つ足の……黒い鳥?」


その言葉に、ミレイユの胸がざわついた。

このアマレギア王国の象徴こそ、三つ足の黒鳥とクリサンセマムの花なのだ。


御伽話として、語り継がれている建国神話では…

黒い羽を持つ一羽の聖獣と、黒髪黒目の青年が出会い、友となり、共に国を築いた。

その黒鳥は自らを“太陽の神の使い”と名乗り、皇族の祖先である青年に精神魔法への耐性という加護を授けたのだとされる。

そのため、王族の血を引く者には、いかなる洗脳魔法も通じないと言われている。

もし、ソフィアの話が本当なら……その聖獣が、自分たちを転生させたというのか?


「…この国の“黒鳥様”が、どうして私たちを……?」


ミレイユの問いに、ソフィアは静かに答えた。


「それは、ソフィア――、

彼女を含む多くの者が、絶望しながらも最期の瞬間まで『もし自分に力があれば……』と強く願ったからだと。

悪意によって処刑された人々の中で、最も他者への想いが深かったのが……お嬢様、そして私たち使用人だったそうです。」


そして黒鳥は、こう告げたのだという。


『偉業を遂げた其方たちに、新たな試練を授ける形となってしまうこと、申し訳なく思う。

だがどうか、この悪意から、善なる者たちを救ってほしい。

このままでは、全世界を巻き込む支配が訪れてしまう――』と。


ミレイユたちが処刑された後、アマレギア王国がどうなったのかは知らない。

だが、もしこの話が真実なら、この国は――滅んだのかもしれない。


あまりにも大きな話に、ミレイユの混乱は深まるばかりだった。


「……その話が本当なら、ソフィア以外の使用人たちも……違う人、なの?」


「はい。旦那様や奥様は違うようですが……。私たち使用人は、ほとんどが“別人”だと思っていただいて構いません。」


その言葉に、ミレイユはどこか納得したように頷いた。

転生後に感じていた違和感――

それは、思い過ごしなどではなかったのだ。

皆、かつての使用人たちではなかったのだ。


「で、でも……私は、黒鳥様になんて会ってないよ? 目が覚めたら、過去に戻っていただけで……。」


そう。ミレイユは“何の前触れもなく”転生していたのだ。神の使いの姿すら見ていない。


「お嬢様が会っていないのか、それとも記憶に残っていないだけなのか……。それは私にはわかりません。

ただ、私たちの変化に気づいたのは、お嬢様だけでした。だから、こうして確認に参りました。」


「確認……? 何を……?」


ソフィアはそっとミレイユの手を取った。その手は静かで、けれど強く、決意に満ちていた。


「お嬢様――

我々と共に、未来を変えるために動いていただけますか?」


 


読んでいただき、ありがとうございます!

なんと、使用人全員が転生者でした!

さあ、作者はどれだけ登場人物を増やせるでしょうか!?


【次回予告】

衝撃の事実を知らされたミレイユ。

まずは、ソフィア以外の使用人たちとも話してみることに。

彼らの前世や今の状況を聞いたミレイユに、

「お嬢様も、動いてくださるのなら……これほど心強いことはありません」

という言葉が返ってくる。


悩んだ末に、ミレイユが出した答えとはーー?



次回投稿予定 2025/06/24/18:00〜



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