第八話「美しきアートは“神の御業”ナリ!!」
※この物語は異端審問を皮肉ったフィクションです。
特定の宗教団体や歴史上の出来事を指してはいません。
すべてはナリ助がやらかした妄想と暴走の産物です。
「ワガハイは異端審問官ナリ助ナリ!!!!」
爆音とともに教会の扉が吹き飛んだ。
煙と瓦礫の中から、ナリ助が焼きごてと鞭を手に現れた。
「今日の異端はどこナリ!? ワガハイの“正義の焼き印”が欲しいヤツは誰ナリ!? 出てくるナリ!!!」
「……おや、ナリ助じゃないの。」
場違いなほど落ち着いた声が響いた。
「ん?」
ナリ助が振り向くと、そこに立っていたのは一人の美しい女性だった。
艶やかな黒髪に、落ち着いた深紅のドレス。
背筋はピンと伸び、知性に満ちた目が鋭く光っている。
「……リズナ!? なんでナリ!!?」
「ごきげんよう、ナリ助。」
彼女の名はリズナ。
上品な物腰とは裏腹に、底知れぬ頭脳と悪辣な皮肉を武器にする“頭脳派の魔女”である。
ナリ助の“お友達”であり、“時折ナリ助の理不尽に乗っかる策士”だった。
「今日はワガハイの活躍を見にきたナリか?」
「ええ、そうね。」
リズナは優雅に微笑んだ。
「それにしても……あなた、どうしてこんなにも荒れているの?」
「だってナリ!! この偉そうな司祭が“神の代弁者”とか言い出したナリ!!
“神の言葉”とかぬかしてワガハイを見下したナリ!!!」
「あら、なるほど。」
リズナは司祭を一瞥した。
高慢そうなその顔を見て、ふっと微笑む。
「ナリ助、いい考えがあるわ。」
「な、なんナリ!?」
「この司祭を、芸術作品にしましょう。」
「……ア、アート!??」
「ええ。」
リズナは床に膝をつき、焼きごてを拾い上げる。
「この男……いや、“この素材”は最高のキャンバスよ。
“神の名の下に”自らを聖なる存在だと思い込んでいるなら、
その身体に“神の証”を刻んでやればいいわ。」
「な、なんだと!? お、俺に何をする気だ!!」
「神の証を刻むだけよ?」
リズナの指が、焼きごての柄を優雅に撫でる。
その所作は、まるで絵筆を持つ画家のように洗練されていた。
「ナリ助、あなたはね……“力”ばかりで“美しさ”が足りないのよ。」
「むっ……!?」
「せっかくの“異端審問”なのに、
血の匂いと焼け焦げた煙だけじゃ、野蛮すぎるわ。
もっと……美しさがなくては。」
「……それで、どうするナリ?」
「簡単よ。」
リズナは微笑み、焼きごてを掲げた。
「この司祭の肌に、“神の御言葉”を刻むの。」
「な、何をするつもりだ!!!」
「神の言葉は、たくさんあるでしょう?」
リズナは床に指で文字を書くように動かした。
「“愛”とか、“赦し”とか、“信仰”とか。
……それらを、この司祭の皮膚に彫るのよ。」
「皮膚に……彫るナリ!??」
「ええ。“生きる聖書”の完成よ。
“神の言葉”が身体に刻まれていれば、この司祭はどこにいても“神の代弁者”になれるわ。」
「そ、そんなの拷問だ!!!」
「違うわ。アートよ。」
リズナの目が鋭く光った。
「“信仰”が美しいなら、その信仰の証を、もっと目に見える形にするべきだわ。
“愛”の言葉が肌に焼き付いていれば、その愛はもっと強くなるでしょう?
“慈悲”が腕に彫られていれば、その慈悲はより鮮やかでしょう?」
「う、うわあああ!!!」
司祭が逃げようとした瞬間――
バチィィィィィィン!!!!
ナリ助の鞭が唸り、司祭の足元を叩きつけた。
「さあ、リズナ……ワガハイも手伝うナリ!!!!」
ジュウウウウウウウウウッッ!!!
「ぎゃああああああ!!!!」
「これが“愛”ナリ!!!」
ジュウウウウウウウウッッ!!!
「ぐ、あああああ!!!!!」
「これが“信仰”ナリ!!!!」
ジュウウウウウウウウウッッ!!!
「や、やめろおおおお!!!」
「これが“赦し”ナリ!!!!」
ナリ助とリズナは、焼きごてを片手に鮮やかに司祭の肌を刻み続けた。
翌朝、教会の壁には焼きごてで刻まれた文字が残されていた。
「神の言葉は、血と痛みでこそ輝くナリ」
司祭は、赤黒く焼き焦げた肌に“愛”“信仰”“慈悲”“赦し”と、
美しくもおぞましい文字を刻まれ、
涙を流しながら震えていた。
「ナリ助、満足した?」
「……まぁまぁナリな。」
「よかったわ。今度はもっと凝った作品を作りましょうね。」
「えっ? もっとやるナリ?」
「ええ。だって“信仰”は、痛みの中でこそ輝くものだから。」
ナリ助とリズナの狂った芸術審問は、今日も止まらない。