第三話「魔女の罪は“美しさ”ナリ!?」
※この物語は異端審問を皮肉ったフィクションです。
特定の宗教団体や歴史上の出来事を指してはいません。
すべてはナリ助がやらかした妄想と暴走の産物です。
「ワガハイは異端審問官ナリ助ナリ!!!」
審問所の扉が爆風のごとく吹き飛び、ナリ助が現れた。
フリフリの法衣は煤で汚れ、焼きごてからは血のような煙が漂っていた。
その目はギラギラと燃え上がり、口元は凶暴な笑みに引きつっている。
「異端者はどこナリ!?」
村人たちが息を呑む中、ひとりの美しい女が連れ出された。
金の髪は陽光を浴びて輝き、透き通るような白い肌はまるで陶器のよう。
「ふむ……」
ナリ助は目を細め、女の顔をじっくりと眺めた。
「……魔女ナリな。」
「な、何で!? まだ何も言ってないのに!」
「その顔ナリ!!! その目の輝きナリ!! その肌の艶ナリ!!
“美しさ”とは、他人の心を狂わせる毒ナリ!!」
「そんなの嫉妬じゃないですか!」
「嫉妬も立派な正義ナリ!!!!」
バチィィィィン!!!
ナリ助の鞭が床を叩き、石畳が砕け散った。
「キサマのせいで、村の男どもはキサマの顔を求めて群がり、
村の女どもは、鏡の前で涙を流したナリ……
つまり、キサマは罪人ナリ!!!!」
「そ、そんなの無理があるわ!」
「無理じゃないナリ!!!!!」
ナリ助の目がギラリと光り、声が低くなった。
――スイッチが入った。
「……さて、証拠を見せてもらうナリ……」
【翌日】
審問所の広間に、村人たちが集められた。
「さて……」
ナリ助は、観衆を見渡し、静かに告げた。
「今から、ワガハイが“魔女”の正体を暴くナリ……」
ナリ助は、奇妙な人形を掲げた。
その人形の顔は――
「……ワ、ワタシ!?!?!?!」
「そうナリ!!」
ナリ助は鋭く叫んだ。
「この人形に触った者は呪われるナリ!
呪いにかかった者こそが、“魔女”に取り憑かれた証拠ナリ!!」
人形は次々と村人に渡された。
しかし――
「……なんともないぞ」
「普通の人形じゃないか」
だが、最後に人形が渡された瞬間――
「ギャアアアアアアア!!!!」
突如、例の意地悪そうな中年女が転がり、喚き散らした。
「ほ、ほら見ろぉぉ!! これが魔女の呪いよぉぉ!!」
「……」
ナリ助は、静かにその女の元に近づいた。
「……ふむ……」
「な、何よ……?」
ナリ助の口元が裂けるように歪む。
「キサマが黒幕ナリ……」
「な、何を言うのよ!? ワタシは正義の告発者よ!!」
「……違うナリ。」
ナリ助は人形を引き裂いた。
中から、くしゃくしゃになった手紙が落ちる。
「男どもがあの女に夢中だ。あの女を魔女に仕立て上げて追い出してやる」
「……あれれ〜〜?」
ナリ助は不気味に笑いながら、紙をひらひらと掲げた。
「キサマの“正義”とは……
“無様なプライド”の別名ナリ!!!!!」
「ち、違う! あの女が美人だから……!」
「ほう……」
ナリ助は焼きごてを掲げ、静かに笑った。
「ならば問うナリ……」
声は冷え切り、ナリ助の目は狂気に燃えていた。
「“美しい”とは何ナリ?
キサマの言う“美しさ”が罪なら……
醜さは正義ナリか!?」
「そ、そんな理屈が……!」
「ならば言おうナリ!」
ナリ助の声が広間に響く。
「“美しさ”とは何ナリか!?
目に見えるものナリか!? ならば、目が見えない者は罪から免れるナリか!?
“美しい”とは感じるものナリか!? ならば、感じる心を持つ者が罪人ナリか!?
ならば、この世界は“罪”に溢れた地獄ナリ!!!」
「や、やめてぇぇぇぇぇ!!!」
「キサマの言う“正義”とは、自分の憎しみを飾るための衣装ナリ!!!」
ジュウウウウウウウウ!!!
焼きごてが床に押しつけられ、焦げた文字が浮かび上がった。
「嫉妬こそが魔女ナリ」
ナリ助は焼きごてを肩に乗せ、村人たちを見渡した。
「聞けナリ……
“異端”とは、信じられぬものではなく、理解できぬものナリ!!」
翌朝、村の壁には焼きごてで刻まれた文字が残されていた。
「正義を信じるバカは焼き尽くすナリ」
ナリ助の狂った審問は、今日も止まらない。