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第二話「愚民は神の道具ナリ!」

※この物語は異端審問を皮肉ったフィクションです。

特定の宗教団体や歴史上の出来事を指してはいません。

すべてはナリ助がやらかした妄想と暴走の産物です。

「ワガハイは異端審問官ナリ助ナリ!!!」


爆音とともに、またしても教会の扉が吹き飛んだ。礼拝堂に響くのは、フリルを揺らしながら踊るように入ってきたナリ助の声。


「さあ、異端者ナリ! キサマの罪を裁くナリ!!」


指差されたのは、山のような群衆を前に演説する男だった。

髭を伸ばし、ボロボロの法衣をまとい、狂信者のごとき目を光らせたその男は、群衆を煽り続けていた。


「皆の者、聞けぇ!! 我らは神に選ばれし者! この地上を異端の血で清めるのだぁぁ!!!」


「その異端がキサマだナリ!!」


「な、何を言う!? 神の御業に文句をつけるのか!」


「おうともナリ!!! しかも根本からナリ!!!」


ナリ助は焼きごてを振りかざし、無意味に空中でグルグル回転させた。


「キサマ……“神の名の下に” って言えば、何でも許されると思ってるナリか!? 許されるどころか、やってることは強盗団ナリ!!!」


「し、失敬な! 我らは神の御旗の下に貧しき者たちを集め、聖地を取り戻そうとしているのだ!」


「聖地ナリ? その“聖地”のために、道中の村々からパンを強奪し、女をさらい、老人の家に火をつけるのがキサマの言う“神の御業”ナリか??」


「いや、それは……」


「いや、それは……じゃないナリ!!!!」


バチィィィィン!!!

ナリ助の鞭が宙を切り、男の足元に大きな裂け目を作った。


「ワガハイは見たナリ!! キサマの“神の軍勢”とやらは、戦いに出る前にパンを食い散らかし、腹を壊して死んでたナリ!!」


「し、信仰のために戦ったのだ! 神の栄光のために……!」


「嘘つけナリ!!! キサマが率いた“神の軍勢”が、神の御旗を掲げて最初にしたのは、教会の銀器を盗むことナリ!!!」


「そ、それは……資金が必要だったのだ……」


「なるほどナリ。つまり“神の軍勢”は腹が減ったら略奪し、寒くなったら人の家を燃やし、資金がなければ教会から金を盗むナリな??? それが“信仰”ナリか??? ワガハイが教えてやるナリ!!」


ナリ助はニタァと笑い、焼きごてを熱した。


「キサマの信仰は、“神”じゃなくて群衆の熱狂ナリ!!」


「な、何を言う!? 神が我らを導いているのだ!」


「違うナリ!!! キサマがやってるのは、“愚か者たちを酔わせる”って芸当ナリ!!! 神の言葉で腹が膨れるなら、キサマの群衆は豚みたいにデブデブに太ってるはずナリ!!! でも、見ろナリ!!」


ナリ助は聴衆に向けて指を突き立てた。


「みんなガリガリナリ!!! パンすら奪えないナリ!!!」


「し、しかし、彼らは信仰のために……」


「信仰はパンにならないナリ!!! 信仰は人間を幸せにしないナリ!!!

ワガハイは知ってるナリ。キサマが吹き込んだ“神の栄光”ってやつの正体は……絶望の中で何かにすがりたいだけナリ!!!」


「う、うるさい!! 彼らは選ばれし神の兵士なのだ!!」


「ただの無職と乞食ナリ!!!」


「ち、違う!! 彼らは戦いに赴くのだ!!」


「キサマが連れて行った群衆が戦った相手は“飢え”と“病気”ナリ!! そして負けたナリ!!! なんのために死んだナリか!? なぜナリ!? 答えろナリ!!!」


「そ、それは……」


「答えられないナリ!? ならワガハイが答えてやるナリ!!

それは、キサマが“愚か者たち”に“自分が特別な存在”って思わせたからナリ!!」


「……!!」


「貧しいヤツは“貧しい”だけナリ!! バカは“バカ”なだけナリ!! それを“神の兵士”だなんて持ち上げるから、最後は“神のご意志”だの“犠牲”だので死ぬ羽目になるナリ!!!」


「貧しき者にも誇りがある!!」


「誇りは腹を満たさないナリ!!!」


「彼らは信じているのだ……」


「“信じる”ってのは、逃げ道ナリ。信じれば信じるほど、自分で考えなくなるナリ!!!」


ナリ助の目はギラギラと輝き、狂気が溢れ出した。


「結局、キサマの信仰ってのは……“大勢でバカやれば正義”ナリ!!! 」


「そ、そんな馬鹿な……!」


「キサマは、“神の名の下に”って言葉で、愚か者たちを生贄にしてきたナリ。ならばワガハイも“神の名の下に”って言葉で、キサマを焼くナリ!!!」


ジュウウウウウウウウ!!!


焼きごてが床に押し付けられ、黒く焦げた文字が浮かび上がる。


「バカに神は救えぬ」


ナリ助は、満足げに鼻を鳴らした。


「“神のご意志”でパンが降ってくるなら、次はワガハイのプリンもお願いするナリ。まあ、無理ナリな。」


ナリ助はフリルを翻し、焼け焦げた床を踏みつけながら去っていった。


群衆は、ただただ沈黙していた。

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