まるい想いが弾ける学園祭
ぽっちゃり学園の中庭に、やわらかな日差しが降り注いでいた。
もえは図書館からの帰り道、ふと立ち止まって空を見上げた。
「今日もいい天気だな」
そうつぶやきながら、彼女は手に持ったフルーツタルトを小さくかじる。
口の中に広がる甘酸っぱさに、思わず笑顔がこぼれた。
そこへ、小走りに駆け寄ってきたのは島田みゆだった。
揺れる腰とふんわりした太ももが、いつも以上に弾んでいるように見える。
「もえ、さっきの心理学の講義どうだった?」
みゆは少し息を切らしながら声をかける。
「教授が新しいカウンセリング手法の話をしててね。すごく面白かったよ」
「へえ、さすが心理学部。私にはちょっと難しそうだな」
もえはタルトを持ったまま、にこりと微笑んだ。
「みゆこそ、料理部の部活はどう? 新作レシピ考えてるって言ってたけど」
「うん、いま学園祭に向けて試作品を作っててさ。みんなに試食してもらってるんだけど、なかなか好評でね」
「それは楽しみ。私も味見させてもらおうかな」
「もちろん。今度ゆっくり試作品のピザを食べてほしいんだ。生地をふっくらさせるのに苦戦中なんだけど、きっともえも喜ぶと思う」
そこへ、大きな足音とともに高橋りんが現れる。
いつも通りダンス部の練習帰りらしく、髪にほんのり汗が光っていた。
「二人とも、ここにいたんだね。ちょうどよかった。聞いてよ、ダンス部の新しい振り付けがなかなか覚えられなくてさ。今度の発表会、焦るよ」
「りんって、そういうときも意外と落ち着いてるじゃない。いつも堂々と踊ってるし」
みゆが笑いながら言うと、りんは両手を大きく振って首を振った。
「いやいや、今回はかなりハードなのよ。みんなの前でダンスするのは楽しいけど、やっぱり成功させたいしね」
「だったら、私たちで応援に行くしかないね」
もえがそう言うと、りんは嬉しそうに笑みを浮かべた。
そんな三人がわいわいと談笑していると、どこかで名前を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、みんな集まってたんだな」
声の主は同じ心理学部の男子学生、鈴木圭太だった。
短髪の頭を軽くかきながら、恥ずかしそうにこちらへ駆け寄る。
「りんのダンス公演、学園祭でやるんだろ? 噂を聞いて楽しみにしてるんだ」
「圭太くん、来てくれるの? それなら嬉しいな」
りんは遠慮なく手を振って、大きな声で答える。
「当たり前だろ。せっかくの学園祭だし、ダンス部のステージは毎年盛り上がるって聞いたからさ」
圭太はそう言いながら、もえたちの輪に自然と溶け込む。
もえは圭太をちらりと見て、心の中で何かを感じ取ったようだった。
「圭太くん、今日は何か相談があるんじゃない?」
そう問うと、圭太は慌てたように目を丸くする。
「え? いや、その...さすが心理学部。鋭いな」
「なんとなく雰囲気でね。もしよかったら聞くよ」
「実は、学園祭の後夜祭で開催されるカラオケ大会に出ようか迷ってるんだ。俺、歌は好きなんだけど、みんなの前で歌うのは恥ずかしくてさ」
りんは目を輝かせる。
「カラオケ大会? 私も出る予定だよ。ダンスだけじゃなくて歌でも盛り上がりたいしね」
みゆも楽しそうに口をはさんだ。
「私たちも応援するから出ればいいじゃない。後夜祭のカラオケ大会って結構大きいイベントだから、盛り上がるよ」
「そうなんだよね。出たい気持ちはあるんだけど、いざステージに立つってなると緊張しちゃうんだ」
圭太は頬をかいて照れくさそうに笑う。
もえは優しく微笑んだ。
「じゃあ、今度練習してみる? りんは踊りながら歌うの得意だし、みゆは盛り上げ上手。私もなんらかの形でサポートできると思うよ」
「みんなが手伝ってくれるなら、心強いな。それに...」
圭太は言いかけて、少し言葉を濁した。
りんが首をかしげる。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。ありがとう。手伝ってくれるなら、ぜひお願いしたい」
後日、放課後のカラオケルームに四人は集まった。
みゆが先に軽く歌って雰囲気を盛り上げ、それから圭太がマイクを手に取る。
「じゃあ、歌わせてもらうよ」
意を決したように圭太が曲をスタートさせると、意外と伸びやかな声が響いた。
りんはサビにあわせて体を揺らし、手拍子を入れる。
みゆは笑顔で一緒に口ずさみ、もえは穏やかなまなざしで圭太を見つめている。
曲が終わると、拍手が起きた。
「すごい、やっぱり圭太くん歌うまいね」
もえが率直に感想を口にすると、圭太は満更でもない表情を浮かべる。
「緊張したけど、みんなが一緒だと楽しいかも」
「そうそう、ステージ上でも同じように楽しめばいいのよ」
りんが力強くうなずくと、みゆもやんわり笑う。
それから何曲か練習を続け、最後にりんがダンスを披露しながら歌を合わせる。
流れる音楽にあわせて、りんの大きな体が軽やかに動く。
「りん、やっぱり迫力あるね」
圭太が感心すると、りんは楽しげにウインクを返す。
「でしょ? 本番もこうやってテンション上げて踊るつもり」
練習を終えた四人は、近くのカフェに立ち寄った。
木のぬくもりが心地よい空間で、もえはいつものチョコレートケーキを頼む。
みゆは新メニューのイタリアン風サンド、りんは大きめのチーズケーキをチョイスした。
圭太はホットコーヒーに軽めのスコーンを合わせている。
「いっぱい歌ったからお腹すいちゃったね」
もえが嬉しそうにケーキを口に運ぶと、みゆとりんも同意するように食事を始めた。
「私は明日も料理部があるから、夕飯も作らなきゃ。だけど、こうしてみんなで食べるのが一番幸せかも」
みゆの言葉に圭太が微笑む。
「同じ寮の人たちもみゆの料理楽しみにしてるんだろ? 今度、俺にも食べさせてよ」
「もちろんいいよ。遠慮しなくて大丈夫」
そのとき、もえはふと圭太を見つめながら、ポツリと呟いた。
「圭太くん、実は...さっきから、何か隠してない?」
「え...」
ドキリとしたような表情を見せる圭太に、みゆとりんも目を向ける。
もえは軽く笑った。
「別に深い意味はないけど、何か言いたそうな顔してたからね」
「いや、ちょっと恥ずかしいだけで。実は、後夜祭に参加すると決めたのは、ある女の子に聞いてほしい歌があるからなんだ」
みゆが興味津々で身を乗り出した。
「誰誰? 気になるんだけど」
圭太はますます照れた様子で、視線をもえの方向に向ける。
「それは、まだ内緒かな。でも、ちゃんと伝えるためにも、歌を頑張りたいんだ」
「そういうことか」
りんは納得したように頷き、みゆは悶々としながらも察しつつ黙っている。
もえは圭太の視線の先を感じ取って、一瞬だけ唇を噛んだが、すぐに優しい笑みを返した。
学園祭当日、ダンス部の公演は華やかに幕を開けた。
りんは大きな体を生かしてダイナミックかつ繊細なステップを披露し、観客を魅了する。
みゆも料理部の模擬店で腕を振るい、ピザやカレーを販売して大忙し。
もえは心理学部の展示を手伝いつつ、ポチャツクの配信で学園祭の様子を紹介していた。
そして夜になると、いよいよ後夜祭のカラオケ大会がスタートする。
ステージに上がる出演者たちを見つめながら、もえたちはわくわくしていた。
やがて圭太の番が来る。
スポットライトが当たり、圭太は深呼吸をしてマイクを握った。
「それじゃあ...聴いてくれ」
曲が始まると、学園祭の熱気の中で圭太の声が心地よく響く。
緊張はあるはずなのに、どこか穏やかなメロディにのって、優しい歌声が広がる。
りんもみゆも、その声にじっと聞き入っていた。
もえはステージを見つめながら、圭太の想いを感じ取ろうとしているようだった。
曲がクライマックスに差しかかると、圭太の視線がまっすぐに客席を捉えた。
視線の先にはもえがいて、彼女もまた動揺しながらも真剣なまなざしを返す。
そして歌い終わった瞬間、大きな拍手が会場に響いた。
圭太は照れくさそうに頭を下げる。
カラオケ大会が終了し、観客が解散していく頃。
ステージ裏には圭太ともえの姿があった。
「圭太くん、すごく素敵だったよ」
「ありがとう。俺、少しでも想いを伝えられたかな」
圭太はそう言って、もえをまっすぐに見つめる。
「もえがいつも頑張ってるの、俺は知ってる。だけど、そんなに無理しなくていいんだって、歌を通じて伝えたかったんだ。君はいつも、みんなの気持ちを先に考えてくれるから...」
もえは驚いたように目を見開く。
「私、そんなに気を張ってるように見える?」
「見えるよ。心理学部だからって、人の心ばかり読もうとして、自分の気持ちまで隠してないかって気になってた」
「そんなつもりはなかったけど...そうかもね。ありがとう」
もえはふっと息を吐き出し、柔らかく笑った。
「圭太くんの想い、ちゃんと受け取ったよ。これからは、もう少し素直になってみるね」
「それが聞けてよかった」
その頃、少し離れた場所ではりんとみゆがそっと二人を見守っていた。
「やっぱりあの歌、もえへのメッセージだったんだね」
みゆが感心すると、りんは楽しげに笑う。
「うん、これで二人の関係も少しは進展したかな。恋っていいね」
「だね。おっと、私たちもそろそろ戻ろう。寮の打ち上げ準備をしなくちゃいけないし」
「そうだった。じゃあ、あの二人はそっとしておいてあげよっか」
りんがウインクすると、みゆは「うん」と頷いて振り返らずに歩き始める。
秋の夜風が学園を包み、学園祭の灯りが少しずつ消え始めていた。
ぽっちゃり学園は明日もまた、にぎやかな日常を迎えるだろう。
もえも、みゆも、りんも、それぞれの道を楽しく歩みながら、ちょっとずつ大人になっていく。
そして、この学園で生まれる恋や友情は、優しい歌声のように心に響き続けるのだと思う。
美袋走一❣️@ぽっちゃり系AIクリエイタ様(@souiti_AI)との
コラボで小説を作りました。
https://x.com/souiti_AI