2 人間
この世界に来て一ヶ月。
ずっと部屋で過ごして来た。あたりまえだが人間を見ることなどなかった。
でも、部屋を出て直ぐに人間がいた。こんな近くにだ。
だが、これは…
彼、彼女らは皆下を向き目を合わそうともしない。
ただ、壁際で膝をつき頭を垂らしたまま動かない。
まるで、罪人が処刑を待つかの様な有様。
それに格好も酷かった。
上半身は男女共に裸。下半身はボロ布で辛うじて隠れている。だが、少しでも激しい動きでもしたら丸見えになってしまいそうな服装。
こんな格好を見たら誰でも察してしまう。
【彼らは奴隷だ】
私が人間を見て固まっていると、近くにいた男の人間が微かに頭を上げた。
いや、上げたと言えるかも分からない程度の微々たる動き。
母親がゆっくりと私の手を離す。
先程までこけないようにしっかりと握っていた手を。
私は母の手と言う支えを無くしてしまい転けそうになる‥が、どうにか壁を支えにして転ぶのを回避した。
私の手を離した母の意図がわからずに視線で問いかけようとして顔を向けると。
ドレスの裾を少し持ち上げ脚を大きく振り切った姿がそこにあった。
べギャリ
水気を含んだ硬い物が潰れた様な音。
私が前世含め聞いたことも無いような不愉快極まりない音だった。
私はゆっくりと音のした方向を観る。そこにあったのは…
人の頭であったナニカ。
辛うじて人だと認識できたのは地面に転がる眼球がこちらを向いていたからだ。
だが、それも一瞬の事。
べチャリ
と、音と共に踏み潰される。
母が眼球を容赦無く踏み潰していた。
「死んでからも不愉快だわ。私の娘を盗み観て、死んだ後も見続けるなんて」
母の見た事も無い顔。
まるでうじ虫でも見ている様な表情。
「これだから下等な生物は」
人間が眼の前で死んだ。母が頭部を蹴り飛ばして殺した。
私は眼前で起こった光景が未だに理解できていなかった。
現実味の無い光景に脳が追いつかない。これは夢であって欲しい。だけど…
血臭が鼻を刺す。
遅れて理解した。これは…
現実なんだと
「ソ‥ ソフ. ソフィ!?」
「え?!あ、はひおかあしゃま!」
気がつけば母が私を呼んでいた。
遅れて返事を返す。
「ソフィどうしたの?ボーッとして?」
母の心配そうな顔。
先程の事が無かった様に、
でも眼の前には死体があって、血臭もする。これは夢では無いと五感が教えてくれた。
私はどうにか動揺を隠しながら会話した。
「ううん、にゃんでもないでしゅ。しゅこしびっくりしただけです」
まだ舌足らずな喋り方でどうにか返す。
「うふふ…そう?なら良いのだけど。」
舌足らずな私が一生懸命に喋っているのが可愛いかったのか、母はニコニコと笑顔で私の手を取って歩きだした。
死体は私達が歩き始めると、他の人間達が片付けていた。
その後、屋敷を見回ったがほとんど覚えていない。
急な展開で申し訳ないです。