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第7話 魔王城への突入

「ついにこの日がやって来たのね…」


 不安が無いと言えば嘘になる。

 いくら勇者として召喚されたリョータ様でも、魔王が相手となると、どうなってしまうのかは想像がつかない。

 隣に立つ彼を見るのも、これが最後になるのかもしれない。()()()()勇者はそうやって消えていったと聞いている。

 リョータ様と私、そしてリリーとユキを先頭にした軍勢が街を出て森に入る。背後には鎧を着た数十人の兵士たち。

 これだとなんだか、見張られているような気分になるわね。


「リョータ様、今のうちに魔族のいる街について話をするわね。——そこは魔王領と呼ばれているのだけれども、私たちの街から直線で向かった際に、一番最初に辿り着くのが魔王の城よ。王城を中心にして広がっている私たちの街とは違って、魔王領の王城は街の端に位置しているの」

「へぇ、俺たちが来るのを知っていて、魔王が一番前に出てる感じか」

「確かにそうね。前に出ている分、私たちの行動もすぐに気付かれると思うの。森には偵察をしている魔族もいるはずだから」

「なるほど、そこで俺のスキル『気配察知』が役に立つんだな」

「そういうこと。頼りにしてるわよ」

(出来ることなら、リョータ様には闘わないでいてほしいのだけれども……)


 魔王領に着くまで約一週間は掛かると言われているけれども、こんな気持ちが一週間も続くだなんて…。

 こうして私たちは、ただ前へ進んだ。道中現れた魔獣は、リョータ様が軽々と仕留める。

 攻撃を二回するだけで相手を跡形も無く消してしまうだなんて、流石は勇者様と言うべきなのかしら。

 そんな姿を見て、後ろの兵士たちは毎度のように歓声を上げている。


(リョータ様ならきっと、大丈夫よね…)


 ・ ・ ・ ・


 数日掛けて歩き、そろそろ魔王領に近づいて来た頃だろうと兵士たちが地図を確認する。

 心無しかリリーやマリネ、ユキの表情が暗いように感じられた。きっと不安なのだろう。

 何かあった時は、俺が守ってやらないとな。


「リョータくん、そろそろ魔王領が見えてくるね……」

「リョータならきっと大丈夫だよ!」

「そうね。私はリョータ様を信じてるわよ。何があっても、前に進むのよ」


 不安そうに呟いたユキを慰めるかのように、リリーやマリネが言う。そうだ、皆んなで無事に帰るんだ。


「ねぇねぇ、リョータ。この前言ってたアニメの話してよ〜。主人公の男の子とヒロインの子が別れた後はどうなっちゃったの〜?」

「仕方ないな…」


 そういえば、俺がハマっていた深夜アニメ『トラブってる』の話を修行期間中にリリーにしたことがあるんだった。軽く話しただけなのに、よくそんなことを覚えていたな。

 断る理由も無く、俺は『トラブってる』アニメ十二話の話を始めた。涙無しには語れない内容だが、俺の涙腺はちゃんと絞められるだろうか。


「————ってなことがあってさ、結局主人公はヒロインのことを思い出してさ、帰ろうとしていたところを走って追いかけたんだよ。あのシーンは何回観ても泣けるぞ〜。テレビがあれば、リリーたちにも見せてやりたいんだけどな!……って、あれ?誰も居ないな……迷子になったのか?」


 振り返るとそこには誰も居なかった。


(人数的には、一人になってる俺の方が迷子なのか?)

「……でも、魔王の城っぽいのがもう見えてるんだよなぁ」


 視界に入り切らない程の巨大な城。

 周りは堀で囲まれており、中に入るには跳ね橋を通るしかなさそうだ。

 まだまだ城までの距離はあるが、森を抜けるとしばらくただの平地が続く。迂闊に出て行こうとすれば、すぐに門番に気付かれてしまいそうだ。


(他のやつらを探すべきか…それとも俺一人で…)


 その案が出た途端、俺は考えることを止めた。何故なら、それが俺の正しいと思った答えだったからだ。

 

「……リリー、マリネ、ユキ。お前たちのお陰で俺は強くなった。魔王は俺が倒しに行く。お前たちが傷付く必要は無いんだ…っ!」


 力強い一歩を踏み出し、俺は跳ね橋の前に立つ門番へと向かって走り出した。


「敵が来たぞーッ‼︎」


 柱に備え付けられていた鐘が、カンカンと高い音を響かせる。


(すぐに兵士が集まるだろうが……何人来ようとまとめて相手してやる‼︎)


 ・ ・ ・ ・


「魔王様、人間が一人で襲撃に来たようです」

「また勇者が来おったか……。何度繰り返せば気が済むのだ…!」


 玉座に座る我の隣に立っている付き人、ヨーキがそう知らせてくる。それを聞き、サイドテーブルに置いている水晶に手をかざして城内の状況を映し出した。


(黒髪の少年…またニホンとやらから来た勇者か?)


 広い城内を駆け回っているが、まるでこちらの兵士の居場所を把握しているかのように上手く躱している。

 偶然兵士と出会った場合、彼の攻撃を喰らった者は、全員跡形も無く消し去られている。


「なかなかやりおるな…。どうせいずれここに辿り着くだろう。我らはここで待つとしよう」

「そうですね、魔王様」


 広く造られた謁見の間で二人、我らは大人しく勇者を待つことにする。

 その間水晶で状況を確認するが、相変わらず出会った兵士たちは一人残らず消し去られている。

 しかし、勇者は一切傷を負っておらず、段々と怒りが込み上げてくる。


「忌々しい勇者め…お主だけは絶対に許さんぞ…っ!」


 ・ ・ ・ ・


 もう何人の兵士を倒したのか、一切数えていない。

 震えていたはずの手も止まり、恐怖や不安を感じることが無くなった。むしろ今は、不思議と落ち着いている自分が怖くなってしまう程だ。


「気配察知で敵のある程度の位置が分かるから、無駄な闘いは避けたかったが…そう上手くはいかなかったな…」


 しらみ潰しに魔王が居そうな場所を探して駆け回り、ようやくそれっぽい場所を見つけられた。

 城の雰囲気とは合わない、赤を主要とした大きな扉。人間の王の城と同じく観音開きの物だ。


「…この感じ、多分ここだよなぁ」


 ギィという音を立てながら、重たい扉を押す。

 そして中に入った途端、息が詰まるような感覚を覚えた。先程までとは一変し、胸の鼓動が速くなる。

 これが……魔王なのか……⁉︎

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