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第16話 祝杯の宴

「ふぅ〜。リョータ、今日はお疲れ様」

「まさかこんなことになるとはなぁ…」


 任命式が終わり、しばらくして街は落ち着いた。

 そしていつもの服に着替えた俺は、リリスの部屋でくつろいでいる。

 昼前からリリスの行進が始まり、その後は俺の任命式があり…たったのそれだけなのに、かなり疲労を感じている。

 一緒に居るのは、メイドのリサさんと、リリス、そして彼女の付き人であり日本人であり勇者である葉紀さん。最後だけやたらと肩書きが多いな。

 リリスは元の姿に戻っているが、やっぱりこっちの姿の方が落ち着くな。


「これで、ようやく神乃さんも少しは落ち着いて生活出来ることでしょう」

「そうだな」

「じゃーん!実は街の人から良いお酒を貰ったんだ!今日はリョータのお祝いってことで、一緒に飲もうよ!」


 リリスは嬉しそうに小さな瓶を掲げた。

 この世界の文字は読めないが、端に14と書いていることだけは分かる。恐らくアルコール度数なのだろう。


「この世界の法律のことは一切知らないんだが、飲酒の年齢制限ってあるのか?」

「二十歳未満は飲酒は禁止されていますね」


 獣人メイドのリサさんが答えてくれる。


「それって、リリスは大丈夫なのか?」


 俺が聞きたかったのは、このことだ。落ち着いた雰囲気や大人びた思考をしているが、見た目は俺と同い年かそれよりも下に見える。年上は絶対にありえないだろう。


(魔王だから法律は気にしなくて良い、とかあるのか…?)


 俺の問いに腹を立てたのか、リリスは思い切り頬を膨らませてこちらを睨みつける。

 正直そんなことをされても怖くはないのだが。むしろ、可愛いと感じてしまう。


「むぅ…。僕はちゃんと成人してるよ…。なんなら、今年で二十七になるよ…っ」

「えっ、俺より歳上だけど…そんな風には見えないぞ?」

「神乃さん、魔族は人間より長命なのですよ。その分、老いるのも遅いのです。……とは言っても、その中でも特に魔王様は幼く見えますがね」

「もうっ、ヨーキまで馬鹿にするの⁉︎」

「落ち着いてください、魔王様っ。魔王様はとても優しくて立派な方ですよ」


 リサさんが何とかその場を収めようとするが、彼女の言葉によってとどめを刺されたリリスは不貞腐れてしまった。


「……その褒め言葉、全然見た目に関係ないし。どうせ僕は幼く見えるロリっ子ですよ〜」


 その様子を見て、リサさんは『はわわわわっ、どうしましょう…』と戸惑い始める。

 ヨーキさんは……にやけながらこちらを眺めている。誰も役には立たなそうだと、ため息をついてしまう。


(仕方無い、ここは俺がどうにかするか…)


 テーブルに並べられたグラスに酒を注ぎ、無理やり全員に手渡す。


「では、騎士に任命された俺に……乾杯‼︎」

「「か、かんぱ〜いっ!」」


 俺の勢いに釣られて三人とも声を合わせる。これで、後は酒でも飲んでれば何とでもなるだろ。

 おっ、これは苦味が少なくて飲みやすいな。普段酒を好んで飲むことは無かったが、この味ならハマってしまいそうだ。


「飲み過ぎにだけは気を付けないとな〜」


 そんなことを呟くと、隣から『ひっく…ひっく…』という声が聞こえてくる。


「おいおい…リリスってそんなに酒弱かったのか?酔うの早すぎるだろ…」


 顔がほんのりと赤くなり、目がとろんとしている。

 彼女は俺の背後に立ち、『ふんっ、ふんっ』と何度も頭突きをし始めた。全然痛くないのだが、持っている酒が揺れて溢れそうだ。


「危ないから落ち着けって…。溢したらどうするんだ…」


 注意すると、すぐにリリスは頭突きをやめて大人しくなった。

 なんだ、酔っていても物分かりは良いじゃないか。

 そう安心したのも束の間、彼女はグラスの酒を全て飲み干してテーブルに置き、空いた両手で俺の腕にしがみついた。

 そして彼女はこちらを見上げて『へへ〜』と満面の笑みを浮かべる。


(まぁ…これくらいなら良いか…) 

「……こらぁ、手がとまってるろぉ、僕の酒が飲めないってのかぁ〜」

「うわっ、今度はこうなるのかよ…。リサさんと葉紀さん、黙ってないで何とかしてくれないか——って、お前たちもかよ‼︎」


 リサさんはいつの間にかベッドで寝てるし、葉紀さんは必死に服を脱ごうとしてるし…。魔王の周りって皆んなこうなのか⁉︎


「りょーた、聞こえてるぅ?僕の言うこと聞かないりょーたは嫌いらぞぉ…」

「はいはい、飲むから待ってろ」


 グラスの中の酒をゆっくりと飲み干し、テーブルに置く。


(流石に全部飲むとちょっと気持ち悪くなるな…)


「えらーいっ。ちゃんと言うこと聞け子は……こうだっ!」

「えっ…ええっ⁉︎」


 腕を強く引っ張られ、いつの間にかリリスに膝枕をされていた。彼女は、そんな俺の頭を何度も撫でる。


「何でこうなった…」


 心地良さはあるが、当然羞恥心もあるもので、起き上がろうとするが頭がぴくりとも動かない。


(こいつ…っ、撫でるのと同時に頭を押さえつけてくる…!)


 必死に抵抗していると、リリスがまた語り始めた。


「……りょーたはすっごく良い子なんだぁ。助けてくれた時、かっこよくて見惚れちゃったぁ。落ち着いた声も好きだしぃ…笑った顔もすきぃ…。あっ、でもまだエッチなことは、めっなんだよー。僕はまだ初めてなんだからねぇ」


 向かい合ってそんな台詞を言われて、俺はどうしたら良いんだ…!


「……んー、でも、これくらいなら良いかなぁ」


 そう言って、彼女は虚な目をしたまま俺に顔を近付ける。反射的に目を閉じると、唇の端、ぎりぎり唇に当たらない程度の場所に温もりを感じた。

 ほんのりと、果実とアルコールの匂いが漂ってくる。


「んへへ…ちゅーしちゃったぁ。いつか恋人になったら、もっといっぱいしようねぇ」


 そう言い残してリリスはぱたりと倒れた。可愛い寝息が聞こえてくる。


(俺も、もう限界、かも…ねむ…い…)


 必死に服を脱ごうとしていた葉紀さんの『やっと脱げたぁ〜!神乃さん、見てください、見てくださいっ。服脱げましたよ!』と言う声を子守唄に、俺は眠りについた。


「次は下も脱がないとですねぇ〜」

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