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幻想神戦 ティアナ  作者: 川端 大夢
第一章 勇者が死んだこの世界で

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道筋 (4)

「なかなか難しい相談だな。」


「図々しい願いであるとは承知しておりますが、そのお心をお聞かせ願えますか?ビゴー殿。」


「シーザーで良い。『殿』と呼ばれるほどの者ではない。ハンでの爵位も持たない所詮、一領主。エレーニアで言うなら辺境伯というやつだ。」


 いい人という意味では、オーザムの領主 シーザー・ビゴーは想像を超えるいい人だった。偉ぶることもなく、まだ若さゆえの思い切りのよさのようなものがあって気さくで、いきなりやって来たカイたちを前に、上座に座ることもなく、同じテーブルで、同じものを肴に酒を酌み交わしながら話を聞いてくれている。

 『主殿』と言うより、『お頭』と言った方がぴったりくるかもしれない。


「そんな身分だからな。俺も生まれてこの方、一度も目通りが叶ったことはない。そんな一地方領主が一筆書いたところで、王国からの来客は受けてはくれまい。」


 これだけ豊かに見える領土を治め、しかも、ドワーフとの交易もある。少し卑下しすぎな気もしないでもないが、言うとおりなのだろう。


「俺の裁量で引き受けられるのは、その第三王女様を迎えることくらいだな。それとて、表だってオーザムに直接、招くことはしかねる。」


 エレーニアとしてはまだ歴史の浅い王国ではあるが、その成り立ちからしてハン帝国の友好国たりえないエレーニアの王族に連なる者を、皇帝の許しも得ずに招き入れたとなれば、帝国に叛意ありといきなり燃え上がることはなくとも、煙くらいは間違いなく立つ。


 聞けば、ビゴー家は、シーザーの祖父の代からこの地を治める領主ではあるが、帝国に従属し、その大きな庇護があってこそ、先の戦乱の際も、その領地を維持できたと言うことも、少なからずあって、その帝国に弓引くような義に反する真似は、シーザーの心情としてもしたくない。


「ただ我らが盟友たるドワーフたちを助けてくれたことには、俺とて報いたい。」


「我々としても、お願いしている立場ではありますし、無理は申せませんが、この先の当てなくハン国内を旅するのは心許なく思います。せめて皇帝に近づける当てをいただければ……」


「ふむ……とは言っても、今は我が国もいろいろ騒がしくてなぁ……」


 あの大地震でキリル連合が瓦解の危機に瀕して以来、王国は察知できなくとも帝国内で動きがなかったわけでは当然、なかった。


「帝国内は今、大きく二派に割れてる。」


 大きく二派と言われれば、カイたちにも予想は容易についた。


「安心しろ。我らオーザムはもちろん非戦派だ。」


 古くからエレーニア王国と国境を接し、人の往来もあった南のオーザムは、先の戦乱で旧アゼル領の占拠にかり出された例もあるが、歴史上、オーザムの意思で王国領に進軍したことはないらしい。

 今でこそ、キリシア辺境伯領として開拓され始めてはいるが、聖王国時代は、アゼル辺境伯領を越えて、さらに北に行かなければ、交易もままならなかった。その交易でも、ドワーフの工芸品にしか興味を示さない大陸西側に、進出していく積極的な理由がなかったと言うのが正直なところだろう。

 だが、そういう歴史もあって、オーザムでは、カムランやシーザーもそうであるように、支配階級の嗜みとして、エレーニア語も話せる人が多いそうだ。


 ところが帝都 リトのある北側は違う。

 キリルが連合共和国として結束を固め、その都を王国よりも帝国に近い西部のリオキリルに定めるまでは、何度も今でいうキリル領に侵攻を試みてきた歴史がある。

 リオキリル壊滅という惨事を目の前にした帝都近辺の血の気の多い諸侯が舌なめずりし始めることは容易に想像がつく。


 しかし、瓦解の危機に瀕しているとはいえ、今、キリルに攻め入れば、それがうまくいってもそうでなくとも間違いなく遺恨が残る。大義がないからである。

 さらにキリル国民を敵に回し、その抵抗を抑えながら進軍し、なおかつその向こうにいるエレーニアと事を構えるとなると、相当な長期戦は覚悟しなければならない。


 五十年という戦いのない時代は、帝国にも心地は良かったようで、大陸統一という歴史上、一度も成されたことのない夢の偉業に向かって、即座に突き進むような獰猛さは、すでに帝国にもなくなっていた。


 では平和裏にことを進めたい非戦派はというと、直接支援でキリルとの距離を近づけようとする懐柔派や、エレーニアと共同でリオキリルの復興を支援しようとする友好派の他にも、さまざまな意図や権益が絡み、一枚岩にはなれなずに数の上での優位性を確保できず、単純明快で声が大きい過激派を完全に押し込められず…という状況が、帝国内では続いているらしい。


「もちろん交友のある諸侯はいないことはないが、その腹の底までは正直、分からん。非戦派の中でも、エレーニアと手を取り合って……と考えている御仁はなかなか見当がつかん。」


 言われてみれば当然そうで、このオーザムが、その主たるシーザーが非戦派だったということだけでも、カイたちにしてみれば、このハンにおいてこの上ない幸運だったのだ。


「オーザムから帝都に常駐している方とかはいらっしゃらないのですか?」


「いるにはいるが、そこを当てにして帝都に入ってどうする?宿を見つけただけで、状況は変わらんだろう?」


 カイの問いに対するシーザーの回答はもっともだった。そこまでたどり着いたとして、結局、皇帝にたどり着くまでに過激派の諸侯相手に騒動を起こせば、シーザーが懸念する状況に陥ることは間違いない。


 鈍重に時間が過ぎいったあと、ここまでずっと同席していながら発言を控えていたカムランが初めて口を開いた。


「主よ。サズン殿に頼ってみるというのはいかがですか?」

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