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2.状況確認とステータス

「ユリアーナお嬢様、かつてあなたはエステリア王国の名家、アルベルト家の令嬢として生まれました。私が奴隷の身であった時、あなたは私を救ってくださいました。その恩から、私はあなたに仕えるメイドとなりました。それからの日々は幸せでしたが、3年前にあなたは突如として病に倒れてしまいました。」


 困惑の中で、この宙に浮かぶ液晶画面の説明を待ったがエレシアは気にもせず説明を続けた。まるでエレシアにはこれが見えていないかのようだった。


 エレシアの目には、過去の思い出が浮かぶように悲しみがにじんでいた。

 彼女は一瞬目を閉じ、続けた。


「その病の原因は、どんな名医も解明できませんでした。そして、家族の間には恐怖が広がり、あなたの病が他にも伝染するのではないかという噂が立ちました。」


 エレシアの声は震え、私の手をより強く握った。


「それから、私たちはこの館に移り住むことになりました。名目上は療養のためですが、私にはそれが家族からの……言い方は悪いですが、隔離ではないかと感じられました。」


 彼女は窓の外を見つめながら、遠い目をしていた。


「最初の1年のうちは、家族や友人たちが時々様子を見に来てくれました。しかし、やがて訪れる人はいなくなり、私たちはまるで世界から忘れ去られたかのようでした。それから2年、誰もこの館に足を踏み入れることはありませんでした。」


 彼女の声は、遠い記憶を辿るように静かだった。宙に浮いた液晶画面は、エレシアの語りに合わせて静かに消え去っていた。


「何年も前からお嬢様はほとんど寝たきりでした。しかし、一週間前のことです。お嬢様の容態が悪化したのは。高熱が続き、意識もほとんどありませんでした。私は夜も眠らず看病を続けましたが、お嬢様の容態は一向に改善されず、絶望的な気持ちになっていました。」


 エレシアの目には心配の色が濃く映っていた。


「昨夜、お嬢様の熱がようやく下がり始めました。その安堵の気持ちで、私はベッドで少し目を閉じたんです。でも、朝目覚めたら、お嬢様の姿がありませんでした。」


 彼女の声には、不安と恐怖が混じり合っていた。


「私はあわてて周辺を探しました。そして、海岸でお嬢様を見つけたんです。」


 彼女の瞳は深い憂いを秘めていたが、同時に深い愛情も感じられた。

 エレシアは椅子に腰掛け手を優しく握りながら、不安げに言葉を紡ぎ続けた。


「お嬢様、あなたが記憶を失っていることは理解しています。ですが、どうかお話しできることがあれば教えてください。どうして海岸にいたのですか?その場所までどうやって移動されたのですか? 今のお嬢様はほとんど歩けないほど足が弱っていますが……」


 エレシアの声は震え、彼女の瞳は不安に満ちていた。


「もしかして、誰かがお嬢様をそこへ運んだのですか?」


 彼女は一息に言葉を紡ぎ、少し立ち止まって深呼吸をした。


「でも、海岸にはお嬢様の足跡しかありませんでした。他に人の足跡は一つも……」


 エレシアは私の目を見つめ、答えを求めるように訴えかけた。


「ごめんなさい。私も……何も覚えていないの。どうして海岸にいたのか、どうやってそこへ行ったのか、全く思い出せないの。」


 私の声は未だにかすれていた。


 エレシアは静かに頷き、手を優しく握りながら言葉を返した。


「分かりました、お嬢様。今は無理をなさらず、ゆっくりお休みください。私は近くにいますので、何かございましたらすぐにお呼びください。」


 そう言ってエレシアは静かに部屋を出て行った。


 一人残された部屋で深く思索にふけっていた。窓越しに広がる穏やかな庭を眺めながら、自分の心の中を振り返り探っていた。


「王都が襲撃された……それもイアによって。そして、私以外の皆が……」


 声は震えていた。海への逃亡、そして目覚めたときの海岸の風景が彼女の記憶を揺らしていた。


「そして、このエレシアというメイド……彼女は私のことをユリアーナお嬢様と呼ぶけれど、私は彼女を知らない。 エステリア王国のアルベルト家の令嬢、と言っていたが……私の知る世界にはない名前だ」


 部屋にある本を手に取ったが、意味不明な文字で書かれていた。それにも関わらず、その内容を不思議と理解することができた。


「この世界、見たこともない……私の知ってる土地は存在しないのかもしれない」


 そして、最も混乱を招いたのはエレシアの話の中で出現した、彼女の名前が浮かんだ液晶画面だった。


「エレシアには見えていないようだった。あれは一体……」


 落ち着いて考えを巡らせる。

 そうだ。聞いたことがある。アルフレッドの冒険日誌に書かれていた不可思議な現象。

 自分だけが見える、自分の状態や能力を表す情報のこと。

 それを確か、アルフレッドはこう定義していた。


「ステータス画面……」


 そう呟くと、目の前にしゅん、と画面が現れた。


 ******************************

 ユリアーナ

 レベル:1

 HP:100

 MP:20

 筋力:5 体力:3 敏捷:2 運:2 魔力:10

 未割当ての能力値:残り100(消失期限:レベル50)


 アクティブスキル:

 『紅焔の加護』


 パッシブスキル:

 『感染症』

 『孤立』

 『脆弱な肉体』

 『油断』

 『欠損した魔力回路』

 ******************************


 で……でた……! まさか本当に出てくるとは。

 自分で自分の状態確認をするのはなんとも奇妙な感じがした。


 どうやらこのステータス画面は念じると目の前に現れるようだった。ご丁寧に触るとスクロールも出来た。


 ただ、訳のわからない文字の羅列に一瞬吐き気がした。

 なんだか文字にノイズが走っていてよくわからないものもある。


 今はこの画面は閉じて私の置かれた状況の整理を進めることにした。

本日は2話投稿予定です。(1/2)


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