34.たとえ世界が空から落ちても ⑨
息が霧となって、朝の冷たい空気に溶けていく。
先ほどまで道端に無造作に捨てられていた棒切れにエンチャントを施して擬似的な剣を形作る。
それを私は、"ユリアーナ式棒切れソード<試作>"と名付けた。
この試みが成功すれば道端のガラクタでさえも、いや、ありとあらゆる物体が武器となるはずだ。
朝の光が地平線の向こうからゆっくりと昇り始める中、私は高台から一歩前へと踏み出し一息にそこから飛び降りた。草原には大小さまざまなモンスターたちがうじゃうじゃと這い回っている。
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グリムクリーパー
ディケイドラッカー
スカベンジャークロウ
ラストビースト
モスファング
に遭遇しました
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私の気配に気づいたモンスターのその瞳には、飢えと殺意が宿っている。私もまた、彼らを睨み返す。
「朝の運動にはちょうどいいかな」
館から持ってきた実剣にエンチャントを施した、名付けて"館剣"と"棒切れソード<試作>"を両手に携え臨戦態勢を整えた。
夜明け前の薄暗い草原を舞台に、駆けてくるモンスターを狩り続けた。草の葉が空中に舞い上がり、その間を縫うようにして、モンスターの群れが迫る。まるで波のように押し寄せ、そして私の剣の閃光がそれを断ち切る。
「一、二、三…」
館剣で前方のモンスターを真っ二つに斬り裂き、次いでユリアーナ式棒切れソードで後方から接近してくる別の獣に一撃を加えた。
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レベルアップしました
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スキル『魔力吸収』が発動します
魔力と【魔素】を一定量獲得します
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戦闘の初めに比べ、私の動きは明らかに速く、より正確になっているのが自分でもわかった。
レベルアップと魔力吸収の影響で一体あたりにかける時間が減っていく。
しかし、問題は"棒切れソード<試作>"の方だ。
魔力が不安定でどうにも安定しない。身体強化の魔力壁に加えて武器にもエンチャントして、しかもその武器の一方はほとんど実体のない棒切れにエンチャント制御を回しているため、苦労するのも無理はないかと敵を切り裂きながら考えた。
身体の方は、もうほとんど元の世界の動きを取り戻しているのを実感する。
だからこそ、問題なのは魔力量だ。
元の世界の私に比べてまだまだ魔力量が少ない。
――まぁ元の世界にステータス画面はなかったので詳しい数値は比べることができないのだが。体から発露する魔力の軽さで大体測ることはできる。
身体から離れるほどに減衰していく魔力と、少ない魔力量を戦いながらに制御する。
魔力を練って、練り上げて、少ない動きで、少ないリソースを効率的に変換していく必要がある。
この魔力制御こそが至難の技ではあるが、――あぁ、こういう時こそ、母と稽古していてよかったと心の底から思えるのだ。
「三十五、三十六…」
空が徐々に明るくなるにつれ、更なる大群が私の前に現れた。十体、二十体と数を重ねるごとに、私の動きはさらに洗練されていった。剣の閃光が朝日に反射し、その時には既に三十体以上のモンスターを薙ぎ払っていた。
速さが求められる戦いで、私は呼吸を整え、次の一撃を放つ。
迷いを払うかのように、ただひたすらに敵を討伐していく。
戦闘に慣れてくると、また余計な考えが頭を占める。
私の故郷は。今も戦禍の渦に包まれているかもしれない、と。
もしかしたら、生き残った誰かが助けを待っているかもしれない。こんなところで、私は。
ふと足を止め、一呼吸を置く。もうこれは、自分の意思とか関係なく浮かんでくるな。と自分の心に少し呆れた。
その間も、周囲のモンスターが私に躊躇なく襲い掛かる。一頭の巨大な獣が私を目掛けて突進してきたが、一振りでその動きを封じ、更に背後から迫る敵に対応した。
「五十、六十…」
私の剣はもはや自分の一部のように、意のままに敵を断ち切る
戦いの激しさは一切の休息を許さない。草原の地を踏みしめながら、私は敵を次々と倒し続けた。
「七十、八十...」
敵を倒すたびに私の感情はさらに激しさを増していった。剣を振るう手に力が籠もり、敵の断末魔が風に乗って遠くへ消えていく。その声が私の心を揺さぶり、故郷への帰還を思い起こさせる。
本当に、私は故郷に帰れるのだろうか。いつになったら私は――。故郷に帰ったところで、私の居場所はもう……。いや、そんなはずはない。考えるな、迷いを断ち切れ。
「これで… 百!」
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レベルアップしました
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最後の一撃を加えると、草原は一時の静けさに包まれた。レベルアップの通知が頭の中で鳴り響く。
周りには倒されたモンスターの死体が散乱し、草原の緑がそれらの赤黒い血に染められている。太陽はすでに高く昇っており、その光が無数の死体を照らし、朝露を蒸発させている。遠くから、仲間たちの声が聞こえてくる。
「これを全部あいつが?」
「ああ。朝からずっと、だってよ」
「そうか。――やっぱり、さすがだな」
遠くでミカとフェンの話す声がかすかに聞こえる。話の内容までははっきりとは分からないが、私を見守ってくれていることは感じられた。見ているなら、手を貸してくれてもいいのに。
「もう少しだぞ、頑張れ〜、ユリアーナ」
「もう疲れたのか?だらしがないぞ」
「う、うるさいな……」
ぜぇぜぇと息を切らしながら戦う私の背後で、彼らは高みの見物をしているようだ。
不思議と、その言葉にも何か温かみを感じる。
「これで……百二十!!!」
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レベルアップしました
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敵のいなくなった草原は一時の静けさに包まれた。剣を振るう腕が重く感じられる中、剣を鞘に収め、ゆっくり呼吸を整えた。
故郷への帰還はまだ先だが、この成長が私を一歩前へ進めてくれることを願って。
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ユリアーナ
職業【セレスティアル・エンチャンター】
レベル:18
HP:672 / 986
MP:329 / 587
筋力:73 体力:70 敏捷:41 運:39 魔力:284
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ふと、ステータス画面を開く。
――しかし、これだけの敵を倒しても、レベルアップはわずか八だけ。
自分より弱い敵、もしくは同等の敵との戦闘では期待していたほどの経験値は得られない。序盤の数十体を倒した時のレベルアップのペースと比べると、進行するにつれてレベルの伸びが鈍化しているのを肌で感じていた。のはそうなのだが……、
とはいえ、この経験値量は流石に少なすぎではないか!?やはり、自分よりも強い敵と戦わなければ――。
その場で項垂れていると、ミカが近寄ってきた。
「お疲れ。そろそろ飯にするぞ、ユリアーナ」
「見てるなら……手伝ってよ……」
まだ呼吸が荒い。
「何言ってんだ、言い出したのはお前だろ?」
「そ、そりゃそうだけど……」
差し出されたミカの手を取り立ち上がった。
途端に、背中をバシン、と叩かれる。
「しっかりしろ」
痛っ、と声を漏らしてしまう。それは、まるで私をはげますかのような――。
「何に焦ってるかは知らんが、私たちがついてる」
そういうと、ミカは先を歩き始めた。
一瞬、ぎくりとした。やはり、色々と悩んでいることをミカには悟られていたのだろう。
戦闘中も立ち回りにブレがあったし、それもそうか。見る人が見たら気づく。やはり、凄い。
「まだ先は長いんだ。こんなところで疲れ切ってたら体力持たないぞ」
振り返らず歩くミカの背中に、私はええ。と頷いた。
――大丈夫だ。体力ならすぐに回復する。疲れていても、すぐに。
なぜならば、最近は体の調子がすこぶる良いのだ。おそらく、こいつのおかげ。
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パッシブスキル:
超越者『HP/MP自然回復にかかる時間が80%短縮』
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レベル10の時に獲得したスキル『超越者』。
昨日たいして寝れなかったはずなのに寝不足を感じることなくこれだけ身体を動かせることもそうだし、今だってそうだ。一時間程度休息を挟むだけでHPがみるみると回復していく。この回復力は、想像以上にとんでもないものを手に入れたのかもしれない。
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