27.たとえ世界が空から落ちても ②
互いの服の裾を掴みながら、真っ暗な空間をひた進んでいく。
フェンの獣人特有の夜目だけを頼りに。
通路を進むにつれ、次第に辺りは静まり返り周囲の音が遠ざかっていく。
ふと、遠くから漏れる光があることに気づいた。急ぎ足でそこに向かうと床に大きな穴が開いており、その下から階下の明るい灯りが漏れていた。暗闇の中でその光は、周囲の陰影を一層際立たせた。
「ここを下りるしかなさそうだな」
フェンの低い声が静かな通路に響き渡る。
皆で慎重に、床の穴へと近づいた。一瞬の躊躇を乗り越えて、一人ずつ穴に入り込んでいく。落下は思ったより短く、すぐに固い地面が足元を迎えた。無事に下の階へと降り立ち、ほっと一息つく。
驚くべきことに、下の階は照明で完全に照らされていた。それに、獣の爪痕一つない綺麗な壁と床が私たちを迎え入れた。その整然とした様子は、上の階とは明らかに異なっていた。
「こっちは随分空気が違うな」
「だな。めちゃくちゃジメジメしてたのに」
そんな話をしていると、遠くで扉がウイーン、と音を立てて開いた。
やはり、この辺りには正常に電気が供給されている。人影に反応し自動で開いたようだ。
まるで私たちを中へと招き入れるかのように。
皆で目を合わせた。
「いくか?」
「――しかないでしょ」
慎重に部屋に足を踏み入れた。
まず目に飛び込んできたのは、壁一面に設置された複数の、大きなモニター。その画面には、先ほどまで私たちがいた広大な室内と壊れたガラス装置が映し出されている。
部屋の壁には、整然と配置された書棚が並ぶ。本たちは見た目にも新しく、手に取ってみるとその質の高さに目を見張るが、残念ながらそこに書かれた言語は私たちには理解できないものだった。それぞれの本には獣や人型機械のイラストが描かれており、どれも似たようなテーマを持っているように見えた。
「やっぱり、あの大きなガラスの装置は何かを捕らえておくものだったようですね。ここに書かれている大型の獣がそれでしょうか」
「……うん。人工的に作られた狼のような獣。 それか、そもそもそんな獣がどこかにいてそれを捕獲して研究してたとか」
「何はともあれ、ここらで相当やばいことが起こったってことはわかったな。上の階の崩壊っぷりは異常だ」
そう言いながら皆で部屋を調べるうちに、徐々にこの施設のことがわかってきた。この施設がかつて何らかの重要な研究施設であったこと、そしてそれは、大型の獣や機械に関する研究が行われていたことを容易に推測することができた。文明レベルで言うと、元いた世界よりも突出して発達している様が窺えた。
そんな時だった。
――……いるの?
耳鳴りとともに、何か、声が聞こえた。
一瞬ユウリ――この世界の私の霊魂のこと――の声かと思ったが、違う。
どこか、遠くで聞こえる。
――誰かいるの?
持っていた本を閉じて周囲を見渡す。誰も喋ってない。
エレシアはモニターを興味深そうに見つめている。
フェンは今にも壁をぶっ壊しでもしそうなミカを嗜めている。
誰も、言葉を発していない。
――お願い、今も私はそこに……
「シッ!」
突然、フェンが私たちを制した。
彼にもこの声が聞こえたかとそう思った。
しかし、様子を見やると何やら違う。
彼の鋭敏な嗅覚が何かを感じ取っている。
鼻をクンクンと動かし、周囲の空気を嗅ぎ分けている様子が、一層の緊張を部屋に引き込んだ。
「何か来る!」
ドゴン、と。
爆発的な破壊音とともにフェンが警告した瞬間、突如、壁が吹き飛んだ。
粉々に砕け散るコンクリート、舞い上がる土煙と瓦礫。その混沌の中から、地を揺るがすような足音を立てて現れたのは、
「グオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
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汎用型防衛ゴーレム零号-MX2
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視界の端でステータス画面が浮かぶ。
咆哮が部屋中に響き渡り、壁を震わせた。
それは巨大な石のゴーレムだった。全身は粗野に削り出された岩石で形成されており、体躯は人間の何倍もの巨大さに達していた。深くへこんだ眼窩から赤く発光する二つの光は、不気味に輝き、私たちに対する明確な敵意を示している。
「やるぞ!」
ミカがそう叫び、その声が響くよりも先に私は空中にいた。
目標はゴーレムの巨大な顔面。全力を込めた渾身の正拳突きを放つも、岩石のような肌に跳ね返され、無残にも弾かれる。
「こいつ….硬い!」
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スキル『魔力吸収』が発動します
魔力と【魔素】を一定量獲得します
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私が叫ぶ中、ゴーレムの振り払う巨大な左手が迫り来る。まるで蚊のように押しつぶされそうになったその時、エレシアの5本の指から発した透明なシールドが私を包み、壁に激突する衝撃から守った。
「ありがとう、エレシア!ナイスタイミング!」
「はい! ――また、来ます!」
再びゴーレムが両手を振り上げ、私たちに向けて容赦なく振り下ろしてこようとしたその時。
「いくぞ! ヴェルト!」
ミカの言葉と同時に、彼女のイヤリングが瞬く間に巨大な戦鎚-ヴェルトアトラス-へと変形し、ゴーレムの頭部を狙って容赦なく振り下ろされた。ゴチィン!という鈍い重低音と共に、ゴーレムの体が大きく後方へと傾き、その巨体が一瞬で体勢を崩した。
「グ……オォ…」
ゴーレムが苦悶の声を上げる中、フェンはその隙を逃さなかった。
彼が剣を抜き、一筋の閃光の如く煌めきを放ったかと思うと、次の瞬間、ゴーレムの体がまるで紙のように縦二つに裂けていた。
刀身はゴーレムの体の中心を完璧に捉え、その巨体は綺麗に分断された。
苦悶の声を上げる暇もなく、ゴーレムは、ズズウゥゥゥウンと土煙を上げ倒れた。
「す、すごい……」
あっという間だった。
同じ戦場にいながら、私は驚くことしかできなかった。
Bランク冒険者とここまで力の差があるのかと、わかってはいたが改めて実感させられたような気がした。
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レベルアップしました
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視界の端で、静かに通知が浮かんだ。
霊魂は"ユウリ"という名前にしました。
"幽霊のような存在"と、"ユリアーナ"でユウリ。
そこ、センスがないと言わないこと。
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