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2.嵐の前の静けさ

 私がイアと出会ったのは9歳の頃だった。

 ある日、(今となっては覚えてないが)どこかの国の王が交流を図るために主催した宴席があった。


 小さな宴席には王家の者たちや貴族が集まり、酒盛りに興じていた。

 父の背後に隠れて、好奇心と少しの緊張を感じていた。

 イアもまた、自分の父の後ろで小さくたたずんでいた。


「ユリアーナ、こちらがイアちゃんだよ。挨拶をしようか」


 父に促され、恥ずかしかったが一歩前に出た。


「こんにちは、ユリアーナです」


 イアもまた、前に出てきて、


  「……よろしく。ユリアーナ」


 と小さな声で言った。


 お互いをじっと見つめ、少しの間、言葉を交わさなかった。

 その時のイアは9歳にしては驚くほどに成熟して落ち着いた表情をしていたのを覚えている。

 私のことを真っ直ぐに見つめる青い瞳は今でも忘れない。情熱と決意に満ち溢れたような、まるでその瞳には未来を垣間見るかのような美しい輝きが宿っていた。勇敢な瞳だった。


 イアは小さな手を差し出し、それに応じて握手を交わした。

 それから時は流れ、度々一緒に時間を過ごしお互いのことをよく知るようになっていった。

 仲良くなるまでさほど時間はかからなかった。

 私とイアの国は交流を重ね同盟関係になると同時に、お互いの国の訓練に参加したり、時にはお茶を酌み交わしたり、時には一緒に星を見ながら過ごして未来への夢を語り合ったこともあった。

 同じ年齢ということもありお互いにとってよき信頼者だった。


 イアの手を取り、私は言った。


「イア、あなたは強くて頼りになる王女だ。力を合わせて、両国の平和を守り抜きましょう」


 イアもまた微笑みながら、手を握り返してきた。


「ありがとう、ユリアーナ。私も何かお手伝いができることがあれば教えてくださいね」


 静かな穏やかさが広がり、私たちは友情の絆を深めていった。


 夕陽が西の空に沈む頃、私は城へと戻った。

 忙しく働くメイドや従者たちの姿が目に入る。


「おかえりなさいませ、ユリアーナ様!」


 メイドのテレサと家令見習いのライアンが出迎えてくれた。


 二人はまだ10歳で、働き始めて間もないがいつも一生懸命でよく働き頼りになる存在だった。

 私にとって弟や妹のような存在で、二人のことは特に深く慕っていた。


「ただいま、二人とも」


 微笑みながら言い、愛情を込めて二人の頭を撫でた。

 彼らの無邪気な笑顔が、疲れた心を癒やしてくれた。


 テレサとライアンは照れくさそうにしていた。


「二人とも、明日のお祭りは羽を伸ばすのよ。遅くなるまでには帰ってきなさいね」

 優しく言い添えた。


「はい!」


 二人は元気よく挨拶を返した。その純粋な反応に、心の中で彼らの幸せを願った。


 母の居場所を尋ねると、二人は敬意を込めて「執務室です、ユリアーナ様」と答えた。

 礼を言い、母のいる執務室へと足を運んだ。


 母はいつものように政務に忙しく没頭していた。

 部屋に入ると、母は優しい笑顔で振り向き、尋ねた。


「お帰り、ユリアーナ。今日はどうだった?」


「お母様、お疲れ様です。外の様子を見てきました」


 母に政務の手伝いを申し出ると、母は感謝の表情を浮かべ、「そうしてくれると助かるわ」と応じた。


 私は仕事に取りかかった。国内外の情勢や軍の報告書など、様々な資料が散乱していたが、慣れた手つきで整理を進めていく。

 その後は書類を整理したり、都市の運営に関する議論を交わした。

 この時間は、私にとって学びと成長の機会であり、母との絆を深める貴重な時間でもあった。


 仕事が一段落した後、母と しばしの会話を楽しんだ。

 母の顔には一日の疲れがにじみ出ていたが、会話には温かい光が宿っていたような気がした。


「今日、城内の様子はどうだったの?」


 母が尋ねた。私は外で見た景色や出会った人々の話を語った。

 母は耳を傾けながら微笑んで頷いた。私が様々な経験をすることによってより成長していくことを願っているような、そんな人だった。


 母の表情を見て、深い理解と愛情を感じ取った。いかに自分のことを思ってくれているかを知り、心の中で感謝の気持ちが湧き上がった。


「お母様、いつも私のために時間を作ってくれてありがとう。 お母様がいるから、私は強くいられるんです」


 自然に口から言葉を紡いでいた。普段はこんなにも照れくさいことは言わないのだが。


「ユリアーナ、あなたがいてくれて私も幸せよ。あなたがここにいるだけで、私の心はいつも温かいの」


 母は優しく答えた。

 私は母との絆の深さを改めて感じ、自分がどれだけ恵まれた環境にいるのかを実感した。

 この暖かい家族の愛を胸にこれからの日々を力強く歩んでいく決意を固めた。

 そして母との会話を終え、心穏やかに自分の寝室へと向かった。


 部屋は穏やかで静かな雰囲気に包まれていた。

 優雅に揺らめく暖炉の炎と、心地よい香りに包まれた寝具がその空間を満たしていた。

 鏡の前で寝巻に着替え、髪を整えながら深呼吸を繰り返した。


 寝室には趣味の書斎があり、様々な本が並べられていた。

 特に最近夢中になっているのは、冒険家アルフレッドの冒険日誌だった。

 その日も、私はその日誌に手を伸ばし魅力的な世界に没頭した。


 アルフレッドの日誌には、未知の世界への挑戦が綴られており、巨大なドラゴンや賢者の魔法、神秘的な場所が次々に登場する。その想像を超える言葉に引き込まれ、冒険の興奮と未知への憧れが心に広がっていった。この日誌は、かつて宝物庫でこっそり見つけたもので、秘密の扉を開いたような感覚をもたらしていた。


 いつか王都を離れてこのような冒険をすることをぼんやりと考えていた。


 日誌を読み終えると、心躍る思いを抱えながら明日の収穫祭に思いを馳せた。

 賑やかになる街と笑顔で楽しむ市民たちの姿が思い浮かぶ。

 ベッドに横たわりながら、収穫祭へのわくわくとした期待感に満たされた私は、その興奮が冷めやらぬまま眠りについた。

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