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1.王都での安息

 窓から差し込む朝陽が、王都ヴァリアスの石畳を優雅に照らし出していた。

 青い旗が風に舞い、市場では様々な香りが混ざり合い、商人たちが色とりどりの品々を並べていた。

 その都市の中心に位置する高い塔の上で、私は風に舞う銀色の髪を靡かせながら佇んでいた。


 朝の日差しを浴びながら、王宮の食堂に足を向けると

 父王や母王妃、そして姉たち家族が既に揃っていた。

 王宮の料理長が用意した豪華な食事が並ぶ中、4人が揃ったテーブルには

 美味しそうな料理と共に温かな空気が漂っていた。


「ユリアーナ、今日も元気そうだな」

「はい、父上。今日も城内の様子を見てまわり、市民たちと交流しようと思っています」


 微笑みながら頭を下げた。

 父は、かつての屈強な戦士の面影を色濃く残していた。

 武術の達人として王国で名を馳せ、その剛腕で数々の戦いを勝ち抜いてきた人物である。

 年齢を重ねた今でも肉体は鍛え上げられた筋肉に覆われ、その立ち姿は依然として威厳に満ちていた。


 王妃である母は柔和な笑みで応えた。


「あなたのやり方は本当に素晴らしいわ。市民たちも親しみを感じていることでしょう。でも、くれぐれも気を付けなさいね?」


「わかっています」


 と頷き返す。


 母は、父とは対照的に魔術の達人でもあった。

 若いころから魔術の才能に恵まれ、王国内外でその名を知られている。

 母の魔術は、癒しや防衛に重点を置いており、彼女の力は多くの人々を救ってきた。


 王城に張られている巨大な結界も母がその強大な魔力を使って構築したもので、危険な存在が近寄ることはほとんど不可能とされていた。


「姉さんも久しぶりね、領地のことはどうだった?」


「順調に進んでいるわ。でも、久しぶりに家族と会えるのは嬉しいわね」


 姉、セリーナの声には、仕事に対する充実感と、久しぶりの家族団欒への喜びが混ざっていた。

 家族の中でも特に外交に関して卓越した才能を持っていた。王家の一員としての責任を自覚し、外交の任務を引き受けていたのだ。


 セリーナは怪しげな微笑みを浮かべながら、問いかける。


「そういえば、明日はあなたの誕生日だけれど……プレゼントは何がいいかしらね?」


 私は微笑みながら、


「必要ないわ。姉さんがここにいることが最高のプレゼントだと思っているから」


 と答えた。


 セリーナは軽く笑みを浮かべながら、


「あら、嬉しいことを言ってくれるわね。ならなおさらプレゼントは奮発しないとね」


 と冗談めかせると、その言葉に家族は笑いに包まれた。


 父が大笑いしながら「さすがセリーナ、センスがいいな!」と言うと、

 母も笑いながら「期待しちゃうわね」と口を揃えた。


 軽く冗談を言った程度だったのだがそこまで笑われるとなんだか少し照れた。


 愉快な雰囲気が食堂に広がり、温かい家族のひとときが続いた。

 家族と迎える温かい時間は大好きだ。その絆が私を支える力となっていた。


 食事を終えた後は身支度を整え、城内の中庭を歩きながら市場に向かっていた。

 足取りは軽やかでありながらも、心は市民たちとの交流に期待と興奮で満ちていた。


 市場に到着すると、市民との会話を楽しんだ。

 都市の住人たちには深く尊敬されるような存在でありたいと思っていた。

 王家の末裔ではあるが、そんなの関係ない。

 王様や王妃といった堅苦しい立場を避け、市民たちと親しく交流することが何よりも好きだった。


「ユリアーナ様、今日も美しい一日ですね」


 市場の花売り場で優しく微笑む老婦人が声をかけてくる。


「ユリアーナ、今日は特別に美味い果物が入ったぞ。ぜひ食べてみてくれ!」


 果物屋の主人が親しげに提案する。


「ユリアーナ、今日の稽古は楽しみにしてるぞ」


 市場をうろついていた兵隊長と気さくに会話した。


 私も笑顔で頷き返す。彼らとの交流は都市の中で特別なものとなっていた。


 市場の活気はいつもと違っていた。

 明日は王都の一年で最も重要な日、収穫祭が開催される日だった。

 この祭りは、一年間の豊かな収穫を祝うためのもので、市民たちにとっては特別な意味を持つ行事だった。市場にはすでに、収穫祭に向けて色とりどりの旗が飾られていた。鮮やかな色彩が通りを彩り、祭りの喜びを予感させる装飾が至る所に施されている。


 私は午後になると市場を後にし、中庭で軍の訓練に参加するために身支度を整えた。


 剣を腰に帯び、風になびくローブを身にまとい中庭へと歩みを進める。

 訓練には軍のエリートたちも参加しており、私は剣術の練習と魔法の詠唱を通じて、日々自らの実力を磨いていた

 身のこなしや敏捷性を高めることに重点を置いており。魔法詠唱では、元素の力を操りつつ剣技を織り交ぜる複雑な動きを習得していた。

 こういった訓練以外にも幼少期から母や父に稽古をつけてもらっていたため、戦闘には自信があった。


 その日、隣国の同盟国から来た王女イアも訓練に参加していた。

 彼女の卓越した剣術は軍の者たちから高く評価されていた。


 私もイアとはとても仲が良く、昔から私が参加している訓練に興味を持って付いて来ていた。


 イアは冷静かつ巧みな動きで剣を操り、まるで舞踏をしているかのように敵の攻撃をかわしていった。


 イアの元へ駆け寄ると、イアは言葉を交わさずとも剣を構えた。


 私は最近、火の魔法詠唱と剣術の融合にハマっていて訓練場は赤い魔法の輝きに包まれた。


 イアもまた剣を振るい、電気や氷の魔法を巧みに操った。

 戦いは美しさと緊張感に満ち溢れていた。


 訓練場の雰囲気は盛り上がり、観戦する軍の兵士たちも息をのんでいるのがわかった。

 イアと対峙する瞬間、空気はピンと張り詰め、二人の魔法がぶつかり合った。

 それは見る者を完全に魅了した。


 いつまでも続くかと思われたその戦いの中で――

 私は爆炎で巻き上がる煙の中を目にも留まらぬ速さで駆け抜け、イアの喉元に木刀を突きつけた。

 イアは敗北を認めた。

 イアの美しい青い瞳には敬意と誇りが宿っていた。



 その後も私は周りの兵士たちと共に力を高め合った。

 リーダーシップと努力が、都市ヴァリアスを取り巻く脅威への対策に役立つよう訓練は怠らなかった。


 戦いの余韻が残る中、私は剣を鞘に収め、イアに微笑みかけた。

 イアの成熟した強さと美しさに感心しながら近づくと、イアが言った。


「素晴らしい戦いだったわ。ユリアーナ。あなたの立ち回りは本当に見事ね」


 頭を下げつつも、自信に満ちた笑顔で答えた。


「ありがとう、イア。 あなたこそ少し見ない間に強力な魔法を身に付けたわね」


 以前戦った時は魔法を使おうとするときに足が止まったり、剣技を使うときには魔法がおろそかになっていたりで、明らかに隙があったのだが――


 色々と話したいと思ったので、イアに提案した。


「せっかくだから、この後少しだけ話さない? いい場所を知ってるの」


「もちろん」


「よかった。じゃあ支度をしてから行くわね。3時ごろに広場の噴水前で」


 訓練を終えて屋敷に戻り、さっそく着替えを済ませると市街地へと出かけた。

 重厚な扉を開けると、城内の賑やかな街並みが広がっていた。

 石畳の道を歩き、風になびく髪を整えながら、訓練後の爽快感と街の喧騒が私を包み込んでいった。


 予定の時間までに、まずは軍の警備隊長に状況を確認することにした。

 城内を抜け、士官の一団が待機している本部へ向かった。部屋に入ると、警備隊長は他の隊員と会議をしている最中だった。

 折を見て話しかける。


「隊長、お疲れ様。異常はなさそう?」


 敬意をこめて声をかけると、隊長は一瞬顔を上げ、微笑んだ。


「ええ、ユリアーナ様。特に問題はありませんでした」


 それは良かったと返す。


「明日の収穫祭は大丈夫そう?」


「ええ、いつも以上に警備を強化する予定です。特に外部からの来訪者が多いですから、万全を期しています」


 隊長に礼を言い、その場を後にした。


 市街地は収穫祭の準備で活気に満ちており、賑やかな様子で溢れていた。

 灯に飾りつけられた花や煌めくイルミネーションが輝いていたり、色とりどりの旗や風船が風になびいてとても綺麗だ。

 仮設の舞台では地元の劇団や音楽隊がリハーサルに励み、町に活気を吹き込んでいた。

 屋台では新鮮な果物や煌びやかな食材が積み上げられ、小気味良い調理音が街角に響いていた。

 収穫祭が近づくにつれて町全体がキラキラと輝いているように感じた。


 その様子を眺めながら、広場の噴水前でイアと合流し街のカフェへ向かった。

 店内の暖簾が風に揺れ、柔らかい光がテーブルを照らしている。イアはその青い瞳で私を見つめ、軽い微笑みを浮かべていた。


「にしても、まさか市街地のカフェとはね……」


 イアはいぶかしんだ。


「一応私も王族よ?普通、王宮の豪勢な食事とか高級な紅茶とか出てくるかと思ったのに」


「別にいいでしょ。私はここの店の味が好きなの」


「誘われた時からそんな気はしてた。あなたらしいわ」


 イアが微笑んだ。


「ユリアーナ、最近どう?」


 私はアップルパイにフォークを刺し、一口頬張ってから答えた。


「忙しいけれど、軍の訓練や王城での日常業務が多かったかな。市民と交流したり。それもまた楽しいから、いいのよ」


「あなたは本当に市民に愛されているわね。みんな尊敬していると聞くわ」


 イアに言われると、少し照れくさかった。


「市民との交流は大切にしてるからね」


 イアはしばらく黙ってから、窓の外を眺めて言葉を続けた。


「難しいわね。尊敬と距離感って」


 窓の外では子供が無邪気に走り回っていた。

 イアは紅茶を一口啜る。


 イアの言葉に耳を傾けながら、アップルパイをほおばり、笑みを返した。


「イア、距離感は大切だけど気軽に話せるのもまた素敵だと思うわよ。 それと、ここのアップルパイもとても素敵な味よ。食べないならもらうから」


「私は楽しみは最後にとって置くタイプなの」


 イアの皿を横取りしようと思ったが、怒られた。


 私たちはアップルパイを楽しみつつ、店内の和やかな雰囲気に溶け込んでいた。


「明日は収穫祭ね」


「そうね。城内ももう賑わってるし、いつもよりもっと楽しい雰囲気になりそうだわ」


 イアは微笑みながら言った。


「ユリアーナ、私もその賑やかな雰囲気を味わってみたいわ」


「もちろん、一緒に楽しみましょう」


 カフェでの時間を満喫しながら、明日の収穫祭へ期待を膨らませていた。

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