8.特異点(+キャラクター紹介その1)
太陽の光が窓から差し込むのを感じて目を覚ました。
今日の天気は快晴だった。
母のペンダントを身につけ、いつもの居間へと降りていく。
エレシアはすでに起きていて、静かに朝食の準備をしている。
トントンと小気味いい音が居間に響いていた。
「お嬢様、おはようございます」
「うん、おはよう」
「今日も森に行かれるのですか?」
「そうね、もう少し探索してみようと思う」
エレシアと食事しながら何言か会話をし、朝食を食べ終わると剣を片手に庭へ出た。
軽くストレッチをしてから剣を振る。
体の重さやだるさは消え失せており、コンディションは元の世界にいた頃に戻りつつあった。
後はデバフスキルが無ければ最高なのだが――
「お嬢様」
エレシアがパタパタと近寄ってくる。
「これ、お昼用のお弁当です」
「いつもありがとね」
私が近所の散策に行く時はいつもこうやってお弁当を持たせてくれる。
エレシアは私にとって勿体ないくらいのよく出来た家臣だ。
「それにしてもお嬢様...」
エレシアが私の体を舐めるように見つめている。
「随分と雰囲気が変わりましたね。背格好も、なんだか身長が伸びたような...」
「そうかな?」
そう言われてみると、成長のおかげでだいぶ筋肉はついた気がするがその影響だろうか。
「それじゃあ、行ってきます」
「はい、お気をつけて」
エレシアと別れ、私はいつもの森に向かった。
森はいつもと変わらず薄暗く不気味だったが、以前と変わったことがあった。
それは、今まで襲いかかってきたラビット、ダイヤウルフなどの魔物も今では私をみると逃げるようになっていたことだ。
レベルを悟って逃げているのか、それとも何度か立ち入ったせいで私がこれらの魔物に認知されているのかはわからないが……
そのかわり新たな発見もあった。
これらの低級な魔物を何度か倒したのだが、レベルアップしなかった。
おそらく、自分より雑魚な敵を倒してもあまり経験値が入らないようだ。
逆に、自分よりも強い敵を倒した時はすぐにレベルアップした。
もっと強くなるためにはさらなる強敵がいる場所で狩りをする必要があった。
そんなことを考えながら森の探索を進めていくと、
以前雷狼と戦闘した、開けた岩場へとたどり着いた。
「確かこの先で、あの雷狼と戦闘したのよね……」
手強かったと、そう思い返しその場所を見遣ると。
そこにはあまりにも"異様な光景"が存在し目を疑った。
どう表現するべきか、とにかく"異様な光景"としか言いようがなかった。
そこには、巨大なヒビが割れていた。
空中に大きな裂け目のようなものが存在し、その裂け目からは邪悪な瘴気のようなものがもんもんと溢れ出していた。
「なに……これ……」
以前来たときはこんなものは存在しなかった。私は驚愕で言葉を失った。
好奇心で手を伸ばそうとしたが、我に返った私は一旦この異様な光景をエレシアに報告することにした。
急いで館に戻り、彼女を連れて再びこの場所へと足を運んだ。
「これは……」
エレシアもこの異様な現象に目を丸くしていた。
「おそらく……"亀裂"ですね……」
「亀裂?」
「ええ。私も噂でしか聞いたことはありませんが……」
エレシアは考え込むように口元に手をやり、続けた。
「亀裂……それは次元の裂け目とも言われ、この中には我々とは異なる空間、つまり異世界が広がっていると噂されています」
「異世界!?」
私はその言葉を反芻する。
異世界、とエレシアは言ったのか。やはり私の考えは合っていた。来ることが容易だったんだ、戻ることだって難しくはないはずだ。
「え、ええ。――ですので、入るのはとても危険です。この先に何があるのかは誰にも分かりません。未知のモンスターや、未踏の文明、それこそどんなアイテムがあるのかも――」
「大発見よ!エレシア!」
彼女が何か言っている気がしたがもはや耳には入ってこなかった。
この中には私の元いた世界が広がっているかもしれない。
王都、そして残してきた民たち...その現状がどうなっているのか、私はすぐにでも確かめないといけないのだ。
それに、仮に元の世界と繋がっていなくても必ず何か手掛かりが見つかるはずだ。異世界に来た私とそこに突如、偶然現れた亀裂――、運命的な何かを感じずにはいられなかった。
興奮気味にその亀裂に触れるつもりで走り出そうとすると――
「ダメです!」
エレシアのシールドで捕縛された。
「落ち着いてください、お嬢様」
「でも……」
「いくらお嬢様の頼みでも絶対にダメです。あまりにも無謀すぎます」
シュン、と私の周りに展開されたシールドが消えた。
すぐに解除してくれたところを見ると、あまり怒ってはいなさそうだ。
「エレシア……」
「ダメです」
エレシアの手をぐっと握りしめる。
「お願いよ。どうしても、私はここに行かないといけない気がするの」
そうだ。どうしても。この先に少しでも可能性があるのならば。それが私の生きる意味なのだ。一刻も、早く――
強い決意を持ってエレシアのその大きな紫の瞳を見つめる。
お願い。と、心を込めてエレシアを見上げた。
「は、はひ……」
はい。と言ったのだろうか。あまりにもエレシアの心が折れるのが早く驚いた。
目線を逸らしながらエレシアが答える。
「で、でもせめて――、冒険者が同行しないとダメです。」
冒険者、というとギルド的なところや制度があるのだろうか。
「冒険者がいればいいのね」
「冒険者と言っても! そこらの有象無象共ではダメですよ。腕の立つ冒険者ではないと、還ってお嬢様を危険に晒しますから。せめて私以上には強くないと。まぁそんな人はなかなかいないと思いますが……」
腕の立つ知り合い……そんな存在、この館から出たことすらないのにアテがあるわけがなかった。
「エレシアは、誰かいい人知らない?」
気づくとエレシアの手をずっと握ったままだった。
問いかける手には自然と力がこもった。
「う……、い、一度だけ……本当に一度だけですが――」
こちらの顔を見るとすぐにまた目を逸らしてしまった。
「都で、冒険者と話を交わしたことがあります。腕が立ちそうな風貌ではありましたが……なにぶん何度か話を交わしただけなので本当に信頼できるかどうかは――」
「じゃあ、決まりね。今からその人に会いにいきましょう。」
「い、今からですか!?」
「ええ、行きましょう!」
エレシアの手を引っ張って森から抜ける。
次の目的地はエレシアの知り合い冒険者がいる都への旅路となった。
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キャラクター紹介 その1
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エレシア・クライルハート
生い立ち:
幼少の頃、ユリアーナに命を救われる。忠誠を誓いユリアーナのメイドに。
その後はユリアーナの病に伴って家を追い出され、三年間ユリアーナの看病を続けた。
ユリアーナには絶対の忠誠を誓っている。
復讐:
復讐者。ユリアーナの病が人為的な手段、特に何者かによって毒を盛られたせいで発症したのではないかと確信しており、その真相を突き止めることに密かに執念を燃やしている。真犯人を見つけ出し、その人物に対して復讐を果たすことが使命。
戦闘:
「デジタルシールド」という、魔力を指先に込めてシールドとした力を操り戦う。
片手で五枚、両手で十枚分のシールドを展開でき、くっつけたり分離したり飛ばしたりできる。
ほそく尖らせて無数に分離させ、ビットのように展開し攻撃もできるが、刺すだけなので威力は弱い。
距離と大きさによって強度が変化する。大きく、遠いほど威力減少。
盾、捕縛、迎撃など用途は様々。
外見:
16歳。
メイド服に身を包んでいる。
紫の瞳に黒の髪。
美脚。(ユリアーナ談)
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