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6.森の主との死闘 ③

 背後には、あの一際大きな雷狼が群れを率いて私に迫ってくる。

 その迫力に、恐怖と緊張が全身を支配し、息が詰まりそうになる。

 しかし、私は必死に冷静さを保とうとした。

 この絶望的な状況から抜け出す方法を、脳がフル回転で探し求める。

 何か、まだできることはないだろうか。

 そうだ、未割り当てのステータスポイントがあったはず。もしかすると、それを使えば……


 その時、雷狼が一歩前に踏み出し、大口を開けて襲いかかる。

 私は必死で躱そうとするが、次々と繰り出される攻撃に反応が追いつかない。


「ぐっ……!」


 足の痛みが悪化し、もはや満足に立っていられない。雷狼が再び私に跳び掛かる。

 剣を盾代わりにしようと目の前に構えたが、その鋭い牙と巨大な口がまるで剣を無視するかのように私ごと挟み込んだ。


 尖った牙と強靭な顎の圧力が私の身体を貫いた。

 ゴキリ、と骨が砕ける音が耳に響き、私は激痛に叫びを上げた。


「うあああああ!」


 恐怖が全身を支配し、思考を凍らせる。

 このままでは死ぬ。命を落とす。

 私はもがき、剣を突き立てようとするが、狼の圧倒的な力にぴくりとも動けなかった。


 次の瞬間、全身を電撃のような衝撃が走り抜けた。狼が纏っていた雷の魔力だ。

 弱った獲物を捕食するかのようなとどめの一撃が私を直撃する。


「かはっ……」


 息が詰まり、体中の力が一気に抜け落ちた。

 食い込んだ鋭い牙が私の肌を容赦なく貫く。

 血と、力が全身から抜けていくのが感じられた。

 意識が薄れ、絶望の中、私は死を悟った。

 いやだ、こんなところで終わるわけには……復讐すら果たせずに……

 内なる怒りと絶望が私を奮い立たせようとしても既に時は遅かった。

 徐々に意識は闇の中へと沈んでいき、私の世界は完全な暗闇に包まれようとしていた。


 しかし、意識が完全に消え去るその瞬間、視界の隅で何かが閃光のように現れ、一瞬の輝きが全てを照らした。

 空中に展開された透明なトゲのようなものが、周囲を取り囲む狼たちを一掃し、雷狼をも貫いた。

 痛みで雷狼は私を放し、透明な魔力壁のようなものが一瞬で雷狼を捕縛した。


 そこには、私を守るようにエレシアが立っていた。



 --------------------------------------------



 次に目を覚ましたとき、私はエレシアの膝の上に横たわっていた。

 辺りはまだ森の奥深く、捕縛された狼は透明な魔法の檻の中で狂暴に暴れている。


「うぅっ……」


 体を起こそうとするものの、激しい痛みが全身を襲い、苦痛に身をよじった。


「あ!まだ動かないでください……」


 彼女が手をかざすと、傷口から出血が収まり始める。


「おかしいな……さっきからわたしのヒールが全然効きません。もっと回復するはずなのに……」


「エレシア、なぜ……」


 私は弱々しく問いかけた。


「すみません、お嬢様……どうしても心配で……」


 彼女の声には、深い申し訳なさが滲んでいた。


「いえ……おかげで助かったわ。ありがとう」


 彼女の機転がなければ、私はこの場で命を落としていただろう。


「これ、飲んでください。マジックポーションです」


 瓶に入った青い液体のようなものの栓を開け、私の口にエレシアが注ぎ入れる。


「魔力だけは私の治癒魔法で回復できないので、これで――」


 ――うっ


「ゲホッ、ゲッッッホ!」


 その苦すぎる味に思い切り吐き出してしまった。これが飲み物なのか本当に。まるで吐瀉物をそのまま飲んでいるような最悪な味がする。


「辛いですが、今は我慢してください。効果はちゃんとありますから……」


 苦痛とその最悪な味に顔を歪めながらも一気に飲み干した。

 ステータス画面を見る。HPとMPはある程度回復しているようだった。


 ******************************

 ユリアーナ

 レベル:6

 HP:148 / 342

 MP:31 / 160

 筋力:15 体力:13 敏捷:10 運:10 魔力:19

 未割当ての能力値:残り90(消失期限:レベル50)


 ******************************


 彼女の手が優しく、しかし確かに私の傷に触れ、癒しの魔法が静かに流れ込んでくる。


 だが、体はまだ完全には回復していない。痛みに顔を歪めながらも、私はゆっくりと立ち上がった。エレシアの心配そうな眼差しを背に、私は前に進む。


「エレシア、あいつは絶対に私が倒すわ……」


 暴れる狼と目が逢う。よだれを垂らし瞳孔が開き、今にも襲い掛かってきそうだ。

 エレシアは心配するわけでもなく、そして否定するわけでもなく、「はい!」と力強く言うと私に言葉を投げかけてきた。


「私のシールドで捕らえています。準備ができたら、――いつでも」


 いつでも解除できますと、まるで私の気持ちがわかっているかのようにエレシアは答えた。


 エレシアの指先ではしゅるしゅると小さい透明な板が回転していた。

 先ほどの狼を捕縛した魔法と同じものだろうか。不可思議な力が 彼女の手の上で展開されていた。


 この獣にやられて終わるわけにはいかない。

 全身の痛みを押し込め、魔力を纏い、剣を握り直す。この戦いは私が終わらせる。


「もう大丈夫。お願い」


 頬を拭って雷狼を見据える。

 森の奥深くから現れたこの地の支配者。

 その獰猛な瞳が私を捉え、雷が全身を包む。しかし、今の私は違う。恐怖を超えた先に見えるものがある。それは、逃げることなく立ち向かう勇気だ。


 エレシアは微笑みながら透明な檻に向けて手をかざした。


「お嬢様……きっと出来ます。ご武運を」


 そう言って、エレシアがパチン、と指を鳴らすと透明な檻が崩壊し、狼が外に解き放たれた。

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