5.森の主との死闘 ②
「よし……」
心を落ち着かせ、深呼吸を一つ。
準備を整えた私は、全身に魔力を纏い立ち上がる。
かつての重さを感じさせないほど、今の剣はまるで自分の手足のように軽やかだった。
辺りは、気づけば一層深い森の中。
どれほど進んだのか方向感覚を失いかけていたその時、一筋の日光が岩場を照らし出し、ひらけた場所へと導いた。
そこは、まるで何かを待っていたかのように静まり返っていて、不穏な空気が漂っていた。
そして、突如、岩場の上から響く狼の雄たけびが、静寂を切り裂いた。
目の前に一頭の狼が姿を現す。
その瞳は鋭く、私をじっと見据えていた。
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ダイヤウルフ
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今の私なら、何とか勝機を見出せるかもしれない。
そんな確信めいた感覚が胸を高鳴らせた。
剣を構え、狼に斬りかかる姿勢を見せるが、その狼の動きはまるで幻影のように素早い。
私の剣の軌道は見透かされ、一撃もその身に届かない。
「くそっ、早すぎる……」
私の舌打ちとともに、狼が猛然と私の脇腹に噛みついてきた。
「うあああああ!」
痛みに包まれ、私は絶叫した。
全身を覆うはずの魔力の防御は、まだ不完全で、狼の鋭い牙からの痛みを完全には遮ることができなかった。
怒りとともに、私は手から火を出し、狼の顔面に強く押し付けた。
その火力は弱かったが、肌に直接触れれば狼でも痛みを感じるはずだ。
狼はなかなか口を開けて離そうとしない。
「早く……燃えろ……!」
噛みちぎられそうな痛みに耐えながら心の中で叫んだ。
ついに狼が熱に耐え切れずに噛みついた口を解放した。
苦痛に満ちたキャンキャンという声をあげる狼を、そのまま放すことなく、私は剣で一気に貫いた。
狼は遂に、その場で息絶えた。
戦いには勝利したが、その代償は私の脇腹の深い痛みとして残った。
立ち上がりながら、出血はないものの、ズキズキとした痛みに顔をしかめた。
「さすがに……まずいか……」
危険な状況にあることを悟り、館に戻ろうと振り返ったその瞬間、遠くから更に大きく、凶暴な雄たけびが響いた。恐る恐る振り返ると、茂みから無数の瞳が光り輝き、私を捕らえていた。
姿を現したその狼の群れの中には、一際大きな存在がいた。
それはボス級とも呼べるダイヤウルフで、まるで雷のような強烈なエネルギーをその身に纏っていた。
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雷狼-ヴォルゲン- に遭遇しました
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恐怖で背筋が凍った。
「嘘でしょ……」
雷狼は恐ろしいほどの気迫を放ち、瞳孔が広がった目で私を睨みつけ、よだれを垂らしていた。
恐らく、さっき倒した狼の親であろう。その圧倒的な存在感は、ただそこに立っているだけで森全体がざわめいているかのようだった。
このままではまずい。
狼たちに囲まれ、逃げ場はどこにもない。何としてもこの危機を乗り越えなければと剣を固く握りしめた瞬間、
狼たちが一斉に飛び掛かってきた。
私は剣を構え、身を守ろうとしたが、数の面では圧倒的に不利だ。
俊敏に動く狼たちは、私の剣の動きをあっさりと読み取り、見つけた隙をついて攻撃してきた。
必死に剣を振るいながら、狼たちの攻撃をかわし、火を使って牽制しつつ斬撃を加えた。一匹、また一匹と着実に狼たちを倒していく。
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レベルアップしました
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レベルアップしました
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視界の端でメッセージが何度も浮かび上がる。今はそんなものを見ている余裕もない。
次第に狼たちの攻撃は激しさを増し、私の体力は削られていった。
足を噛まれ、腕を爪で引き裂かれ、それでも尚、戦い続けた。
息が切れ、視界が眩む。体が満足に動かせなくなってきた。
「このままでは、まずい……!」
その時、一匹の狼に脇腹をタックルされ、体勢を崩された。
「ぐぅっ……!」
狼たちの群れが一斉に私に襲い掛かり、もはや万事休すかと思われたその時、私はニヤリと笑った。
全身に炎の魔法を纏い、発火させる。
名付けて「炎の壁」だ! これで近づけまい。
怯む狼と目が逢う。
心は少しだけ冷静さを取り戻していた。
次はどうする。
このまま逃げようとしたところで、この傷ついた足と衰えた体力では、狼の速さに到底勝てないことは悟っていた。逃げることは無意味だ。
「だったら……」
私は決意を固めた。
ここで全てを燃やすしかない――
周囲の木々を燃やし、それを壁として狼たちからの脱出路を作る。
最悪の場合、森全体が炎に包まれるかもしれない。しかし、生き残るためには他に選択肢がない。
立ち向かうのも、逃げるのも不可能な状況。だったら私に残された唯一の選択肢は、この場を焼き払うことだ。
片足を引きずりながら、開けた岩場から燃えやすそうな密林地帯へとじりじりと進んだ。
目指すは、炎を燃え広がらせることができる場所。
燃えそうな木の幹に手を伸ばした瞬間、私の体を包んでいた炎が突如として消え去った。
「うそ……なんで!」
絶望の声を上げると、その時ステータス画面が目の前に浮かび上がった。
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MP:0
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画面にはMPがゼロになっていることが示されていた。
体に纏わせていた魔力と炎の魔法を使い続けた結果、魔力が完全に枯渇してしまったのだ。
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