私勇者なんですけど
「・・・午後7時20分、・・・あなたを警察署へ連れて行きます。」
警察官は淡々とゆっくり喋っていた。他にも何か言っていたが、女の子の叫び声でよく聞き取れなかった。
警察官は、自分の腰に手をやり、持っていた手錠を取り出して女の子の手を取った。
ーーーガチャ
女の子は大きな声を出していたが、手錠をはめる音は妙に耳に残った。
「人が捕まるとこ初めて見た。」
それが私の感想だった。目の前で人が手錠をはめられるのを見たことがある人は少ないだろう。私も今日まで見たことなかった。
手錠をされた女の子がどんな子かは知らないが、警察官が手錠をかけるってことは、悪い子なんだろう。
女の子は抵抗こそしていなかったが、何やら大きな声を出している。何て言っているのかは聞き取れない。
怒っているっていうより驚いている様に見えた。女の子は両腕を広げて手錠を引っ張ったり、警察官に何か訴えている。
警察官は、大きな声を出す女の子に対して「まぁまぁ」とか「落ち着いて」とか言ってなだめようとしているが、女の子はずっと大きな声を出していて話は通じていなさそうだった。
「シャブ中か?」酒に酔っぱらっている様には見えない。どちらかというテレビドラマとかで覚醒剤をしている人が叫んでいる様に見えた。
女の子は10代半ばの高校生くらいの年に見える。明らかに20歳にはなっていないだろう。
「最近の若い子は怖いね。」
よく評論家とかいうヤツが若年層の凶悪化とか言ってるのを聞いても、適当に聞き流してたけどこういうことかって感じだ。
「この辺りも物騒になったもんだ。」
私は、ハハハと笑いながらタバコに火を付ける。
いつの間にか女の子がパトカーに乗ったようだ。もう叫んではいないみたいだ。
何人か来ていた警察官もそれぞれパトカーに乗り込んでいる。
「そういえば、動画撮っとけばよかったな。」私は、サイレンを鳴らして去っていくパトカーを目で追いながらそう呟いていた。
「にしても、今日日この町をあんなコスプレで出歩くやつなんているんだな。」