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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
御前試合と夜会編

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88/258

88,なんとかやり切りました

 ドゥル様は本当に温和で、武術には無縁に見える。辺境伯家が見せる武人面とは縁がない。

 そんな視線が私に向いた。


「ランサ様の御婚約者、リーレイ・ティウィル様ですね。初めまして。ドゥル・アグウィと申します」


「リーレイ・ティウィルと申します」


 互いに礼を交わす。


 アグウィ伯爵家は、辺境伯家と一線を画されているとはいえ御立派な伯爵家だ。

 両家の縁組は家同士の釣り合いもとれたものだけど、エデ様とドゥル様はまるで正反対に見えるから、どうしてだろうと思ってしまう。


「リーレイ様。エデは何か…失礼な事は言いませんでしたか?」


「いえ…。寧ろ、今後の為になる御教授をいただきました。私は何分このような場が初めてですので、エデ様のお言葉はありがたいです」


「そう言っていただけて良かった…」


 ホッとした様子のドゥル様からは、少し気の弱そうな印象を受けてしまう。けれどどうしてか笑みがこぼれる。

 ヒヤヒヤしてたのかな? 本当にエデ様とは正反対の御方だ。


「もう、ドゥル様」


「エデ。あまり御夫君に心労をかけるな」


「…不必要にはしませんもの」


「エデはランサ様が心配だったのですよ。兄君を慕っていますから」


「ドゥル様…!」


 エデ様が隣からさらりと告げられた言葉に反応してドゥル様を見た。ドゥル様は微笑みを浮かべていて、兄妹を微笑ましそうに見つめている。

 エデ様は少しドゥル様を睨みつつも、ランサを見た。ランサもエデ様を見て困ったように眉を下げる。


「心配するな、エデ。リーレイは俺の役目を支えようと、力になろうとしてくれている。俺も助けられているんだ」


「そうなのですね…。それなら良かったです」


「それに、お前の義姉になる人だ。何かあれば遠慮なく言うといい。リーレイはすぐにでも駆けて行くぞ?」


「ランっ…! ランサ様…それは勿論ですが、あまり笑って言わないでください…」


 もうっ…。

 ランサを見てもランサはその笑みを崩さない。


 私は羞恥を切り替えて、エデ様を見た。


「エデ様。私はランサ様の御力になりたい気持ちも、隣で堂々とありたい気持ちもあります。ですが、そうなれるには至らないところも多々あります。御教授頂けるとありがたいです。そして、私が何か御力になれる事があれば、いつでも仰ってください」


「…えぇ。お兄様の隣はしっかりした方にしか務まりませんから! 今後もビシビシと指摘させていただきますっ!」


「はい!」


 一瞬視線を動かしながらも、ツンッと突き放すような少々気の強い言葉が返って来る。今後も指摘いただけるのはありがたい。


 そしてすぐ「行きましょうドゥル様」と去って行った。そんなエデ様にもドゥル様は優しい目を向けていて、エデ様も少し頬を染めてお話をされていた。

 お二人は仲良いんだなぁ。


 その後も、ランサと共に沢山の方々にご挨拶をした。多くて多くて覚えきれないけれど、なんとかやり遂げる事ができた。


 こうして私の初めての社交界は、色んな出会いに彩られて終わりを告げた。

 …緊張した。終わって一安心。


 やり切った想いに安堵と疲労を感じつつ、屋敷へ戻った私はドレスを脱いですぐベッドに倒れ込んだ。






 翌朝。私は昨夜の疲労も抜けてすっきりと起きる事ができた。

 そして朝食後、ヴァンとガドゥン様が鬼ごっこをしているのを見つめていると、ランサがやって来た。「お嬢守って!」って悲鳴にランサは呆れの息をついている。


「必死だな…」


「うん…。ガドゥン様も私達が帰るまでに捕まえるって…」


「死の鬼ごっこは日数が経つほどに恐ろしいな…」


 どこからか「いやぁ!」って悲鳴が聞こえてくるけれど、私はランサを見た。

 ガドゥン様は多分、条件反射で逃げるヴァンを面白がって追いかけてるだけだから。心配するような事にはならないと思う。


「いつ発つの?」


「明日だ。今日はまだゆっくりしていてくれ」


「うん。他家から招待はなかったの?」


「…あったが、長居するつもりはないし。ツェシャ領から動ける範囲で行くつもりだ。そのつもりで昨夜挨拶は済ませてある」


 早い。流石ランサ。もう断りを入れてたなんて。

 社交ではそういう事も考えないといけないんだ。私も意識しよう。


 今回は目立っていたランサだけど、だからといって社交ばかりはしないだろうし、すぐにでもツェシャ領に戻りたい気持ちがあるんだと思う。

 国境を預かる身として、ランサは常にそこを一番に考えている。


 本来ならその代わりは私が担うものだけど、私はまだそこまでいけていない。まだランサに頼るばかり…。

 もっとしっかりしないと。私が一人社交で動き回れるくらいに。


「じゃあ私。父様とリラン、叔父様に御挨拶に行ってきてもいい?」


「あぁ。俺も行こう」


 当然のように私の手を取るランサ。嬉しくて。少しこそばゆい。

 ランサと手を繋ぎ、私はどこかで苦しんでいるヴァンに向かって声を上げた。


「ヴァンー! 父様の所に行くよー」


「ガドゥン様俺今から仕事なんで!」


「逃げる気か!」


 あ、ちゃんと聞こえたみたい。

 同じように遠くから聞こえてきた声にランサと一緒に笑い、私達は帰りの挨拶に向かう事にした。


 そしてその翌日。

 ガドゥン様とシルビ様。屋敷の皆様に見送られ、私達はツェシャ領に帰る事になった。






 初めてランサと一緒に馬を並べて長い距離を歩く。そして日数が経ち、見えて来た屋敷。出迎えてくれた皆。


「「おかえりなさいませ」」


「あぁ。ただいま」


「ただいま!」


 帰って来たと思える、クンツェ辺境伯邸。出迎えてくれた皆に自然と笑みがこぼれた。


 早速自室に戻って一息つく。

 シスやメイド達が荷を片付けるのを手伝ってくれて、皆と落ち着いた時間を過ごせる。ホッとする私にシスはクスリと笑みを浮かべた。


「慣れない場所でお疲れになったでしょう」


「うん。すごく緊張した」


 正直に言うと皆もクスクスと笑う。

 嘲りなんて一つもない、そうだろうという納得の笑みに、私も心が軽くなる。


「ガドゥン様とシルビ様もとても素敵な方だった。ガドゥン様はヴァンと鬼ごっこしてたけど」


「まぁ。ヴァンさんを引き入れようとなさっているというあれですね」


「うん。ヴァンがいつにない俊敏な動きでね。ランサも「あれくらい常にやる気は出ないのか…」って」


 思い出しても笑ってしまう。笑ってしまいながら言うとメイド達も笑った。

 いつも真面目なセルカもクスクスと喉を震わせている。


「それに、エデ様にもお会いしたよ。お元気だった」


「そうですか。エデ様は二年ほど前に御婚約されていたアグウィ伯爵子息様に嫁がれました。ランサ様は少し早くとも戦の前に送り出したかったようですが…。エデ様は頑として譲らず…」


「エデ様はいつ御婚約されたの?」


「十四の時です」


 …早いな。でも貴族ならそんなものなのかな。

 シスの言葉を聞きながら少し考える。


「エデ様は…私がしっかりした人なのかって見定めたかったみたい。ランサとエデ様は仲の良い兄妹なの?」


「はい。とても。エデ様は幼い頃からランサ様の後ろを付いて回り。ランサ様もそんなエデ様を見守っていらっしゃいました」


 ランサはそんな頃からお兄ちゃんだったんだ。幼い二人を想像して笑みが浮かぶ。


 道理でエデ様は私に眉を上げてご教授くださったわけだ。

 きっと、二年間会っていなかった兄に突然婚約者が出来て。それが社交の場では見たことがない人だったから、余計に不安だったんだろう。

 エデ様も、ランサの役目を大事に思って下さっている。


 夜会での言葉を思い出す私にミレイムが問う。


「リーレイ様。公爵家の御子息や他の貴族の方々にもお会いしたのですか?」


「うん。五家の皆様にも御挨拶したよ。御子息方とは少し話もして。シャル…シーラット辺境伯様にもお会いしたよ」


「そうなのですか? 私達はご存知ないのですけれど、どのような方ですか?」


「んー…。ランサが苦手にして顔を歪める人」


 パッと浮かんだ事を言うとミレイム達は首を傾げ、シスはクスクスと喉を震わせた。…シスは知っているみたい。

 夜会でのシャルドゥカ様の事を話すと、ミレイム達も次第に笑い声を上げた。






 それから数日。ランサは多忙なのか砦に泊まり込む日が続いて、偶に屋敷に戻って来ても執務室に居て、顔を合わせる時間が減った。


 偶に会うと「活力をくれ」ってなぜか抱き締められる。ランサの為になっているならいいんだけど。

 最近は、屋敷内でなら抱きしめられる事にも慣れてきた。ちょっとは進歩してると思う。よし。このまま頑張れ私。


 私も私の仕事をする。

 使用人達から上がって来る報告や相談を受け、判断を下す。屋敷内での諸々で動き回る。ランサに代わり留守を預かる。これまではディーゴが主にしてくれていた役割だけど、これは本来私の仕事だから。

 やっと、ちゃんと自分の役目を果たせる。まだまだ頑張れ私!


 やるべき事はやるけれど、時折窓の外を見て少し心配になる。


「ランサ…。仕事に追われてるのかな…? ちゃんと休んでるかな…」


「いやー。ランサ様の場合、仕事に追われてるっていうより、仕事を追ってるって感じじゃないです? 勝手に突っ走って行った仕事を怒涛で追い上げて追い越して斬り伏せる。みたいな」


「…ヴァン。ランサをそう思ってるの…?」


 なぜか自分の言葉にしきりに頷くヴァンに私も言葉を告げず、ディーゴやメイド達も笑っていた。






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