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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
御前試合と夜会編

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83/258

83,初めまして、公爵子息方

「ですがラグン様。お忙しいのでは? いいのですか?」


「あぁ。俺は繋ぎのようなものだ」


「繋ぎ…?」


 どういう意味かな?

 そう思っていると、ラグン様の目が変わった。さっきまでの家族内の目じゃなく、どこか宰相らしい毅然と鋭い目。


「やぁラグン殿」


 そう言って、声をかけてくれたのは一人の青年。傍に二人の青年を連れている。

 その人達を見て、私はそれが誰なのかすぐに解った。


 …叔父様が薦めてくれた縁談の中にあった。それに叔父様と父様からもお話を伺っていたから分かる。


「ゼア殿。ガル殿。ダルク殿。お揃いですね」


「うん。せっかくだから皆でリーレイ嬢と話をしてみたいと思って」


 そう言うと、その青年は私に笑みを向けた。質のいい服装がその立場を示している。


「こんばんはリーレイ嬢。そして初めまして。私はゼア・ユズルラット。人務長官をしているよ」


 五大公爵家の一家、ユズルラット公爵家の御子息。はちみつ色の髪を首の後ろで結び、同色の瞳は柔らかい印象を与える。

 きっちりとしている方が多い私の周りでは、あまりいない空気を持つ方だ。


 人務長官であるから、文官武官の人事に関する長である。

 父様が金番に決まった時は別の方だったけれど、今、父様を金番室室長に留めてくれているのはゼア様だ。


「俺はガル・モクだ! どうぞよろしく!」


 そう言うのは金色の髪が眩しい青年。五大公爵家の一家、モク公爵家の御子息。翠色の瞳が澄んでいて、明朗な印象を持つ。

 モク公爵家は、陛下の妹君が嫁がれていて、ガル様の母君がその方だ。


 モク公爵家は医学知識に長けていて、ガル様も医務長官をされている。母親の血筋から政治的に高位に居てもおかしくないのだけど、ガル様は医務長官として邁進することを望んでいるらしい。

 モク公爵家とティウィル公爵家は現在、共同で薬の研究をしている。


「お初にお目にかかります。リーレイ嬢。ダルク・セルケイと申します。以後、お見知りおきを」


 そう言って丁寧に礼をするのは、五大公爵家の一家、セルケイ公爵家の御子息。艶やかな黒髪の中にある青い瞳が凛とした印象を与える。整ったお顔立ちだけどその眉間には少々皺が…。だけどその端正な顔立ちを一切損なわせない。

 毅然として、品が感じられ、貴族として高位の教育を受けられたのだと一目で分かる。


 ダルク様は外務長官をされていて、外交に関する一切や国外からの賓客の接待などもされている。

 妹君のレイウィ様は、ローレン殿下の婚約者だ。


 挨拶下さった三人に、私もティウィル公爵家の者として。ランサの婚約者として。ご挨拶をする。


「お初にお目にかかります。リーレイ・ティウィルと申します。誉ある公爵家の御子息方にご挨拶いただけます事、誠に恐悦でございます」


「気にするな気にするな。国の為尽力する家同士。交流を深めるのは至極当然の事だ!」


 ガル様は気さくに手を振る。そんなご様子はその人柄を表しているようで、心も少し軽くなる。

 その傍でゼア様は私を見た。その口元には微笑みが浮かんでいる。


「初めての社交だけど…思いのほか、私達を前にも堂々とされているね。流石ラグン殿の従妹君で、ティウィル公爵家の方だ」


「ゼア殿、あまり褒めないでください。その辺りの令嬢のようにはいかないんです」


「おや」


 …なぜかラグン様は少し眉間に皺を寄せてしまった。

 私は特に変わらない礼をしたつもりだけど、何かおかしい事でもしたのかな…? そう思ってそっとラグン様を見るけれど、ダルク様が「違います」と否定をくださった。


 私は視線をダルク様に向ける。と、青い瞳が私を見ていた。


「こういう場は初めてと伺っていたのですが、堂々となさっておいでですので。感心していたのです」


「そう…でしょうか? 私はそんな風には…」


「できている。自信を持っていい!」


 ガル様も笑顔で頷いてくださった。公爵家の御子息方にそう言っていただけるのは確かに自信になる。

 少し嬉しくて、ホッとして。私は皆様に礼をした。


「ありがとうございます。そう言っていただけるのはきっと、ランサ様のおかげです」


「クンツェ辺境伯の?」


「はい。自信をもって堂々としていいと。緊張し通しの私を落ち着かせてくれたのは、ランサ様ですので」


 何度も何度も、ランサは私に「大丈夫」をくれた。安心をくれた。

 自慢だと、そう言ってくれた。


 それがどれだけ、私の心に力をくれたか――


「…で。自信をもって挑んだダンスがあれか?」


「すみませんあれでも一月練習したんですぅ。…ごめんなさい醜態を晒しました…。ラグン様にも以前の練習の時には大変申し訳ない事を…」


「気にするな。もう終わった事だ。それに…思ったよりはずっと上手く踊っていた」


「! そうですかっ…!?」


 ぐさりと刺さったラグン様のお言葉だったけど、次にはお褒めの言葉が降って来て思わずラグン様を見た。

 向けられるのは、少し優しい兄の眼差し。


「あぁ。クンツェ辺境伯のおかげで、それほど醜態と言う程でもない。足元もな。恐らくほとんど気付いていない」


「クンツェ辺境伯も顔色一つ変えていませんでしたしね」


 ダルク様にもバレていた。…さすが外交上接待に慣れている方の目は誤魔化せなかった。

 …ガル様は気付いていなかったようで「そうだったのか」って少し驚いている。「少しぎこちなかったけどね」とゼア様はクスクスと笑う。


 だけど、皆様にそう言っていただけるのは嬉しい。これからも少しずつ頑張ろう。


「先の不正の件もね。とても上手くできていたと思うよ」


「ありがとうございます。ですがあれは、父が見ていたという資料をお借りして作ったもので…。父のおかげです」


「だが、資料から必要なものを抜き出し、それをまとめたのは貴女と妹君だ。あのビンツェの生育記録は実に分かり易く記してあったな! 薬草本でも記し方は様々あるが、遜色ないものだった!」


「ありがとうございます」


 ガル様がそう言ってくださるのは嬉しい。あれはリランが書いてくれたものだから。

 そう思って嬉しくなっていると「あれはリランだろう」って、ラグン様にはすぐに見破られた。…さすが兄ですね。


「ガル様にお会いした時には、感謝を伝えたいと思っていました」


「? 俺に?」


「はい。妹のリランは冬によく風邪を引くのですが、その度にモク公爵家考案の薬のお世話になっています。市民にも手の届く物を、というモク公爵家の方針には暮らす人々皆が感謝しております。本当に、ありがとうございます」


「…!」


 私は子供の頃、冬が好きじゃなかった。体は冷えるし。手は冷えるし。リランは風邪を引きやすくなって。

 だけど、リランの風邪はいつも、薬を飲んですぐに良くなる。薬を飲んで悪化する事はまずなかった。


 成長した私は、いつもリランがお世話になる薬が、モク公爵家の領地で栽培され、作られる薬だと知った。しかも比較的誰でも手に入る金額で。

 今になって解る。採算よりも、民の命を取る、その意志の強さと医学薬学知識を持つ故の、まっすぐなその使い方。その難しさも。


 感謝を込めて頭を下げると、ガル様からの返事はすぐには返ってこなかった。改めて顔を上げて見ると、ガル様はその翠の瞳を丸めて驚いている様子だった。


「ガル殿」


「…あ、あぁ! すまない。こうもまっすぐな感謝を貰った事がなくて少し驚いた! こちらこそありがとう、リーレイ嬢。おかげで俺はこれからもこの務めを果たしていける!」


「はい。ガル様にしかできない事だと思います」


 ガル様の笑顔が眩しい。だけどその笑顔を見ていると、なんだか私まで笑顔になる。不思議だ。


「あ。ダルク様。セルケイ公爵家の領地は、ツェシャ領の南の海沿いですよね」


「えぇ。そうです」


「では、カランサ国との…何か詳しい国内の情報はご存知ないでしょうか? ランサ様はカランサ国は国内平定に動いていると仰っていたのですが…。このような場でする話ではないと思いますが。申し訳ありません」


「いえ。私もクンツェ辺境伯と少しその辺りの話をしたかったのですが…。そうですね。私もそのように聞いています。…お知りになりたいのですか?」


「はい。やはり私も…ランサ様の婚約者として、現状は頭に入れておきたいのです。ランサ様のお役目の力になるには、まずそこがないと何も出来ませんので」


「そうですか…」


 ダルク様は外務長官。後でランサと話をするなら、私も混ぜてもらおうかな。

 もっと色々知りたいし。よし。そうしよう。


「ラグン殿。彼女、面白い人だね」


「…ゼア殿。あまり面白がると、どこかの叔父に睨まれますよ」


「怖い怖い。だけどほら。あんなにまっすぐで、しかも辺境伯の役目の隣に立とうなんて人、私は見たことも聞いた事もないから」


「俺もだ! 元が貴族社会の育ちではないからかもしれないが、気持ちの良い女性だな」


「…褒めないでください。ただでさえ奔放なんです」


「それはまた…。クンツェ辺境伯殿も大変みたいだ」


 私がダルク様と少し話をしていると、なぜかラグン様とゼア様、ガル様はコソコソと揃って話をしていた。

 …仕事の話かな? 聞いちゃいけない話かもしれない。聞かないでおこう。


「リーレイ嬢」


「はい。何でしょう、ゼア様」


「クンツェ辺境伯殿とは、上手くやっていけてる?」


 ゼア様が微笑みを浮かべてそう問う。その問いに私は皆様の視線を感じた。

 答えは決まっている。だって自然と笑みが浮かんで。少し気恥ずかしくなる。


「はいっ…!」


 ランサに出会えた事は間違いなく、私の幸せになっているのだから――






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