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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
王都編

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62/258

62,やっと終わって一安心…

 やっと静かになった会議室は、心なしか先程までよりも柔らかな空気に包まれていた。いや。全員が肩の力が抜けたのかもしれない。


 俺もやっと、リーレイの顔が安心に染まると思うと安堵を抱く。早く戻って報告したいのだが、もう少し先になりそうだ。


 鎮まった場で陛下が刑部長官を見た。


「刑部長官。ディルクを解放せよ」


「承知しました。…もしや。この事態を予測して、少々留め置けと?」


 刑部長官が陛下を見るが。陛下は肩を竦めるばかり。その傍ではローレン殿下が冷ややかな空気を一転、人の良い空気を纏って俺を見ていた。

 目が合うと笑みを浮かべられる。…失礼ないよう目礼を返し視線を下げておく。不満そうな気配を感じた気がしたが気のせいだろう。


「にしても…」


 クスクスと笑うゼア様が、扉へ向けていた視線を彼らが座っていた席へ向けた。


「全く気が付かなかったね。クンツェ辺境伯殿が教えてあげるような事言ったのに」


「彼らが口を開けば開くほど、ラグン宰相の顔が恐くなっていたのにな!」


 …吹き出すところだった。不敬だ。


 医務長官。モク公爵家御子息ガル様の言葉に、ガルポ騎士団長とローレン殿下が俺とは違い吹き出している。

 変わってラグン宰相の眉間には皺が寄った。「…失礼いたしました」と少々反省にしては重々しい声が一同の耳に入る。


 笑う者もいる中、そっと手を上げたのは財務長官。


「あの。よろしいでしょうか?」


「む? 何だ。財務長官」


「この資料。ディルク殿のご息女が作ったと殿下は仰いましたが、そのような者が城に?」


 あぁそうか。財務長官は確か侯爵家の方で、恐らくディルク殿の身元を知らないんだな。


 納得を浮かべる面々もいる中、人務長官であるゼア様はふるふると首を横に振った。


「いないよ」


「では…どのようにこれは…?」


「説明してやれ。宰相」


 陛下の促しに、ラグン宰相が立ち上がった。代わりに財務長官は腰を下ろし宰相を見る。

 ラグン宰相は知らない者達を見ると、資料を掲げた。


「ディルク殿は元より、ある程度の証拠を集めておられました。ナーレンにも注意したようですが、聞き入れられず…。これらを不正に繋げる前にナーレン殺害容疑で拘束されたようです。そして娘達がビンツェの生育と気象条件、昆虫録などから今回の不正の手段に勘づき、さらに補助金や税に関する資料を集め、証拠と為したのです」


「ですが…補助金や税に関してなどそう簡単に…」


「私が陛下の許可を受け、渡しました」


 知らぬ者の間に動揺が走った。だが、ラグン宰相は一切動じた風なく続ける。


「最も陛下に近い人物を教えてください直談判に行きますと…。流石に止めましたが」


「さ、宰相閣下を使うなど…」


 唖然としているな。それもそうだろう。

 国家では王に次ぐ地位にある宰相を使うなど、それこそ王でない者がするには何とも大胆不敵だ。


 リーレイは何より、周囲に恵まれている。

 だがリーレイはそれをきちんと理解し、阿ることなく、媚びる事無く、己で動く。周りに感謝し、己の力を考える。


 そういう彼女だから、俺はとても好ましく思う。


 唖然とする者もいる中、「ふむ…」とやはり財務長官が考えていた顔を上げた。


「資料から不正を発見し、まとめあげたその娘も凄いが…これだけの証拠を集めたという事は、ディルク殿は最初から不正を疑っていたという事でしょう。ゼア人務長官。そのような逸材をなぜ金番室長に? これほどの能力ならばもっと中央で…」


「本人が望まないんだよ。僕だって惜しいって思うんだよ?」


「では説得を…」


「受け入れないと思うよ。彼、無駄な争いしたくないだろうから」


 納得いかないという表情をしている財務長官は、「陛下」と声と視線を向けた。が、陛下もゼア様と同じ表情だ。


「本人が望み今の役職に就いている。望まぬ場に就けても意味は無かろう」


「…それは確かに」


 渋々と言うように財務長官も引き下がった。

 ディルク殿は復帰した後が少々大変かもしれないな…。だがそれは当人がなんとかなさるだろう。


 だが。今度の夜会から少し変わるかもしれない。

 リーレイが俺と共に出ると、実父にも目が向くだろう。ディルク殿やリラン嬢の参加の是非はまだ知らないが、なさるなら騒ぎになるだろうな。…後々の文官達の悲鳴が聞こえるようだ。


 クスクスと笑っていた殿下が俺を見た。


「ランサ。到着して早々、色々と動き回ってくれた事感謝する」


「当然の務めでございます」


「数日は少々忙しくて時間が取れないが、また来てくれ。久方に話したい」


「御意に」


 殿下は俺を友だと言って下さる。それは嬉しく光栄な事だ。

 幼い頃に会い、それから何も変わらず俺に接する。公的な友人であり私的な護衛官である『とも』とは違い、私的な友として。親しい友として。


 …幼い頃から少々振り回されているが、決して嫌いだと思わせない、不思議な方だ。


 少しの友との会話に、陛下も頬を緩めていた。


「礼を言うランサ。下がってよい」


「失礼致します」


 俺は深く頭を下げ、陛下と殿下の御前を後にした。






 ♦*♦*




 ランサが王城に向かってしばらく経つ。

 …どうしても落ち着かない。ツェシャ領でなら落ち着くために剣術鍛錬や遠乗りでもできたけど、さすがに王都のティウィル公爵邸でそれはできない。

 今の私には、とりあえず部屋中を動き回っているしかできない。


「お姉様。ひとます座られてはどうですか?」


「そうですよ。茶でもほら」


「後はランサ様に任せましょ」


「すぐお戻りになられますよ」


 …どうして皆そんなに落ち着いてるの?


 揃ってソファに座って、ヴァンとバールートさんは「ふぅ」ってのんびりお茶を飲んでる。ソルニャンさんが私に着席を促してくれたから、ひとまず座る。

 リランがお茶をくれるけど、やっぱりどうしても落ち着かない。


 ランサが到着した夜。そして昨日。あらゆる事を考え、皆で話した。


 ビンツェの不作が口実である事、その利益の横領を働いている可能性に気付いたのはリランだった。私はリランの言葉ですぐに国家補助金が頭をよぎってランサに可能性を問うた。

 ランサは「ありえる」と頷いてくれた。だから私は昨日の朝、王城へ向かうラグン様に国家補助金や税に関する資料を見せてもらえないか聞いた。


『陛下の許可が下りれば構わない。にしても…それをティウィル公爵子息(おれ)に頼むか?』


『これは最も陛下のお傍に近い宰相に頼むのが一番速いので! 他にこの御方がいいという方がいるなら教えてください。今から頼みに行きます!』


『…分かった。俺が聞いてくるから大人しく待っていろ。資料を整理して待っていろ』


『はい!』


 ティウィル公爵家の力もクンツェ辺境伯家の力も使わない私に、出来ることは限られている。城の事は城にいる人に頼るしかない。

 けれど、一衛兵のヴァンには出来る事が少ない。ランサは動くと怪しまれかねない。


 だからこそ、ラグン様にお願いした。

 それに、きちんと陛下の許可を得ているから問題ない。ラグン様もティウィル公爵家で集めた中からではなく、きちんと陛下を通してくれた。

 …多分、陛下は私が動いている事は把握している。でなきゃ、いくらラグン様を通してとはいえその日の内で許可なんて下りない。


 城内でならガドゥン様を頼る手段もあったけれど、指導役が補助金や税に関しての資料なんて求めたらおかしく思われる。違和感のない人選が良かった。


 私は本当に、周りに恵まれている。


 ラグン様がお帰りになるまで皆で資料をまとめ、ラグン様が許可と一緒に下さった資料と睨めっこして、皆で纏め上げた。

 それを今日、ラグン様が持って行った。


『よくやったな。リーレイ。リラン。これがあれば十分だ』


 資料を見るとそう言って、ラグン様は私とリランを労って下さった。…安心して膝が震えそうだった。


 ラグン様はランサと共に城へ向かい、それから私は落ち着かない時間を過ごしている。


「皆様。クンツェ辺境伯様がお戻りになられました」


 グナーがくれた言葉に、私はすぐに立ち上がって部屋を出た。

 走るとメイド長のお叱りが飛んで来るから、はしたなくないように、だけど急いで。


 エントランスにはランサの姿があって。私はすぐに駆け寄った。


「ランサ!」


「リーレイ!」


 ランサの目が私を見て優しく明るくなる。その笑みは、ティウィル公爵家の屋敷だってこともあって気恥ずかしい。


 だけどランサにはそんな事は関係ないみたい。数歩歩み寄って来ると軽く両腕を広げる。

 だから私も…


「どうなったの!?」


 すぐに駆け寄って詰め寄った。






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