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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
王都編

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49,情報収集始めます

 ガドゥン様は騎士団の隊服でもなく、ただ動きやすいラフな格好だった。てっきり隊服着てるかなって思ってたけど、まぁ所属じゃないからそうかとも思った。


 そんな事を頭の片隅で思いながら、俺はすぐに思考を戻す。

 早く帰りたいから話を進めてくれって、ヴァンさんの視線が訴えてくる。はい。了解です。


「ガドゥン様。実はですね…えーっと…どっから話せばいいですか?」


 思わずヴァンさんを見るけど、なんでかずてんっとスッ転げた。

 ありゃ? 大丈夫です?


 だってほら。最初って迷うじゃないですか。

 いきなりリーレイ様のお父様の事でいいんですか? それとも俺がリーレイ様の護衛として来てるって説明? ランサ様とリーレイ様が婚約してること?

 ほらー迷う事ばっかり。


 何から言おうかなって迷ってると、ガドゥン様の方が早かった。


「ティウィルの令嬢の親父さんの事か?」


「それです! そっからで大丈夫ですか?」


「おぅ。お前らがわざわざ城内に来たなら、その辺りだろうって想像はつく」


 おぉ流石。

 俺の隣でヴァンさんも表情を戻してガドゥン様を見る。


 ガドゥン様は俺らの視線を受けると、周りに誰も居ない事を一瞥して確認した。ここは演習場の傍だけど、すぐ周りに騎士はいない。全員演習場の中央で鍛錬をしてる。


 騎士達の鍛錬する声や騒音が耳に入ってくるけど、邪魔にならないそれらを聞き流しながら、俺らは話をする。


「俺らはその件で、ガドゥン様が何かご存知ないかって伺うために来ました」


「発案はお嬢です。本人から言伝預かりました。「本来ならば自分が屋敷に伺い、御挨拶しなければならないところ申し訳ありません。父の事で何かご存知であれば教えて頂きたいのです。重ね重ねの御無礼、日を改めて謝罪に伺いますのでどうかご容赦いただきたく」との事です」


「構わんし気にもせんと伝えてくれ。今回は事情が事情だ。細かい事言わねぇよ」


 ガドゥン様がひらりと手を振る。…こういうところは知ってる一面だ。細かい事嫌いだから、ガドゥン様って。

 あ、思い出した。


「それと、ランサ様から手紙預かったリーレイ様から、その手紙預かって来ました」


「ランサだ?」


 俺はマントの中の上着から手紙を出してガドゥン様に渡した。

 屋敷を出る時にリーレイ様から預かったんだった。元々渡さなくていいんだとかって言ってたけど、事情が事情だからってリーレイ様から預かった。

 …リーレイ様は「私が城に入れればいいのに…」って言ってた。ランサ様の剣使えば入れるのに、リーレイ様はそれはしないらしい。


 ガドゥン様は俺から手紙を取って、すぐに中を見た。


「相も変わらず、業務連絡みてぇな内容だな。ティウィルの令嬢を頼むってか。はいはい」


 …なんかため息吐かせてますよランサ様。いんですか?


 ガドゥン様は手紙を戻すと少しだけ表情を険しくさせた。


「ローレン殿下から、ランサの婚約者相手にティウィルの令嬢を薦められてな。俺は別に断る理由もなかったから構わんと言った。ランサの問題だ。本人に決めさせるつもりでいた。それから向こうの親父さん、ディルク殿に会った」


「面識あったんですね」


「当たり前だ。穏やかで誠実な人だった。…だから、今回の事、俺はどうにも納得がいかん」


「…ガドゥン様、どっからこの件情報得たんです?」


 ヴァンさんの慎重そうな声が向けられた。ガドゥン様はちらりと視線を向けて少しだけ声を潜めた。


「騎士団長だ」


「…成程。やっぱ五大公爵家はとっくに把握済みか」


「というと?」


「騎士団長は五家の一家、アーグン家の御令息だ」


 へぇ、そうだったんだ。

 俺そういうの把握してないから全然分からない。ツェシャ領にいると王都になんて来ないし。平民だから貴族社会も王族とも関係ないし。政治の場なんてもっと縁ないし。


 …って言うと、ソルニャンさんに「知っておいて損はない。ランサ様に恥かかせるなよ」って言われた。

 だからちょっとだけ頑張ります。頭は良くないんで、主要だけ…。


 いくら俺でも五大公爵家の家名くらいは知ってる。五大公爵家の人達は政治の主要な立場にいるって聞いた事はある。それぞれ能力ある人だっていうのはランサ様も言ってたし。

 その一家が騎士団長か。成程。


「ラグン様ってどういう立場の方なんです?」


「宰相ですよ。まだ一年も経ってないけど」


「想像より大物だった…」


 そうだったのか。名前しか伺ってないけど、俺、実はとんでもない人と話してたんだな。

 リーレイ様がいないと一生言葉を交わすことなんてない相手だ。すごい経験をしてしまった…。というかそうだよな。陛下の許可繋いでくれたんだし、陛下に近い人だよな…。


「えーっと、リーレイ様の父君って…」


「ローレン殿下の金番室の室長です」


 リーレイ様とティウィル公爵の話じゃ王宮の片隅での仕事って聞いたけど、そういう仕事だったのか。


「王族の金番は王宮の片隅が仕事場だ。今回の被害者である財務文官とは、一見すれば関わりがあるように思うが、実際は顔を合わせる事もないだろう」


 ガドゥン様が言うには、王族の金番は王族それぞれにあてがわれる費用を預かる部署らしい。王族って案外お金を好きには使えないらしくて、衣裳も主催する会とかもそれぞれ費用が決まってるらしい。初めて知った。

 王族専任だから、国の財政に関わらずひっそり仕事してるらしい。


 成程。それなら確かにこの広い城で面識があるかは怪しい…。

 でも確か、言い争ってたとかなんとかって情報があった。


「旦那様。何か察してた節があるんですが、ガドゥン様は何か知りません?」


「さぁな。俺の方が財務とも金番とも関わりねぇからな。同じ金番人の方が知ってる可能性がある。……ただ」


「「ただ?」」


 少しだけ視線を下げ眉間に皺を寄せるガドゥン様に、俺とヴァンさんは首を傾げた。

 ガドゥン様は俺らを見ると、それまでよりも声音を固く、そして鋭く告げた。


「…何か察してはいたと思うぜ。例の日の昼間、「少し迷惑をかけるかもしれない」と言われたからな」


「……もしかして、事態を予測してた…とか?」


「そこまでは分からん。だが、ディルク殿も離れているとはいえティウィル公爵家の方だからな」


 俺はちらりと隣を見た。

 ヴァンさんは何か真剣な目で考え事をしてる。口許に手を当てていつにない真剣な様子に、俺も言葉は向けない。


 ティウィル公爵家は身内に手を出した者に容赦ない、とは聞いてる。

 だけどその割に、ティウィル公爵はかなり落ち着いていた。今日にでも終わらせられるって言ってたって事は、ディルク様無実の証拠はすでに集めてるってことだ。


 リーレイ様が便りを受けて王都に来て、およそ一か月。それだけの時間があれば余裕…だとすれば、かなりの動きだな。ここ一応王都だし。

 それができるティウィル公爵家。その家の生まれであるディルク様。


 うーん…読んでたのか…。俺はディルク様知らないから、ここはヴァンさんに聞く方が分かるかも。


 考え込むような空気が流れる中、ガドゥン様が俺を見た。


「おい、バールート」


「はい」


「で。ランサはどうした。手紙だけ出して、ティウィルの令嬢を放り出したのか」


 キッと苛立ちと厳しさを感じさせるような鋭い視線に、俺は慌てて首を横に振った。


 危ない危ない。ランサ様来てから親子喧嘩になる。それ絶対俺とかソルニャンさんがガドゥン様の手合わせ相手になるより壮絶で悲惨な光景になる。断固阻止!


 ガドゥン様は辺境騎士団なら誰でも知ってるくらい愛妻家だ。辺境騎士団っていうより、正確に言うと国中で知られてる。

 だから、ランサ様が婚約者を無下にでも扱えば…多分かなり怒る。

 いや別にランサ様は人に対してそんな酷い事する人じゃないし。多分、リーレイ様と上手くいかなかったとしても、適度な距離は保って接してたと思う。…今の距離には何も言わないです、はい。


「本当なら、お二人仲睦まじく王都入りしてガドゥン様達の元に行く予定だったんですよ? ただ、リーレイ様の妹君から今回の事で手紙が来て。それでリーレイ様が「先に行く」って先発して、俺とヴァンさんと三人で馬駆って来ました。ランサ様は元々詰めてた仕事をさらに詰めて、後に出立したはずです」


「ほぉ…」


「後、ランサ様も御自分の剣をリーレイ様に渡して、自衛と力にしてます。ちゃーんとリーレイ様守る事色々考えてます」


「ちょっと待て。ランサの奴、あの剣渡したのか? クンツェ辺境伯家(うち)の?」


「はい。あ、大丈夫ですよ。リーレイ様、ヴァンさんに鍛えられて俺らとも打ち合う腕の持ち主なんで」


「はぁ!?」


 …ガドゥン様驚きすぎです。声デカい。ほら。鍛錬してる騎士が何事ってこっち見てるじゃないですか。

 ヴァンさんは「あ、お気になさらず」ってへこへこ頭下げてる。俺もちらっと下げといた。


 あらら…って思ってると、今度はハハハッて大口開けたガドゥン様の笑い声が響き渡る。

 …今度はあからさまに騎士達が困惑してる。ここからでもよく分かる。コソコソなんか言ってるけどガドゥン様、いいんです?


「笑われちゃいましたね」


「ですね。…旦那様、そこ言ってなかったのか」


「みたいですね」


 ひとしきり笑ったガドゥン様は大きく解放的な息を吐いた。

 腰に手を当ててニッと口端を上げた。…なんかちょっと楽しそう。


「面白い御令嬢だな。平民育ちとは聞いていたが、なかなか…。早く会ってみてぇもんだ」


「あんまり興味津々にしてると、ランサ様に睨まれますよ? ランサ様、俺らも見た事ないくらいリーレイ様に執着…ご執心なんで」


「今言い換えた?」


 いや気のせいです。


 リーレイ様と一緒のランサ様見てると、思っちゃうじゃないですか。

 俺らはランサ様の事尊敬してますし、一生ついていきますよ? ただほら。こういう一面があったんだなぁって思うんです。


 最近の辺境騎士団は、『将軍』なランサ様の下で当然。そんでリーレイ様が好きすぎるってランサ様も、特に妻帯者から微笑ましく思われたり、独身者からは羨ましがられたり…とにかく一層一致団結してるんです。

 俺はやっぱり、ランサ様別人説がよぎるんですけど。解ってますよ? 同一人物だって。別人だと困るし。ただ…うん。あまりに愛情直球すぎて。


「ほぉ。面白い話だな。バールート、もうちょっと喋れ」


「えー…うーん…? 愛情表現直球とか、好きすぎるって目で見てるとか…」


 ニヤニヤってガドゥン様もかなり楽しそう。

 これ話してもまぁランサ様は怒ったりしないだろうけど。つらつら思ってる俺の隣から、用件が終わったと言いたげな念のこもった空気が刺さってくる。


「バールートさん帰りましょう。騎士団長来る前に早く」


「…やっぱり?」


「会議中だ。まだ来ねぇよ」


 そう言うと、ガドゥン様は鍛錬してる騎士達を見て声を張り上げた。

 …その手で逃げようとするヴァンさんをしっかり捕まえて。


「お前ら! 今からコイツが手合わせ相手だ! 打ち合ってみろ」


「はぁ!?」


 ヴァンさん、時間稼ぎに使われるみたい。

 あらら…って、俺は引き摺られて行くヴァンさんを見て、ちょっと同情しながら後を追った。






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