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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
接近編

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32/258

32,令嬢、関所問題解決に挑みます

「ロンザ。リーレイを困らせるな」


「こりゃ失礼」


 肩を竦めるランサにもロンザさんは一度だけ笑みをこぼした。そんな二人をちらりと見る。

 ロンザさんはあくまで気軽に気さくに接する方みたいで、それはランサにも変わらないみたい。


「先に説明した通りだ。リーレイに代わってくれ」


「了解です」


 だけど、しかとランサの言葉に従う様子は、やっぱり将軍に従う騎士の一人だ。

 国境警備隊隊長は国境警備隊をまとめる立場にある方。ロンザさんのランサに対する姿勢は、他の国境警備隊の騎士にも手本になり、隊全体の士気にも影響するだろう。

 ……気さくなのは性格なのかな? それとも何か理由が?


 そんな事を考えてしまったけど、ロンザさんも壁際に控えた事で、私は目の前の別の光景に思考が現実に戻された。


 目の前の椅子、ロンザさんが座っていた正面に、子供が二人座っていた。

 見るからに貧しそうな身なり。日に焼けた肌。一人は十歳にもならないだろう年頃の男の子で、もう一人はもっと幼い女の子。

 机には何かが入ってる小さな袋が置かれている。


 でも、どうして関所に子供が…?

 それにどうして私がここに呼ばれたの?


 困惑する私に、ランサはそっと教えてくれた。


「リーレイ。あの子達はすでに三度、今回で四度目になるが、関所を通してくれと来ている。だが、俺達は通す事ができない」


「うん…」


「さすがにこのままにはしておけないが、現状で手は打てない。このままが続くなら俺達も手を打たねばならなくなってくる。その前に…」


 皆の視線を感じる。ランサが言いたい事が何となく分かった。


 ランサの目が、じっと私を見つめる。


「リーレイならどういう手を打つか、その意見を聞きたい」


 ぎゅっと胸元で拳をつくった。


 座っている年長の子は私達を睨んでいる。その目を見つめてからランサを、それから控えるロンザさん達を見た。


「皆さんもよろしいんですか?」


「はい」


「確かにリーレイ様なら、俺らとは別の側面から意見を頂けそうですから」


 バールートさんもロンザさんも頷いてくれる。それを受けてもう一度ランサを見た。


 どうして私にと、思う事はある。少しだけ緊張もする。

 だけど、ランサが望むなら応えたい。私の意見が何か少しでも手助けになるなら。私の意見をどう考え判断を下すかは、ランサ自身だけれど。


「分かった。ランサ。あの子達から話を聞いても良い?」


「あぁ」


 どうしてか少しだけ口端を上げたランサが、そっと私の背を押してくれる。それはとても心強い。


 ヴァンも傍に立って、私は子供達の前に座った。睨むような視線をじっと受ける。

 後ろにいるランサ達の視線も緊張と安心をくれて、心は不思議と落ち着いていた。


 室内はとても静かになって、些細な音も耳に届きそう。


「こんにちは。私はリーレイ。君達の名前を聞いても良いかな?」


「…タルキル。こっちは妹のスルル」


 少し不機嫌そうな声だけどちゃんと返ってきた。

 それに少しだけホッとする。会話も拒絶されてしまうと話もできなくなるけど、この子達とはまだ話をすることが出来る。


 二人は兄妹みたい。揃って少し疲れているみたいだけど、その目はしっかりとした光を持っている。


「二人はカランサ国から来たの?」


「そうだよ」


「何かシャグリット国に用事?」


「商売」


 …商売?


 思わぬ答えに驚いたのはヴァンも同じだったみたいで、隣から「ん?」って思わず零れた音が届いた。だけどそれには答えずに私は二人を見る。


 二人は商人…には見えないし、子供だけの商隊はまずない。責任者である大人がいるはず。

 だけどランサ達が止めたのは二人だけ。


「…商売の為に来るには通行手形がいるけど、それは持ってる?」


 ……答えは返ってこない。それが答えみたい。

 それなら当然、ランサ達も関所を通す事は出来ない。


 タルキルは少し不機嫌そうな表情を浮かべてしまった。兄のそんな表情を見たスルルが不安そうに顔を歪める。


「関所を通りたい理由を教えてくれる?」


「教えたら通してくれるの?」


「分からない。…ここの人達は理由なく止めたりしないから」


「じゃあアンタもそいつらと一緒だ!」


 バンッと机を叩いた大きな音が室に響いた。吐き出された大きな声にはスルルがビクリと肩を跳ねさせ、その目に涙を浮かばせた。

 涙目の妹に袖を引かれ、タルキルはすぐに謝るようにスルルの頭に手を置いた。


「ごめんスルル。びっくりさせたな」


「ふぇっ…」


 ぽろりと涙が頬をこぼれる。

 スルルの手が目許を擦るのを見て、私はすぐにハンカチを取り出してスルルの傍に膝を折った。

 そっと目許にハンカチを当てる。


「擦っちゃ駄目よ。そっと拭こうね」


 そっとそっと拭っていけばスルルの涙も止まる。良かった。


 小さい時、私はよくこうしてリランの涙を拭った。リランが一番泣いていたのは母様が亡くなった頃で、そんなリランを見てると私まで泣いちゃいけないって思えて。

 あの頃は、いつも穏やかな父様も流石に沈んでいたから。私まで泣くと家がもっと暗くなるから。せめて私は笑っていないとと思って…。


 泣き止んだスルルを見て少し昔を思い出していると、タルキルがぷいっと視線を逸らした。


「タルキルはどうしてスルルを連れて来たの? 長かったでしょう?」


「…スルルが……一緒に行くって……聞かないから…」


 なんだ。タルキルは優しいお兄ちゃんなんだ。

 長い道のりを大変だと分かっていて。でも妹の頼みに否は言えなくて。絶対に連れて行かないという選択もできたはずなのに。


 スルルの頭を撫でてあげると、ニコリと笑みを浮かべる。嬉しそうな無邪気な笑みは私も笑顔にさせてくれる。


「分かる分かる。コイツ絶対引かねぇなって分かるから仕方なくってやつ。分かるわうん」


「どうしてヴァンまで頷くのかな?」


 私の後ろで腕を組んで深々と頷いてるヴァン。

 誰かにそんな目に遭わされた経験でもあるのかな?


「…兄ちゃんも妹いんの?」


「いや。妹っつーか、走り回って馬乗りこなして人を無理やり振り回すっていう主が…」


「ヴァンその口閉じようか」


 一体いつ誰がそんな事したのかな? 君嫌な時は是が非でも動こうとしない人でしょう。

 王都に居た時にそんな覚えないし、ツェシャ辺境領に来てからもそんな覚えないけどっ!


 思わずムッとしてヴァンを睨むけど「何か間違ってます?」ってケラケラ笑う。そんなヴァンと同じように、室内にコロコロと笑うスルルの楽しそうな声が響いた。

 その笑顔を見て肩を竦めた。仕方ない。今はヴァンも許してあげよう。


 スルルの頭を撫でて、私は改めてタルキルへ視線を向けた。


「タルキル。訳を教えてくれないかな?」


 タルキルの目にはさっきまでの睨む鋭さはない。一度スルルを見て、そしてまた私を見た。

 キュッと眉を寄せていたけど、その力が不意に弱まった。


「…金が欲しいんだ。金がないと…薬も医者も頼めないから」


「病人がいるの?」


「病気じゃないけど…母ちゃん。疲れてて、しんどそうで…ちょっと熱もあるみたいだし…。……ウチは貧しいから、薬も買えないし、医者も呼べない…」


 成程。それで商売をしたいって国境を越えて来たんだね。

 事情は分かった。


「だけど、そのお金はどうやって得るつもりなの?」


 まさか盗みを働くわけじゃないでしょう?

 疑問を持つ私に、タルキルは机の上に置いてあった袋を指差した。


 私もそれを見て立ち上がる。タルキルは机の上に袋の中身を出してくれた。バラバラと音をたてて袋の中身が出て来る。

 それを私とヴァンは揃って見つめた。


 中から出てきたのは、大きさも色もバラバラの石だった。

 緑や青、黄色、それに真っ黒な石まで色々ある。澄んだ綺麗な物から少しくすんでいる物まで。


「これは…?」


「これを売ろうと思った。ウチからちょっと行った山で採れるから」


「価値があるの?」


「分かんない」


 その即答振りに、私とヴァンは「なんじゃそりゃ」ってずっこけた。






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