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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
番外編

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過去話 護衛官の今につながるもの その1

 ♢*♢*




 ティウィル公爵家当主、ジークン様に拾われ、当主の兄家族のために色々と教え込まれ、そしてその兄家族の元へ行き家人となってかれこれ十年以上。

 きっとこれからもあの家でのんびり過ごして。お嬢やリラン様が嫁に行けば、旦那様とのんびり過ごすことになるか、お嬢の元へ一緒に行くか。考えてもどうせお嬢の事だしもっと先になるかなー……とか思っていたのに、未来は分からないらしい。


 ローレン王太子殿下が、お嬢の元へクンツェ辺境伯との婚約話を持って来て一週間程が経過した。

 お嬢はその話を受け、王都にあるティウィル公爵邸で令嬢教育を受けることになった。ツェシャ領への出発日も決まって心なしかちょっと緊張してるようにも見える。


 お嬢はお嬢で頑張ってる。

 んで、俺は俺でする事をしていた。


「――父上は何か言っていたか?」


 王都にあるティウィル公爵邸。

 泊まり込みで令嬢養育を受けてるお嬢だけど、今日は一旦家へ帰ることになっている。俺はその迎えの為に来たんだけど、ラグン様に呼ばれて執務室にいる。

 俺は、御当主に、お嬢と共に行く許可を求めた手紙を出していた。ラグン様はその手紙の返事を預かってくれていた。それを受け取り読んだ……んだけども。


 俺を見る視線を感じつつも言葉が出ないでいると、ラグン様はフッと笑った。


「ヴァン。顔が歪んでいる。行かなければ鍛え直しだとでも書いてあったか?」


「……その方がまだマシです」


 手紙をじっと見ていると、ラグン様は仕事の手を止めて俺の隣へ座り直した。ソファが二人分の重さを受け沈むが、適度な弾力がしかと受け止めるのは良品な証拠。

 そんな品に生まれた頃から囲まれているラグン様に、俺は御当主からの手紙を見せた。


「……これの、どこがそれほど顔を歪める内容なんだ? お前の選択を否定しない、という事だろう」


「いや。なんか見えるじゃないですか。こう……行かないと分かってんだろうな、みたいな、御当主の真っ黒な空気が」


「お前は考えすぎだ。素直に受け取れ」


 俺に手紙を返すラグン様には見えてないらしい。俺には見えるのに。御当主の真っ黒な圧力的なものが。

 お嬢といいラグン様といい、御当主が大事にしてる人と俺みたいなものの差が激しい。いや捨て子だし当然だけど。


「行くんだろう?」


「はい。まさかこんな事になるとは想定外でしたけど、寧ろ、俺が一緒にいく理由がつけやすいんで、ちょっと楽です」


「そうだな。町人ならお前が一緒というのも難しい」


「ラグン様は、お嬢に貴族の嫁になってほしかったんですか?」


 御当主がお嬢やリラン様のパートナー探しをしてたのは知ってる。ラグン様だってお嬢やリラン様を妹のように思ってるのは昔からだ。御当主の動きを知れば絶対に関わる。

 御当主は貴族を薦めてたけど、ラグン様の意見はそういえば知らないと、今になって思い至る。


「暮らしぶりという点でならな。だがリーレイの性格上、今のままの生活が動きやすいだろうとも思う。貴族に嫁ぐならあれをやめなければ、下手をすれば悪意をばら撒かれかねない。相手に問題はないだろうと俺も父上も思っているが、事前に手を打っておかねば対処も難しい」


「馬も剣もこなす令嬢ですからねぇ」


「……だからあれほど、ティウィル公爵家の令嬢として慎めと言っていたのに」


 ラグン様が頭を抱えた。この人も苦労してるんだよ。


 ラグン様は別にお嬢の奔放が嫌なわけでも嫌いなわけでもない。ずっと見てきたから俺は何となくそれが分かるけど、当のお嬢は分かってない風だ。「怒られる…」ってちょっと前も頭を抱えてたくらいだし。

 ただこの人は、妹を大事にしてる人だから。


 いくらお嬢が、当主の姪で本筋とは分かれているとしても、その肩書に取り入りたい奴は多い。だからラグン様はお嬢に口酸っぱく言っていた。

 旦那様だって、今は身分を隠しているとはいえ、それがバレる日がずっと来ないとは言い切れない。御当主ならそうなったらすぐティウィル公爵家で保護するだろうし、そうなればお嬢やリラン様も同じになる。

 だからこそ、ラグン様は先を見据えていた。


 そして今、お嬢は貴族に嫁ごうとしてる。

 ……全くもって想定外の人の薦めで、だけど。


「ヴァン。もしもの時はリーレイを頼む」


「了解です」


 当然だ。俺はお嬢の護衛官。主の為に動いてこそ。


 辺境伯様がどういう人か全く分からんけれど、知るとお嬢が決めた以上はその邪魔をせず、お嬢を守る事にする。


 よし、と一人決めていると、ラグン様が力を抜いたようにソファに身を預けた。


「にしても、屋敷でもだらけていたお前がリーレイについて行くと自分から言い出すとは思わなかった」


「あー……俺もこうなる日が来るとは思ってませんでした。でもまぁ……あぁいう主も悪くないかなぁっと」


「……そうか」


 どこか穏やかで優しい声音で呟くラグン様を見るけれど、口角を上げて瞼を伏せていて、何を思っているのか分からない。


「お前がそう思い、そう決めたのなら、何を言うつもりもない。そうしろ。だから父上も何も言わないんだろう」


「……んじゃ、遠慮なく。――ん? 御当主から圧貰ってません?」


「考えすぎだ」


 いや。あると思う。

 ラグン様を見ても否定するように笑うのだから、俺は全く納得できない。


「ラグン様こそ、今大変じゃないです? 宰相閣下様」


「お前がそう呼ぶな」


 妹の事だけでなく仕事上の苦労もあるラグン様は、脱力するように息を吐いた。


 宰相に就いたばかりだけど、今は重要で大変な仕事をこなしてる。その基盤は全てラグン様の努力で成っているんだと、拾われてから一緒に勉強していた俺は知ってる。


「仕事自体は重要で慎重を要するが、苦労はさほどない。面倒なのは妬みと僻みと悪意だ。そちらの方が疲れる上、無駄にしかならない労力を費やされる」


「うわー。地位って恐い」


「お前が俺の右腕になってくれれば、そういう苦労は全部任せられたんだがな」


「あっはっは。さらっと武力行使させようとしないでくださいよ。昼寝もできない」


「そういうのがお前らしい」


 ラグン様は疲労を見せない笑みを浮かべて笑った。

 会うことが少なくなったとはいえ、成長して、地位や責務に追われて、見なくなった年相応の笑みだ。


 御当主が旦那様たちの護衛を考えなければ出会う事もなかった人だ。だけど、そんな未来があったのかもしれない。昼寝出来ないのは嫌だけど。


「俺が力になれることがあれば遠慮なく言って下さい。お嬢もきっと力になろうとするでしょうし、何くれ世話になった御恩もありますし」


 面倒も厄介も嫌いだ。だけどこれまで世話になったラグン様に力を貸すのは拒まない。それは俺の本心だ。

 ラグン様だって人間だ。一人では難しいこともあるだろう。俺が力になれるならそれは嬉しい事だと思う。


 そう思って言うと、不意に、ぽんっと頭に手が乗せられ、その手がわしわしと撫でるように動いた。

 思わぬ重さと感触に目を瞬く。


「お前のような弟が居て。妹が三人もいて、俺は幸せ者だな。国中で最も弟妹に恵まれている自信がある」


「そうですか……? というか、俺は血に繋がりもないんで弟と言われるようなものじゃ――」


「弟だ。俺がそう言うんだから弟だ」


 なんだその乱暴な理論は。だけどこう――嫌じゃない気もするから不思議だ。


 血筋に誇りをもつ貴族様。誰の子かも分からない平民の孤児。

 並べて、兄弟だなんて言っていい関係じゃない。他の貴族ならまず、絶対に言わないだろう。


 なのに、ラグン様も、スイ様も、同じことを言って、俺を受け入れる。頭の上で動いてる手のぬくもりが、どうにもこう……落ち着かない。


「……仕事のサボり方でもお教えしましょうか?」


「本を立てて寝ているのを隠す方法なら、子供の頃に飽きるほど見たぞ」


「いえ。立ちながら寝る方法です」


 俺が倉番仕事で身につけたバレないサボり方を白状すれば、ラグン様が声を上げて笑った。

 宰相なら。真面目なこの人なら。他者の目があれば咎めてくるところだ。


 だけど今は、笑ってる。


 そんな顔を見て、俺も笑ってしまった。






 ♢*♢*




「ヴァンには兄弟はいたのかな?」


 ふと、お嬢がそんな事を言ったのが聞こえて、俺は視線を向けた。


 今日のお嬢は仕事をしつつも、その休憩の合間に手紙を書いてる。あて先は多分、旦那様とかリラン様とか、ジークン様とかだろう。候補は他にも色々あるけど、それはお嬢がツェシャ領に来てできた縁ばかりだ。


「何です? いきなり」


「ううん。ラグン様に手紙を書いてるんだけど、前にラグン様からいただいた手紙にヴァンの事が書いてあったから。そう思って」


「ふーん。……少なくとも同じ孤児院にはいなかったんで、いないんじゃないです?」


 生まれた時から一緒だったらいたかもしれないけど、生憎と俺は一人だ。全く記憶にない。

 別に、両親の記憶がないとか、孤児院に捨てられてたとか。あんまり気にした事はない。周りはそんな子供ばっかりだったし。


 答えた俺にお嬢はその目をまっすぐ向けてきた。


「ラグン様がね、色々教えてくれたの。子供の頃のヴァンは家庭教師の目を盗んで勉強時間に寝てたとか。本を立てて隠れたけど実際はバレバレだったとか。課題を全然やらなかったとか。こっそり抜け出して後で凄く怒られたとか」


「なに話題にしてくれてんです? やめろや」


 お嬢が「えー」って不満な顔をしてるけど、話題にされてるこっちの身にもなってほしい。

 ってか、ラグン様もなに書いてんだ。


 呆れてため息を吐く俺に、それでもお嬢は笑みを見せた。


「でも、私もリランもスイ様も、ラグン様も、ヴァンを兄弟だと思ってるから、ヴァンにも兄弟はいる事になるね」


 そう言って、お嬢は笑った。

 王都にいた頃から変わらない、ラグン様やスイ様とも笑っていた時と同じ、その笑顔。


「そりゃどうも。ありがとうございます」


 礼を言った俺を見て、お嬢はなんだか嬉しそうに笑っていた。






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― 新着の感想 ―
[良い点] ヴァン大好きです!!ちょっと気怠げ感じも、らしくていい! そんなヴァンの昔の話、ずっとずっと読みたいと思ってました!やっときたー!って、楽しみです。 ラグン様も手のかかる弟妹を、すごく愛し…
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