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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
番外編

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日常話 久方の再会とお忍び観戦 その2

 ……正直に言って、私の心臓は口から飛び出そうである。

 私の隣では困っている様子だけど緊張はしていない様子のクリビア様、平然と慣れっこな様子のシルビ様とアカネ様。


「ハハッ。ケニスの奴はやはり少々衰えたな。しかしガドゥン相手にあぁものらりくらりと出来るのはアイツくらいか」


「ふふっ。旦那様は、正面からでは勝てないと、現役の頃からあぁでしたから。でもやはり年齢はあるかしら? ガドゥン様はお変わりないですわ」


「ガドゥンは今も現役同然で騎士の指導をしているからな。引退も夫人を想っての事。そうだろう?」


「まぁ……。私は見て分かりませんが、ガドゥン様は自分でも鈍くなってきていると、時折溢しておられますよ」


「あれで鈍い? ガドゥンの基準は分からんなぁ」


 ……シルビ様、アカネ様。なぜそう平然とお話ができるのですか。経験ですか?


 試合を観戦しながら優雅にお茶を飲む三人、シルビ様、アカネ様。そしてレイゲン陛下を見て、私は手が震えないか心配だ。


 試合をしようとなった直後、部屋の扉を開けてやって来たのは、まさかの国王陛下。

 当然驚いた。私もランサも、シャルドゥカ様もクリビア様も。……陛下だと分かって本気で目も心臓も飛び出るかと思った。


 それに引き換え、平然としていたのは年長の四人。


『……陛下。何やってんですか。城はどうしたんですか』


『陛下! お久しぶりです! あ。旅行の土産があるんですがいかがです?』


『ケニス! お前が来ていると知って駆けつけたんだ! お前ならきっとガドゥンに会おうとクンツェ辺境伯邸(ここ)にいるだろうと思ってな。……ん? 何だそれは。珍妙な人形か?』


 額に手を当て天を仰ぐガドゥン様の前で、ケニス様は陛下との再会をとても喜んでいる。……お二人とも、まず驚かないのはもう、流石としか言いようがない。

 ケニス様は土産袋から取り出した珍妙な人形を陛下に差し出し「これでも魔除けなんですよ? 海の向こうにある民族の――…」と説明を始めれば、陛下は楽しそうに聞いている。


 ……なんだろう。ローレン殿下とランサとシャルドゥカ様が重なって見えた気がした。


 ガドゥン様からだけでなく、現辺境伯の二人にも「城は? 護衛は?」と揃って問われた陛下はにこやかな笑みを浮かべてさらっと言った。


『お前達がいるだろう?』


 ……うん。やっぱり陛下はローレン殿下の御父君だ。妙なところで納得してしまった。


 そしてそのまま、陛下観戦の下、男性達の試合が始まった。

 遊んでいたヴァンとローラさん、ユーティ君とザオ君も遊びを止めて観戦する。四人揃って陛下の御来訪に目を剥いていた。


 私も緊張しつつも、貴重な機会でもある辺境伯の戦いを観戦する。

 ケニス様とガドゥン様の試合。騎士団で常に騎士達を指導している仕事故か、それとも元の実力か、ガドゥン様が優勢だ。


「ガドゥン様の一撃はかなり重いから……。ケニス様も無駄ない見事な身のこなしですが、体力的に厳しいかとお見受けします」


「そうだな」


「うーん……。それを見るとシャルドゥカ様はケニス様とは戦い方が違うな……。俊敏で身軽な動きと、ランサに似た一撃で仕留める戦い方。両方を取ってるような……」


「クンツェ辺境伯夫人。さすがよく見ている」


 ハッとなって見れば、陛下やシルビ様が私を見て笑みを浮かべていた。

 ……陛下の御前でなんという事を。思わず体が小さくなると陛下が笑って許して下さった。


「よいよい。冷静に事態を見られるということ。そして、そういうそなただからこそ、辺境騎士達を上手くまとめられたのだろう」


「いえ、そんなっ……」


「「はい。仰せの通りでございます」」


 エレンさんとローラさんが陛下の言葉を肯定すれば、「ほら」と陛下が笑う。

 ……なんだか、陛下に買いかぶられている気がする。


 とても落ち着かない私の隣では、クリビア様が小さく身を乗り出した。


「リーレイ様から見て誰が一番優勢かしら?」


「そうですね……」


 問われると考えてしまう私の後ろでは「お嬢って本当……」となんだか呆れてるような声が聞こえたり、クスリと笑う声が聞こえた気がするけれど、気のせいだろう。


「やはりガドゥン様でしょうか。ランサ様やシャルドゥカ様でも、なかなか勝つのは難しいように見えます。ガドゥン様は大ぶりな手も小ぶりな手も自在に使われますので、隙を詰めてもなかなか突くには至らなくて……」


 言っていると、ガドゥン様がシャルドゥカ様を倒した。

 陛下もアカネ様も笑みや笑いを混ぜて見つめている。


 ガドゥン様。すでに第一線を退かれた身であるとはいえ、実力は多少の衰えはあるとしても現役時代とはそう変わらないだろう。だからこそ、騎士団でも容赦なく鍛える事ができている。その指導には戦経験者故の実践的指導も含まれている。

 ガドゥン様にしかできない事だ。その実力を今なお発揮できるのはきっと、今も現役時代と変わらない鍛錬をしているだろうから。

 単純に、ランサやシャルドゥカ様では経験値と費やした年月が違う。


「ランサ様とシャルドゥカ様は拮抗しているように思います。どちらが勝ってもおかしくないかと……」


 ちらりとヴァンを見れば「そうですね」と頷いてくれた。

 隣ではエレンさんもローラさんもじっと試合を見ている。


 目の前ではランサとシャルドゥカ様が試合をしていて、からくもシャルドゥカ様が勝利した。二人もすでに何試合かしているから、少し体力不足が目立ってきている。

 父親の勝利にユーティ君とザオ君がパッと顔を明るくさせているのも微笑ましい。


 と、少し休憩をとっていたケニス様が、ランサとシャルドゥカ様に声をかけると、三人でガドゥン様に挑んでいった。

 私は思っていない展開に目を丸くするけれど、陛下は面白そうに笑いだす。


「あっ!? ケニスお前の仕業か!」


「はははっ。勝利の為の賢い作戦だと言ってくれ」


「どこがだ! ただずる賢いだけだろうが!」


 ケニス様が楽しそうだし、シャルドゥカ様も面白そうに笑っている。ランサはちょっと困った様子だけど楽しそうだ。


 そんな四人は試合なのか違うのか分からない遊びをすると、もうやめだと言わんばかりに私達の元へ戻って来た。


「お前に付き合うと碌な事にならねえ……」


「実に楽しいと思うんだがな? ねえ陛下」


「あぁ。とても面白いな。若い頃を思い出す」


「それは確かに。あの頃は楽しかったですねえ……。三人で騎士団で鍛錬してたら騎士団長に見つかって怒られたり」


 ……ランサも子供の頃の事で色々言ってたっけ。

 自分の事を思い出しているらしいランサも苦々しい顔だ。シャルドゥカ様はとても笑顔だけど。


「ここにいたんですか、父上」


 と、不意に聞こえた声。

 釣られるように見ると、屋敷の家令に案内されて二人の人物がやって来たところだった。

 顔を隠すようにやって来た二人は、そのフードを取り払う。すぐさま私達は立ち上がって礼をした。ただ、陛下だけは少し不貞腐れたような声を、やって来たその人物へ向ける。


「なんだ。もう見つかったか。お前が迎えに来たのか? ローレン」


「はい。数年振りにケニスが来ていると俺も先程聞きまして。丁度ラグンが陛下の執務室から出てくるところで。それはもう冷徹な表情に磨きがかかってましたよ」


「ラグンにバレたか……。これは後が怖いな」


「あはは。ラグンが「王都に捜索網を張ります」と、今にも近衛隊も騎士団も総動員させかねない勢いでしたので、すぐ戻られた方がいいかと」


 それは……そうなるだろう。一国の王がいなくなったら。ラグン様の苦労が垣間見えて何とも言えなくなる。

 陛下を迎えに来たローレン殿下。そしてその護衛である『共』のカルロさん。カルロさんは陛下のお忍びに頬が引き攣っているご様子だ。


 心なしかガドゥン様とランサが言わんこっちゃないと言いたげな顔をした。見ていたシャルドゥカ様もクリビア様もクスリと笑う。


「ケニス。久しぶりだな。元気そうで何よりだ」


「ローレン殿下、お久しぶりです。一層に頼もしくおなりのようで私も心置きなく旅行できるというもの」


「そうか? お前やガドゥンのために、俺も頑張らないとな」


「はははっ。お願いします」


 ケニス様はまるで昨日も会話をしたような空気で陛下や殿下と話をされる。その空気はシャルドゥカ様とよく似ている。

 だから、空気も軽くて明るい。


「父上」


「分かった。しかしな、ラグンの怒りを回避する方法を考え出してから向かわねば。――そうだ。クンツェ辺境伯夫人。いい案はないか?」


 突然振られて一瞬思考が放棄された。けれど必死に引き戻す。


 えーっと……。

 陛下の真剣……というか面白がっているような笑みと、殿下の似たような視線が目の前にある。

 ……これはあまり本気で回避したいと思っていないのでは? と思ってしまうけれど、陛下のお言葉に答える為に考える。……考えた結果を導き出すけれど参考になりそうなものが出てこない。


「……私もラグン様に叱られた事はあるのですが、その度に「やめません。ラグン様が仰ることもやります」と、打ち切るように言うしかなくて。ですので、言われる前に先手を打つのが効果的かと」


 言いながら昔を思い出す。

 令嬢教育をと言われ、でも馬も剣もこなす平民な私にそれはなかなか身に付かなくて、会う度にお小言をいただいていた。今では身に付いたものでラグン様も合格点をくれるけれど。なんだか懐かしい。


 言うと陛下は笑い、「ではそうしよう」と言って立ち上がった。それに従い私達も見送りの為立つ。


「では皆。楽しいひと時だった」


「我々もです。しかし陛下……お忍びは程々になさってください」


「分かっている。では、また夜会で会おう」


 そう言い、陛下と殿下は揃ってクンツェ辺境伯邸を後にした。


「緊張した……」


「そうか? リーレイは普段通りに見えたが」


 そう言ってランサが笑うから、少しムッとしてしまう。

 私はランサのように陛下と面識が多々あるわけじゃない。お会いして言葉を交わしたのもほんの数度。

 クリビア様も「私もそうだったわ」と頷いてくれた。この緊張は嫁同士で解り合えるものだった。






 後日。

 王家の夜会で陛下にご挨拶した。その折にこっそりお忍びの後のお話をしてくださって……


「夫人の先手作戦は功を奏したぞ」


 と、笑って教えて下さった。

 それは良かったと安堵しつつ、ラグン様にご挨拶すると……


「……先日、陛下の謝罪がいやに昔のお前に似て見えた。何かいらん事を言ったか?」


 と、まるで問い詰めるような視線をいただいた。

 安堵した瞬間に冷や汗だらだらになってしまった。


 ……誰か、この尋問から逃れる術を教えて欲しい。






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