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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
番外編

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日常話 久方の再会とお忍び観戦 その1

 王城での社交界に参加する為、ランサと一緒に王都のクンツェ辺境伯邸へやって来た。

 結婚式以来お会いする義両親は、変わらず快く出迎えてくれる。


 そして私たちは揃って、屋敷でゆったりとお茶の時間を過ごす事にした。

 穏やかで楽しい時間が過ぎていく中、シルビ様は思い出したように軽く手を打った。


「――そうそう。実はね、後でシーラット辺境伯様がいらっしゃるの」


「シャルドゥカ様がですか?」


 辺境伯家同士の繋がりは強く確かだ。同じ想いを抱き戦う同志だからこそ、当主達の友情も厚い。

 と私は思っているけれど、ランサにとってシャルドゥカ様は少々苦手な御方みたい。


 シャルドゥカ・シーラット辺境伯様。

 ランサと同じように『将軍』として相応しい腕前を持ち、多くの騎士から尊敬の念を受けている。そして美しいものが好きで、ランサのことをそう称する人。

 私から見ても良い友人だと思えるのだけど。


 ちらりと横目にランサを見ると、ランサはやっぱり渋面顔になっていた。

 それを見て、エレンさんもローラさんも笑っている。


「ローラさんは、シャルドゥカ様にお会いしたことは?」


「いえ。実はないんです。でも将軍のこんな顔見たの初めてで」


 思わぬものを見てローラさんも笑いを堪えるのに必死なご様子。

 部下にそんな顔をされ、ランサはまた眉を寄せた。


「ランサ。お前のそれ、もう反射だろう」


「……そうですね。父上は如何なんですか。ケニス殿はあぁではなかったと?」


「楽しみたがるのは似てるからな。俺も苦労した」


 そう言って肩を竦めるガドゥン様。親子は揃って似たような経験があるみたい。

 だけど揃って今も良き友人だ。互いの妻として傍でそれを見ているから私もシルビ様も笑みがこぼれた。


「ケニス様は前シーラット辺境伯様ですよね? どんな御方なのですか?」


「アイツか? アイツはまぁ――」


 誰よりもよく知るガドゥン様がお答えくださろうとした時、私の前でランサとガドゥン様の視線が動いた。


「久しいなガドゥン!」


 バタンッと大きな音をたて、あまり品が良いとは言えない来訪を告げる声が響いた。


 驚いて、思わず立ち上がって腰元に手が伸びる。……剣がなくても反射だ。

 ヴァン達も守ろうと動くけれど、ランサは平然とし、ガドゥン様は大きくため息を吐いた。


 開けられた扉の傍には、困ったような諦めに似たような顔をしている使用人達。

 そんな彼らに囲まれ、扉を開けたそのお人はニコリと笑みを浮かべていた。


 見覚えのない男性だ。ガドゥン様と似た年頃だろうけれど、白髪の髪に老いは感じない。品の良い穏やかな風貌をなさっている。その男性の傍には同じように見覚えのない女性。

 そして現辺境伯の一人であるシャルドゥカ様、クリビア様、お子様のユーティ君とザオ君が居た。


 突然の来訪者に、ガドゥン様がちらりと一瞥を向けた。


「お前、わざとだろう。うちの使用人を困らせるな」


「なに。数年振りの再会、感動を演出しようと思ってな」


「ねえよ。お前はいつもそう……」


 なんだか、ガドゥン様のご苦労が窺える。隣でシルビ様がクスリと喉を震わせた。


 お二人の気心知れたやり取りから、目の前のこの男性が前シーラット辺境伯様である事は解った。私もすぐに警戒を解くと、ランサはゆっくり立ち上がった。


「ケニス殿。お久しぶりです。ランサです」


「おぉ。見ぬ間にご立派になられたな。――そちらが奥方かな?」


「はい。妻のリーレイです」


「お初にお目にかかります、前シーラット辺境伯様。ランサ・クンツェ辺境伯の妻、リーレイ・クンツェと申します」


 まだ、この家名は名乗り慣れない。

 だけど隣のランサが自然と口を滑らかにしてくれる。


 ケニス様は私を見て笑みを浮かべてひとつ頷くと、自分も隣に女性を呼んだ。


「私はケニス。シャルドゥカの父です。こちらは妻のアカネ」


「お初にお目にかかります」


 すぐにシャルドゥカ様とクリビア様もやって来て、久方の再会を喜ぶ挨拶を交わす。

 そんな中、前辺境伯の奥方同士も再会を喜んでいた。


「シルビ様。お久しぶり」


「お久しぶり、アカネ様。――ふふっ。まさか世界旅行に行かれるなんて。あれからお会い出来なくて寂しかったの。お話したい事もお聞きしたい事も沢山だわ」


「私もお話したい事が沢山ありますの。見るのも初めてなものも沢山あって……。シャルドゥカからクンツェ辺境伯が御結婚されると聞いて驚いたの」


「私も最初はこのお話に驚いたの。だけどランサがとっても愛情深くて、私達もとっても安心で」


「まぁまぁ」


「「二人とも。とりあえず座りなさい」」


 互いの夫に窘められ、友人でもあるのだろう妻同士が顔を見合わせクスリと笑い、それに従う。

 話の内容に少し気恥ずかしさを感じていたから、皆様が腰を落ち着ける前に必死に頬の熱を冷ます。……ぱたぱたと仰ぐ姿をランサに見られてしまった。


 私達の傍にはシャルドゥカ様とクリビア様、ユーティ君とザオ君が座った。


「やぁ二人とも。結婚おめでとう」


「あぁ。夜会で会うと思ったんだが、わざわざ屋敷へ来るとは思わなかった」


「うん。父上がね。行ってみようって言い出して。それに……ユーティとザオがヴァンに会いたいって」


 思わぬ言葉にヴァンが「俺?」って首を傾げたようだった。父の言葉に二人は笑顔で頷いている。


「ヴァンさんと遊びたかったんです。だって、あんまり会えないから」


「追いかけっこしたい」


 二人の子供の言葉に、ヴァンは「えーっと…」と迷うような様子でランサを窺った。

 その気配にランサは口角を上げ、すぐに頷く。


「屋敷内なら問題ないが、中庭が安全だろう。数少ない機会にこうして来てくれたんだ。遊んであげたらどうだ?」


「……まぁ。んじゃやりますか」


「ローラ。お前も付き合ってやってくれ」


「はい」


 ランサの言葉にすぐに頷いたローラさんは、「遊ぶぞー」って部屋を出て行く三人をすぐに追いかけた。

 それを少し申し訳なさそうに見るのはクリビア様だ。


「申し訳ありません。リーレイ様がいらっしゃればヴァンさんもいるだろうと考えてあの子達……」


「いいえ。ヴァンが良い遊び相手になるなら喜んで。二人が喜んでくれれば何よりですし、ヴァンにもいい運動です」


「ふふっ。鍛錬したがらない人ですからね」


 思わずと言った様子でエレンさんも笑い、思い当たる事があるクリビア様も笑った。


「まさかヴァンがあそこまで懐かれるとはな……」


「屋敷でもずっと遊んでもらったり稽古してもらったりで、いつの間にか」


「あぁいう空気の人だからね。騎士よりずっと親しみを感じるんじゃないかな」


「かもしれません。ヴァンも子供に慣れてますし」


 ヴァンの事だからきっとすぐに「疲れたー」って根を上げるだろう。不満の声を出すユーティ君とザオ君が浮かんで、微笑ましくて笑みが浮かぶ。

 そんな私の傍でシャルドゥカ様がひとつ笑った。


「ユーティ。ランサに稽古をつけて欲しいんだよ。ほら。前に来た時は結局できなかっただろう?」


「……あぁ、そうか。そういえば時間があればと言ったが結局できなかったな。楽しみにしてくれていたからすまないことをした。……後でしても?」


「僕はいいよ。ついでに僕とも一手どう?」


「……そうだな。やるか」


 滅多と出来ない試合にランサも考えつつも了承した。その後ろではエレンさんもどこか楽しみなようで笑みを浮かべる。私も楽しみだ。

 ワクワクしていると、クリビア様にクスリと笑われてしまった。


「ほぉ……。ガドゥン。私達もどうだ?」


「ハッ! 俺が勝つのが目に見えてるだろ。旅行で腕が鈍ってんじゃねえか?」


「うーん。否めない。だが鍛錬は欠かしていない。まぁ……現役時代もお前に勝てたことがないからな。勝てるとは言わない」


「ほら見ろ」


「しかし、お前の義娘は面白い方なようだ。私が来た時のあれは……剣を使うのか?」


「あぁ。王都こっちに来た時は俺も手合わせしてる」


 シャルドゥカ様とクリビア様と話をしていると、いきなりガドゥン様の方から笑い声が聞こえて、思わず私達は揃って視線を向けた。

 アカネ様も驚いたようなお顔で、シルビ様は笑みを浮かべて、ガドゥン様はにやりと口端を上げて。ケニス様はお腹を抱えて笑って。


 ……なぜか、私を見ている。


 何故? なんだか居心地悪い気持ちでいると、シャルドゥカ様が困ったようなため息を吐いた。


「父上。なんだか楽しいお話をしてるようだね」


「まぁな。――よし。良い機会だ。これから試合をしようか」


 なぜ急に? 突然の言葉に私は瞬くしかない。

 シャルドゥカ様は慣れたご様子。ランサも少し驚いているようで、ガドゥン様は呆れたようなため息を吐いていた。


「僕はいいよ」


「どうせ言っても止めねえんだろう」


 シャルドゥカ様とガドゥン様が賛同する中、私は思わずランサを見る。

 ランサはどこか困ったような顔をしていたけれど、自分だけやらないというわけにもいかず、やれやれと肩を竦めて了承した。


「その試合、私も見せてもらおう!」


 バンッと、先程同様に音をたてて扉が開けられた。






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