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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
番外編

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日常話 直属隊騎士の恋愛事情

 リーレイの専属護衛は普段からヴァンが担っている。

 しかし、社交界などで外へ出た時には同性である方がいいこともあると、俺は直属隊の女性騎士から護衛をつけることを決めていた。それはこれまでの経験からエレンが候補者として挙がっていたが、長期休暇から復帰した者もいることで、改めて選出しなおす事にした。

 と言っても、ほぼエレンで確実だった。


 候補に挙がったのはエレンとローラだ。

 ローラは仕事がしたい一心で名乗り出たのだが、当初、そんなローラには俺も怪訝と首を捻るしかなかった。

 俺がいない間にリーレイとの関係を構築していたのだろうか……? そう思ったが、そうではないとすぐに分かった。


 失恋を理由にされるとは思っていなかったが、リーレイが認めたので俺に言うことはない。


 辺境伯直属隊において、特に女性騎士は、好意を寄せた相手にいざ告白したとしてもフラれる事や、交際が始まっても破談となる、という事が少なくない。隊内においても経験者は決して少なくないだろうと思われる。

 理由は単純なのだが、俺はこれに関して口出しできない。






「――というわけで。いきなりで申し訳ありませんが、明日、休暇をいただきたく」


「分かった。そういう事ならむしろ、今日は緊急が起こらなければ定時より早く帰れ」


「ありがとうございます」


 俺の前で頭を下げるシャルロッテに、俺は長期休暇に入る前の彼女を思い出す。

 シャルロッテが長期休暇を取得したのはリーレイがツェシャ領へ来るよりずっと前だった。その頃に比べればやはり雰囲気は変わったかもしれない。

 そう思うが、その理由は俺としても好ましい。


「にしても、やはり子の世話は大変だな。風邪とはいえ心配だろう。もうしばらく休暇を取っても構わないが……」


「いえ。幸い私の両親も夫の両親も健在ですし、夫が任せろと言ってくれるので」


 照れくさそうに、だが嬉しそうに言う様は、彼女の周囲には理解ある人が多いという事。俺も嬉しい事だ。


 シャルロッテの長期休暇の理由は懐妊と子育てのためだった。生まれた子供は男の子で、一歳になったそうだ。

 領主としても団長としても拒むなどあり得ない理由なので、希望通りの休暇を与えた。しかしまさか残る休暇を返上して駆けつけてくれるとは思わなかった。

 これもまた、彼女の夫や両親の存在が大きい。


「領主としても団長としても、必要なことがあれば言ってくれ。俺では気づけない事もあるだろう」


「ありがとうございます。ですが……将軍もきっと、遠からず子の成長に驚いたり頭を悩ませる事になると思いますよ」


 そう言って笑う彼女に、俺は一瞬意味を理解できず、しかしすぐに頬が緩んだ。

 リーレイと結婚した今、その未来は遠からず訪れるのだろう。楽しみではある。しかし、想像ができないのが正直なところだ。


「そうだな……。そうなればお前を頼る事も増えるだろう。頼む」


「私で宜しければ」


 ……そうなった時、俺は何ができるだろうか。

 考えても答えは出そうにない。ただ、リーレイに似た女の子が駆けまわる光景を想像して、内心で苦笑した。

 辺境伯の娘らしいといえるのかもしれないが、あまり二人揃って駆けられると俺の心配が絶えない。身が持たない。いずれ娘の夫になるかもしれない男も苦労するだろう。

 想像しても困ってしまうのだから、実現すればどうなるか……。


「俺もお前も、理解ある伴侶に出逢えて何よりだ」


「そうですね。なにせ直属隊女性騎士は、恋愛が難しいですから」


 クスリと笑って放たれた言葉に俺も肩を竦めた。


 辺境伯直属隊女性騎士の中で結婚している女性は少ない。ほとんどが独身者だ。

 直属隊騎士同士の恋愛というものの方が、よくある話かもしれない。しかしこれも、仲間や同僚という意識から多いわけではないし、その情を仕事に持ち込めばヴィルドが容赦なく咎める。規律を守る上でそれは大事なことだ。


 その中、シャルロッテの夫は騎士ではなく、町の男性だ。

 直属隊の中では数少ない既婚者であり、女性騎士から言えば「貴重な人物」だそうだ。


 そう言う理由も。既婚者が少ない事も。その理由は分かっている。


「ローラはその点、上手くいかなかったようだが……」


「こればかりは個人の許容にもよりますから……」


 そう言いながらシャルロッテも肩を竦め、俺もため息が出てしまう。


「エレンも結婚しないのかと、両親から手紙が来るようで。その度にしかめっ面です」


「あぁ……。エレンは結婚回避のためにここへ来たからな。認めてくれているようだが、やはり独り身なのは心配なんだろう」


 元は近くの町の長の息子との結婚を回避する為騎士になったようなものだ。今は文句ない直属隊騎士なのだが、危険の最前線で剣を持って戦っているという娘に、やはり両親は心配なようだ。

 エレンも休みには帰っているようだし、偶にくる手紙にも返事は書いてあるようだが、本人に結婚の意思は見えない。


 女性騎士にそういった両親の心配は付き物だ。危険であるという点において男性も変わりないが、だからこそ騎士になる前にきちんと話し合えと伝えるようにしてある。


「あ。いたいた。こんにちはー」


 不意に聞こえた間延びした声に俺とシャルロッテの視線が向く。

 そこには、のんびりこちらを見るヴァンが居た。開け放ってある扉からこちらを見てコテンと首を傾げる。


「お嬢が来たんでご挨拶に。えーっと……御当主報告案件?」


「全く違う。部下の休暇申請を受理していただけだ」


「成程成程。そっか。ランサ様ならそういう手が使えて――」


「俺はお前の身を固めさせるのもいいかと思っている」


「すみませんでした」


 それほど嫌か。そう思えばおかしなもので、シャルロッテも思わず笑っている。

 あっさり謝罪したヴァンが俺の前へ来る。


「リーレイは?」


「今、下で騎士と話してます。すぐ顔出しに来ると思いますよ」


 リーレイの専属護衛官は普段、気だるそうな面倒がりな空気を出している。それが通常通りの素のヴァンなのだが、これが違う鋭さを持っている事を俺も辺境騎士も知っている。


 と、不意に先程までシャルロッテと話していた事がよぎった。

 ……これはもしかすると。そう思った予感を持ってヴァンを見れば、何やらシャルロッテと話していた目が俺を見る。


「ヴァン。例えば、お前に何か身を固めなければならない事態が生じたとしよう」


「ん? 何で? いや、うん……まぁいいや。はい」


「お前が相手に求めるものは、何かあるか?」


 俺の突然の問いに、ヴァンがキョトンとした顔で首を傾げた。

 その隣でシャルロッテもヴァンを見る。興味ではなく、何か察したような視線を向けていた。


 首を傾げたヴァンだが、その答えは間を置かず放たれた。


「俺はお嬢の護衛です。それが絶対で最優先事項なんで。誰が相手でもどんな状況でも、俺が向かう先は決まってます」


 至極当然と放たれた言葉に、俺はやはりという想いを覚えた。


 俺に従い、ついて来る直属隊騎士。どんな時でも俺と俺の大事なもののために駆けつけ、守り、国境を預かる役目を全うする者達。

 リーレイに従い、その命にのみ従い、その身を護る事を最優先させる、優秀な護衛官。

 つまるところ、どちらも似た者同士なのだ。


「なら、相手の女性がお前になど目もくれず優先させたいものがあった場合、どうする?」


「いいんじゃないです? 俺も人の事言えないですし、あんまりこう……構ってってベタベタされるの嫌いなんで」


 成程。となるとやはり、コイツと辺境騎士は相性がいいかもしれない。

 が、ローラのように平然とすげなく断るのもこの男だ。立場よりもなにより、個人の想いが重要なのは変わらない。


「それなら、直属隊女性騎士はどうでしょう?」


「あ。ローラさんならお断りしましたんで。ってか、こういう話はお嬢にしないでください。絶対気に病むんで」


「分かった」


 リーレイの事だ。ヴァンの心が愛情より自分を選ぶと知れば、いつかできるかもしれない相手の事を思い気にするだろう。

 俺もヴァンと同じだ。そしてリーレイもまた、その決断を経験している。


 自分が選ぶ事ならばいい。天秤に自分が載っていても、逆に載る事の重要性を理解していれば納得もできる。

 だがリーレイは、自分に重きが置かれ、選ぶ者自身の幸せに影響するかもしれないとなると、割り切れはしないだろう。


 あぁそうか……。だからヴァンは自分が身を固める事を考えていないのか。

 これは直属隊女性騎士でも同じ者は少なくないだろう。そしてローラとは違う。


 こればかりは個人の問題だ。俺がどうこうできることではない。

 もしかすると、もしかする事態も起こるかもしれない。そうなった時が楽しみだ。


 一人笑みが浮かんでいると、開け放たれた扉からリーレイが顔を覗かせた。


「ランサ。シャルロッテさん。こんにちは」


「こんにちは、リーレイ様」


「すみません。もしかしてお話し中でしたか?」


「いえ。丁度終わったところです」


 シャルロッテの言葉にリーレイがホッとしたような顔をする。そして執務室に入って来ると己の護衛官を見た。


「ヴァン。バールートさんが手合わせしたいって」


「ヤです」


「うん、言うと思った。私、今から手合わせするんだけど来る?」


「えー。俺が行って誘われません?」


「大丈夫。断るだろうって言ってあるから」


「さすがお嬢。いざって時は逃げるんでお願いします」


 いつも通りのヴァンにリーレイも慣れたように笑った。

 そんな二人から確かに感じられる信頼の絆。俺も向けられ、感じるものと同じだ。


 思うのはシャルロッテも同じなのか、俺も二人を見て自然と笑みがこぼれた。






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