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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
番外編

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後日談 労いましょう、祝いましょう その3

 ロンザさんの剣は傍目に見ても重たそうな一撃だった。受けたランサも疲労の所為か、剣が揺れて腕が震えている。

 そんな一撃をすぐにいなし、ランサは反撃に出る。そこから打ち合いが始まった。

 ランサが一度距離をとっても、ロンザさんは休む暇を与えないというようにすぐに距離を詰める。そんな相手にランサもキッと鋭い視線を向けすぐに剣を放つ。


 剣の軌道を逸らし、すぐさま反撃する。目で追うのも必死になる試合を、自然と騎士達も固唾を呑んで見守っている。


 大振りで放たれた剣を皮一枚で避け、ランサが懐に入り込む。鋭く放たれた一撃をロンザさんは剣の柄で弾き飛ばした。


「うっわ」


 そんな試合にヴァンの表情も引き攣っている。


 ランサは試合中一切集中を切らさない。それはとても大変な事で、精神的な疲労が大きい。

 額に汗が滲んで、握力がなくなっていく。ふとした瞬間に集中が切れればすぐに防戦となりかねない。呼吸ひとつで隙が生まれる状況でも、ランサはそれを感じさせない。

 それはすごい事だけど、とても心配だ。


 ランサとロンザさんの気迫が一帯を占める。宴の賑わいも消えてしまって、鍛錬での試合とも引けを取らない空気になっていく。

 辺境騎士団において、訓練であっても試合は常に真剣で気迫に満ちている。常に最前線であるこの地は、気を抜けば命に関わる。


 ランサも同じだ。騎士達に鍛錬を課しながら己も鍛える。

 生きて帰れと騎士達に伝えると同じように、ランサも生きて帰る為に。


 だけど、やっぱり十人目の相手となると心配になるのは当然で。

 ――私の心配は的中した。


 集中していたランサの目に汗が入り、僅かその目が細められたその些細な隙をロンザさんが死角をついて斬り込んだ。

 半瞬遅れたランサが対処した時には、ロンザさんの剣がランサの胸元に添えられた。


「勝者、ロンザ隊長!」


「「……うおぉぉ!」」


「すげー!」


 勝利宣言によってぷつりと切れた緊張の糸に、皆さんも歓喜の声を上げる。

 ロンザさんもそれに応えるように拳を空へ突き上げた。


「喜べ独身共ぉ!」


「「おぉぉ!」」


 ……なんだか、少々後退りたくなる。

 喜ぶ皆さんに気圧されるように傍を離れ、私はいそいそと試合を終えたランサの元へ向かった。


 さすがに疲れたのか、ランサは地面に座り込んでいた。まだ肩で息をしていて呼吸が落ち着いていない。汗が流れて疲労がよく分かる。


「ランサ。お疲れ様」


「あぁ……。さすがに……疲れた」


 いくら『闘将』でも限界はある。休みなしに試合を続けるのは大変だ。

 ランサははぁっと大きく息を吐いて騎士達へ視線を向けた。


「あいつら……喜びすぎだろう。僻みめ」


「ふふっ。でも、これで七日の休みがもぎ取れたね」


「そうだな。思う存分リーレイと居たい」


 嬉しそうに笑みを浮かべて言われると、私も嬉しくなってしまう。

 持っていた手巾でランサの汗を拭っていると、勝利に笑うロンザさんが悠々とやって来る。


「その疲労であそこまでやれるのが流石です」


「俺の十日の休暇を奪ってよく言う」


「そう言うなら独身者共なんとかしてくださいよ」


「個人の恋愛なら応援はする。以上」


 素っ気ない返答にもロンザさんは笑う。私も苦笑した。

 いくら上官とはいえ部下の結婚相手まで世話はできない。個人の感情が大事なものだから。


「宴は続きますよ。動けますか?」


「あぁ……。後はリーレイに食べさせてもらおう」


「えっ!?」


「独身者に恨まれますよ……」


 悪いお顔なランサにロンザさんも頬を引き攣らせていた。

 ……さすがに、皆さんの前でそれはできないかな。ヴィルドさんに「風紀を乱さないでください」って言われそうだ。やめておこう。


 ここは砦。常に国を守る最前線。

 これ、大事。






 宴は終始楽しく、賑やかに進んで、無事に終了した。

 最中には騎士の皆さんも交代で参加したり見張りに戻ったりして、多くの方が参加してくれた。


 そして騎士の皆さんがそれからも楽しみにしていた、ランサとの試合。

 宴の余興だけでなく、ランサは約束通り希望する騎士達全員と行ったそうだ。

 宴の余興と同様に行い、やはり終盤にはランサに勝つ者もいたりいなかったり……。だけどやっぱり皆さんが狙うのは序盤の試合だったそう。


『勝ちたいですけどっ……! でもやっぱり全力が良いです!』


 って、口を揃えて言っていたらしい。ランサが疲れ切った様子で教えてくれた。


 だけど全体勝利数で言えば、やはりランサが飛びぬけていた。結果――……


『馬鹿ですか? こんな休み認められるわけないでしょう』


 ぴしゃりと切り捨てるヴィルドさんの一声でランサの勝利数のほとんどは消去されたそうだ。……これは仕方ない。『将軍』の休暇が超長期休暇になってしまう。ランサは年単位で消化していくつもりだったみたいだけど補佐官が容赦なく消したそうだ。


 必然、新婚生活はこれまでと変わらないものになった。ランサは少々不満そうだったけど、私は少しホッとした。

 ……良かった。ヴィルドさんはきっと最初から消去する気だったんだろう。じゃなきゃこんな勝利景品を『将軍』にまで認めない。


「皆さん、本当にランサとの試合が好きなんだね」


「俺も普段からもっと相手にできればいいんだがな。なかなかできない」


 ランサは忙しい。『将軍』としても、組織の長としても、領主としても。

 それでも日々の表情に疲労や落胆は見えない。いつもまっすぐで堂々としている。


 そんな表情が好きだ。

 私も頑張ろうと思えるから。


 笑みが浮かんでいると、ランサがふと思い出したようにヴァンを見た。


「バールート達が言っていたぞ。ヴァンとはしないのかと」


「結構です。ってか俺、辺境騎士じゃないんで」


「だがお前も、辺境騎士団ができない部分を尽力してくれた。褒美として何か希望はあるか?」


「お嬢が大人しくなって昼寝が出来る時間がほしいです」


「こら」


 平然と言ってくれる護衛を叱るけれど、当人がけろりとして、ランサは笑う。そして徐に腰を上げた。


 屋敷の庭には風もなく、咲いている花も色鮮やかに、緑も新しい芽を出している。

 太陽の光の下で、ランサは私を見て微笑んだ。


「では、これからヴァンに昼寝の時間を与え、リーレイには約束通り、弓を教えよう」


「! うんっ!」


 手を差し出すランサに私も手を伸ばした。それを見るヴァンは微かに口角を上げ、ひらりと手を振った。


「んじゃ、お嬢お願いします。何かあれば呼んでください」


 ヴァンに頷いて、私はランサと一緒に歩き出した。


 色々な事があって、戻って来た平穏。当たり前ではなくて、突如として消えるかもしれない日々。

 だけど、どんな時でも、この手があれば。このぬくもりがあれば。


 この人が一緒なら、私は何があっても駆けられる。

 同じものを背負い。その想いを守りたいから。


 ランサの手をぎゅっと握ると、同じ力で握り返してくれた。






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