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駆ける令嬢と辺境の闘将~貴方の事を知るためにここへ来ました~  作者: 秋月
番外編

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後日談 労いましょう、祝いましょう その2

「んじゃそろそろ始めましょう! ランサ様と騎士の試合!」


 バールートの場を盛り上げる声に騎士達も沸き立つ。


 宴が始まり、俺も騎士達へ声をかけたところだ。丁度いい。

 しかし、盛り上がりを見ているとどうにも、困るような喜ばしいような、言い表し難い感情を抱く。


 かつてのカランサ国との戦の折は、俺はただの最前線の将だった。だからこそ騎士達の目に重圧を感じる事もあった。

 それを殺し、臆することなく駆ける。気弱で臆していては将など務まらない。戦場になどいられない。


 その時も騎士達は俺の指示に従ってくれた。上に父上という存在があったからでもあったが、中には今の俺の直属隊騎士もいた。


『将軍』と騎士を繋ぎ、組織として成り立たせるものは何なのか――

 答えは分からない。だが少なくとも、父上はそれを「信頼」だとしていたように思う。


 信頼を得るというのは難しい。

 だが、信頼が必要だというのは幼い頃から知っている。


 俺がその御代の力になると決めた主君が頭によぎる。


 レイゲン陛下は父上の事を信頼している事から、俺の事を見守ってくれているし、辺境領を俺に任せてくれている。そして、次代のためにと、ローレン殿下とよく交流させてくれた。

 ローレン殿下と出会った頃はまだ子供で、役目さえ、俺には背負えるものでもないと思っていた時期もあった。成長しても、役目を果たそうとただただ精一杯だった。

 レイゲン陛下とローレン殿下が俺を信頼してくれる事は嬉しいと思うし、身が引き締まる。わざと貴族の目を厳しくさせようと、じわりと動きを狭められても、その想いは変わらない。


 信頼していただけている。それは感じるし、それが大事なのだと理解もする。


 辺境騎士団においても信頼は大切だ。いざとなれば前線で戦う仲間なのだから。そこに歪みがあっては全体に関わる。


 爵位を継ぎ、『将軍』を継ぎ、考えた事もある。

 信頼を築くにはどうすればいいのか。俺は信頼を受けるためにすべき事が分からなかった。


 だから騎士達を見て。その生活も耳に入れて。『将軍』としてだけでなく『領主』としても出来ることを考えた。

 俺はただ、俺にできることをするしか浮かばなかった。


 よき『将軍』であれているのか。よき『領主』であれているのか。信頼を得られているのか。

 その答えの一つをくれたのも、リーレイかもしれない。


 俺を慰労会の出し物にしてくれたリーレイを見れば、リーレイはどこかワクワクしているような目で俺を見ていた。


「……リーレイ。楽しんでくれているか?」


「勿論っ! 皆さんの労いもできて、お祝いまでもらってるんだもの」


「では、俺が全員に勝てばもっと嬉しいか?」


「……嬉しいけど、無理はしないでね?」


 輝かせていた表情に少しだけ心配を見せるが、まだワクワクは消えていない。

 そんな様子に笑いながら、俺はリーレイを引き寄せ額に口付けを贈った。


「っ、ランっ――」


「分かった。では行ってくる。応援してくれ」


 周囲の騎士から「熱いですねえ」「見せつけないで目に毒!」「こらーイチャイチャするな」と揶揄いの言葉が飛び、リーレイが頬を染めて視線を彷徨わせた。頬に手を当て「すみません……」と小さな声が謝っているが「え。いつもの事ですけど?」とヴァンに言われさらに俯いた。

 そんな様子も可愛いが、俺は余興会場へ向かう事にする。


 試合会場と言っても鍛錬場の中央というだけで、何も特別なものはない。使うのは刃を潰した剣だ。一応は祝いの席なので真剣は使わない事にした。これは今日以外でも同様とする。

 それを受け取り俺は会場に立つ。


「では、宴の余興を始めよう。事前に決めた通り相手にするのは十人だ。それ以外の者も後日鍛錬の時間で同様の試合を行う。試合は制限時間を設け、その間に一打を添えた方の勝利とする」


「景品はありますか!?」


「勝者には一日の休暇。敗者は勝者の休日を補ってもらう。これも全試合共通だ」


 実に分かりやすい。休暇か仕事が手にできるというわけだ。

 辺境騎士団が担うのは重要な仕事なので、時には休日にも呼び出される事が稀にある。元より騎士達の休暇も大切にするよう勤務させているが、それでもやはり休暇は心を解放する良い機会になる。恋人がいる者は会いにいけるし、家族に会ったり買い物に行ったり鍛錬をしたりと、使い方はそれぞれだ。

 この仕事を嫌々勤めている者はいない。体を休める日もまた、この仕事には重要で必要なことだ。


 予想通り、騎士達は「しゃあっ!」とやる気を見せる。

 そうだろうとも。俺も同じなのだから。自然と口角が上がる俺に気づいたセデクが、何やら察した様子で沸き立つ騎士達を宥めた。


「どうしたんです? セデクさん」


「――お前達、よく考えてもみろ。ランサ様は新婚だろう」


「はい。今更な気がしますけど、そうです」


「新婚は特に……嫁との時間が欲しいよな?」


「…………あ」


「そういうわけだ。ランサ様に勝つのは難しいぞ」


 がばりと騎士達が俺を見るが、俺も口角が上がったまま軽く剣を振った。使い慣れた剣だ。手に馴染む感覚は俺の動きに違和感を与える事がない。実によく動けるだろう。


「さあ。俺に蜜月の時間を差し出してくれる、心優しい部下は誰だ?」


「やだランサ様本気!」


「これ以上幸せ見せつけられて堪るかあ!」


「「そうだそうだ! お前ら頑張れえ!」」


「他人事っ……!」


 視界でリーレイが唖然として、そして顔を真っ赤にさせたのが見えた。傍には女性騎士が多くいて、何やら言葉をかけられている。エレンやローラも笑っていて楽し気にも見える。


 直属隊の中には恋人や配偶者がいる者もいるが、全体の半分にも満たない。その少ない中を多く占めるのは男性騎士だ。女性騎士は少ない。

 それには理由がある。……この理由に関し、俺がどうと言えるものではないので、毎度失恋した直属隊女性騎士を見て、かける言葉には迷う。つい先日のローラもそうだった。


「よっしゃあ! やるぞ!」


「「おー!」」


「ランサ様に勝ってやるぞぉぉ!」


「「おぉー!」」


 ……俺打倒を掲げ騎士達が一致団結している。良い事なのだが少々複雑になってしまうのは反射的なものだろうか。

 団結する騎士達を見て、完全に他人事なヴァンが腹を抱えてケラケラと笑っている。


 騎士達に背を押され、まずは国境警備隊騎士が一人出てくる。

 互いに剣を構えればスッと会場が鎮まった。これは集中力を高める騎士の為のものだ。


 そして、互いにダッと地を蹴った。






 ♦*♦*




 宴の余興として始まったランサと騎士の試合。


 まずは国境警備隊の騎士との試合だ。騎士は迷いも怯みもなくランサに挑んでいく。互いの剣がぶつかり合い金属音が響く。

 騎士の横殴りの剣を姿勢を低くして避け、すぐさま剣を振り上げる。それも素早く受け止める。同時にランサが一歩前に踏み出し、騎士の体が僅か後ろに下がる。

 それを見逃さずランサが剣を捻った。また打ち合いが始まる。


 国境警備隊騎士も強者だ。互いの目は冷静に相手を見て、剣筋を見極めているように見える。

 だけどやはり、ランサの方が落ち着いているように見えるのはその動きにまだ軽さを感じるからかもしれない。


 そして長いような短いような時間の後、ランサが勝利を収めた。

 騎士達から歓喜や落胆の声が上がりながらも、次の騎士が交代だと手を打って代わる。

 そしてすぐ、ランサと打ち合いが始まった。


「うわー。ランサ様大変」


「うん……」


「それさせたのもお嬢ですけど」


「うっ……」


 そう言われると胸に刺さる。だけど多分、ランサも騎士達を労う為ならと思ったから引き受けたんだと思う。

 本当に出来ないならランサは引き受けない。


「ま。お嬢が参戦しないだけマシですね」


「したかったけど……ランサが嫌なら無理は言わないもの」


「リーレイ様、本当に将軍と試合するつもりだったんですか?」


「ふふっ」


 ローラさんに驚かれ、エレンさんに笑われる。そういう反応をされると何とも言えなくなってしまう。


 この宴を機に、復帰した方々と交流を深め、これまで交流している騎士とも話をする。皆さん気さくに話しかけてくれるからとても嬉しい。

 ……なんだか、もうすでに結婚してただろう空気が出されて気恥ずかしいけど。


 皆さんとお喋りをしながらランサの試合を観戦してしばらく、ランサが負ける事無く七人抜きをした頃から、少し心配になってきた。

 さすがのランサも肩で息をしている。戦闘動作はブレていないけれど、こなしていく体力は削られている。


 もし怪我でもしたらと思うとハラハラしてしまう。

 ランサは強い。その試合は私にとってとても楽しみなものだけど、とにかく無理はして欲しくない。


 九人目の相手の剣が地面に振り下ろされた時、それを靴で踏みつけ、ランサの剣が相手を狙う。相手はすぐに身をひねり蹴りを放つ。

 それを避けたランサの剣と、構え直した相手の剣がぶつかり、時間切れが宣言された。


「時間切れ。それまで!」


 宣言と同時にランサが大きく息を吐いた。そして滲む汗を拭い騎士を見る。


「今のはまずかった。よく動いたな」


「いえ! 常に冷静にあるようにと心がけていますが、まだまだです!」


 騎士の言葉にランサも疲労が滲みながらも笑みを浮かべた。

 額の汗を拭い、握る剣を逆の手に持ちかえる。さすがに腕が少し震えているように見えた。無理もない。


「ヴァンなら何人抜きできそう?」


「お嬢、俺はそこまで超人じゃないです。辺境騎士なら精々三か四人ですかね」


 それを、ランサは倍以上している。そろそろ限界かもしれない。疲労は集中を阻害して、思考がついてこない。

 五人を超えたくらいから決着に時間がかかっているし、時間切れが出ている。それに明らかに疲労している。最初は後を考えて早期決着をつけていたんだろうと今なら分かる。

 だけど、温存していた体力も底を尽く。そんなところで――……


「それじゃあ一手お願いします。ランサ様」


 相手は国境警備隊隊長であるロンザさん。さすがにランサも表情が歪んだ。


「俺も独身騎士達の期待を背負ってるんで、負けるわけにはいきませんよ」


「僻むな。上官の願いを聞き入れようと思わないのか?」


「はっはっ。俺はいつだってランサ様のお幸せを見守ってますよ。それとこれとはちょっと別でして」


 ニヤリと意地悪な笑みを浮かべるロンザさんにランサの顔はまた歪む。

 そして両者は衝突した。






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